【小説】人を感動させる薬(7)
(前回)人を感動させる薬(6)
年が明けると、映画化されたエル氏の作品がテレビで全国放送されることになった。
このことに関しては、どう頭をひねってもお茶の間のテレビ一台一台に『人を感動させる薬』を仕込むことなど不可能なため、ジェイ編集はなんとかもっともらしい理由をでっち上げて猛反対し、テレビ放送を阻止するため再び『人を感動させる薬』を提案書に仕込んで関係者にプレゼンして回った。
しかしながら、製作委員会の中にはテレビ局もメンバーに入っており、ヒットした場合は放映権を独占できる契約となっていたため、今回ばかりはどうすることもできなかった。
かくして、エル氏の映画はテレビで全国のお茶の間に放送されることになった。
エル氏の映画が放送された夜、案の定ネット上での評判は散々なもので、どのSNSも批判とヒットへの疑惑の声であふれた。
「すんごい期待はずれ。」
「どこが感動する話なのかさっぱりわからなかった。」
「内容が初めから暗すぎて、気分悪くなったから途中でチャンネル変えた。」
「小説がヒットしたらしいけど自社買いで売り上げを水増ししてヒットしたように見せかけたんじゃね?」
「映画館の行列も広告代理店がサクラを仕込んでヒットしてるように見せかけただけなんじゃね?」
「公開された映画館自体が少ないらしいじゃん。あれぐらいの動員数ならバイト雇えばいけるんじゃね?」
中には、「小説は感動した。」とか「映画館で観たときは感動したぞ。」といった擁護の声もあったが「じゃあ何に感動したのか説明してみろよ。」というリプライに対してまっとうに回答できる者は誰もいなかった。
かくしてその夜、ネット上は前評判に反したエル氏の映画のつまらなさで炎上し、批判の声で埋め尽くされた。
視聴率は、映画開始直後こそ上々だったものの、後半部分はほぼゼロで、トータルとしては散々な結果だった。
エル氏のSNSアカウントのフォロワーも一晩にして半分以下に減ってしまった。
(つづく)
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