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相続登記のススメ(法律の豆知識Vol.1)

 相続登記が法律上の義務となり、これを怠ると10万円以下の過料の対象になりますが、本当に考えなければいけない問題は、相続登記をしないで放置したときのリスクなんです!
 今回は、相続登記が義務となった経緯、その問題点を一般市民の目線で解説いたします。
 なお、相続登記の申請方法などにつきましては、次号でご紹介します。


1 なぜ相続登記が義務になったのか?

 令和6年4月1日から、相続登記をすることが法律上の義務となり、正当な理由なく期限内(不動産を相続したことを知った日から3年以内)に相続登記をしないと、10万円以下の過料の対象となりました。

 なぜ義務となったのか?
 実は、日本全国で「所有者不明土地」が増加しているからなんです。
 自然災害の発生後に、被災地の復旧復興のための公共事業が行われますが、所有者不明土地があると工事を進めることができません。

 所有者不明土地が日本全国で拡大している原因としましては、相続登記や所有者の住所変更の登記がされずに長年放置されているためといわれています。

 そして、国土交通省などの調査によると、2016年時点で約410万ヘクタールが所有者不明土地となっていると推計されていましたが、これから何ら対策を講じなければ、2040年には約720万ヘクタールにまで拡大すると予想されています。
※ 九州本島が約367万ヘクタール、北海道が約780万ヘクタール

2 義務化の内容

⑴ 法律の規定

 相続が発生し、不動産を相続したことを知った日から3年以内に、相続登記をしなければなりません(不動産登記法第76条の2第1項)。

 また、民法第900条及び第901条の規定により算定された相続分(法定相続分)により相続登記がされ、その後、相続人全員により遺産分割を行って異なる割合により相続することが決まったときも、その遺産分割の日から3年以内に相続登記をしなければなりません(不動産登記法第76条の2第2項)。

 そして、正当な理由がないのに相続登記の申請を怠ると、10万円以下の過料に処される可能性があります(不動産登記法第164条)。
※ 過料とは、法律で定められた行政手続の義務違反に対する罰則です。刑事事件とは異なり、前科にはなりません。

【解説】
 相続が発生しても、どこに、どれくらいの相続財産があるのか分からず、借金などのマイナス財産がある場合も想定されますから、すべての相続財産を把握するのに時間を要することがあります。
 そういったことから「3年以内に相続登記をしなければならない」というのは、「親族が亡くなった日」からではなく、「相続人が、相続により不動産を取得したことを具体的に認識した日」から起算して3年以内という運用になります。
 ただ、相続放棄の熟慮期間が3か月であるということを考えますと、なるべく早く親族間での協議を行うことが好ましいといえます。 

⑵ いきなり過料が請求されるの?

 不動産登記法第164条では、「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する。」と定められています。

 つまり、相続登記を期限内に申請しなければ過料の対象になりますが、「正当な理由」があれば過料は課されないということです。

 もう一つ重要なのは、過料の手続では、登記官が相続登記が未了であることを職務上知り得たときは、相続登記の申請をするよう催告がされます。この催告にも応じないときに過料の対象となりますので、その催告に応じて相続登記をすれば、過料に処せられることはありません。

 国(法務省)は、相続登記を国民の義務としましたが、所有者不明土地の発生を防止するためであり、過料に処することを目的とするものではありません。
 したがいまして、相続登記の申請期限が過ぎたとしても、自ら相続登記をしていただいたり、催告に応じて相続登記をすれば、過料に処せられることはありません。
 柔軟な対応がとられていますので、ご安心ください。

※ ちなみに「正当な理由」とは
①  相続人が極めて多数で、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
②  遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われている場合
③  申請義務を負う者が、重病その他これに準ずる事情がある場合
④  申請義務を負う者が、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者で、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
⑤  相続登記等の申請義務を負う者が経済的に困窮し、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
などが該当するとされています。

3 相続登記をしないデメリット

 本質的な問題点としましては、相続登記がされないまま長年放置された場合のリスクです。

 相続登記をしないまま長年放置しますと、世代が移り変わり、相続人が枝葉のように増えていきますので、相続登記をすることが困難となります。
 また、その負担を子孫に引き継ぐというデメリットも考えておくべきでしょう。

【事例紹介】
 これまでお受けした相談では、次のような事例が発生しており、それを解決するために多くの費用や負担を要したということもありました。

① 相続登記をしないまま相続人の一人が死亡し、次の世代が相続人となったが、遠縁で顔を合わせたこともないため、連絡先が分からず、遺産分割協議をすることができない。

② 相続人の一人が認知症になり、判断能力がなくなったため、成年後見人を選任しないと遺産分割協議をすることができない。

③ 相続人の一人が行方不明となったため、不在者財産管理人を選任しないと遺産分割協議をすることができない。

【編集後記】

 祖先から引き継がれた大切な財産ですが、人口減少や少子高齢化、都市部への人口流出によって、不動産の資産価値やニーズも変化しています。
 また、「国庫帰属ニュース」のマガジンに掲載していますが、相続した土地であれば「相続土地国庫帰属制度」を利用して国に返還することも可能です。
 美しい日本の風景を次の世代に引き継ぐためにも、国に任せるだけではなく、私たちが真剣に考えなければならないのかもしれません。

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