成幸への道しるべ 〜人生という大航海を後悔しない為に〜 (無料部分まででも読み応え充分です)
ー わたしの人生 ー
【このままで上手くいく】
ー はずがない ー
そんな事は数えればキリがないほど考えてきたし、とうの昔から知っている。
いつの日から感じ始めたのかなんて忘れてしまったけれど
脳裏にぴったり張り付いて離れない、焦りと不安という霧がわたしの視界を塞ぐ。もうかれこれ、おそらく十年以上の永い付き合いだ。
けれども正直なところ、未だに、なにをどうしたらいいのかもわからない。
それが本音。
毎日、毎日幾度も自己啓発やマインド発信、スピリチュアルの本や動画を貪るようにかじりついて読んだり観たりしてる。その時だけは妙に高揚感に包まれていて
にわか成功者の気分に浸る。
最高に至福の時間。
本質を理解した気になって、わたしは世間とは違う人間だと優越感に浸りながら
眠りに着く。
そういう夜を何年も過ごしてきたんだ。
「明日にはきっと何かが変わってる」
ひょんなところから突然、将来のメンターと呼べる船長が現れて、わたしを人生の成功という船に乗せて導いてくれる。まるで蜃気楼を掴みにでもいくような淡い幻想を期待しながら、心の拠り所にして朝を迎える。
けれども【日常】は同じ事の繰り返しで待てど暮らせど、一向に船長は現れない。
肩を並べていた仲間だと、わたしが勝手に思い込んでいた周りの友人や知人が頭角を現し始めると「いい客船に乗せて貰ったな」という妬みを隠して、仲間の成功を心から喜び、これからも応援している体裁を保ち「人格の出来た自分」を演じる。
その度に心の中では「わたしもあの時にあやかって泳いでいれば今頃は」と
何度も思った。
みんな、目の前の【この広過ぎる大海原】を華麗にスイスイと泳いで進んでいく。
「わたしだけが足掻いて、もがいて。【この広過ぎる大海原】に取り残された私は
可哀想でしょ?ねぇ、だからモータボート、いや、豪華なクルーズ船で私を見つけて早く助け出しておくれよ。」
「そうしてくれたら、わたしは掃除も喜んでするし、料理だって人より得意。いい事だらけだよ。」
「船上という【活躍できる場】さえ与えてくれれば、わたしは誰よりも輝けるの。」
他力本願だという事は分かっている。けれども、シンデレラストーリーとかアメリカンドリームにあるような、それが【チャンス】というものなんだと本気で思っていた。
「そんな大きな【チャンス】なんだから、簡単にはやって来ないさ。けれども、こうやって必至に足掻いて、もがいていればきっと誰かの目に留まって、見つけて助けてくれるよね。」
わたしはそれが【行動】だと思っていた。だから先に進んでいく、同じ肩を並べた仲間だと思い込んでいた、友人や知人達の泳ぎ方を学んだり真似をして、一緒に
泳ごうとはしなかった。
たまに流れ着く漂流物にしがみついて漂いながら、いつしか足掻いて、もがく体力も精神力も尽きてしまっていた。
「ここで待ち続けるのはもう疲れたから、このまま岸辺まで流されながら戻って少し休もう。」
わたしはそうやって何度も岸辺から沖までの【同じゾーン】を行ったり来たり繰り返していたんだ。
わたしは気がつけば、もう沖に出る事すらしなくなっていた。豪華なクルーズ船など通らないという事だけは諦めがついていた。
沖を眺めては、泳いでいった仲間達の事を思い浮かべる日々が続いた。
今頃は全てが揃った島にたどり着いて、とても裕福な生活でもしているんだろうと、ただただ羨ましくなって沖を眺める事すらしなくなった。「アイツは臆病なヤツだったと笑い飛ばして、もう私の事なんか忘れているだろう」と考えると、ますます【現実】から目を背けるようになった。
そうした感情にも次第に慣れていき、しまいには、わたし自身の事にすら関心を持たなくなっていた。それはそれで楽だった。もうあんなに必至に足掻きながら
もがいて辛い思いもしなくて良くなったからね。
けれども本当は心残りが一つだけあった。
わたしはあの時、泳がなかったのではなく、【泳ぎ方】が分からなかったんだ。
【泳ぎ方】を知らない事が恥ずかしくて、足掻きながら、もがいて苦しんでいる所を助けてもらい、楽をして仲間達を追い越し、誰よりも一番乗りで島に辿り着いてやろうと考えていたんだ。
誰にも知られたくない、秘密にしている私の自分勝手な【思考】だった。
「もうそんな事も気にする必要はないか。だってもうあいつらとは顔を合わせる事もないんだから」
そんな事を思いながら、わたしは岸辺についた島で食料を調達していた。何もしなくても一丁前に腹は減る。欲求を満たす生きる為の最低限の【行動】はしていた。
そんな矢先である。
一隻の船がこちらに向かっている。
私は諦めていた期待と自分勝手な【思考】が、またふつふつと脳裏に浮かんだ。
「やっとチャンスが巡ってきた」
そう思わずにはいられなかった。そして何とか船に乗せてもらえるよう、調達していた食料を丁寧に並べて用意し、船がこの島に停泊する事を願い待ちわびていた。
「あの船の船員達はきっと腹を空かせている。食料調達の為にこの島に寄るんだ。
そこでこの食料を差し出してやったら、喜んで受け取り、見返りに私を船に乗せてくれるはずさ」
そう考えるだけで、ワクワクしてきた。
誰に対してなのかも分からないが「これで私は勝ったも同然だ」と思った。
そしてその船は案の定、島に停泊した。
お世辞にも豪華なクルーズ船とは言えなかったが、そこそこの見栄えで小綺麗な
中型船だ。
船から一人の船長とおぼしき男が降りてきた。
妙にとても上品に仕立てられた、紳士的な格好をした好青年だった。
船の見た目からは似つかわしくないなと思ったのは一瞬だけで、そんな些細な事はすぐに忘れていた。
その好青年は私が発するよりも先に、言葉を述べた。
「何かお困りのようですね?良ければお助けしましょうか。」
願ってもいない言葉だった。
わたしはすぐにこう答えた。
「ここから次の島まで乗せてはくれませんか?その代わりといってはなんですが
この島でわたしがとった食料をお渡しします」
内心は、はち切れそうなくらい心が踊っていたが、平静を装いむしろこれ以上ない程、困り果て焦燥しきった姿を魅せた。
「 これで上手くいった 」
十中八九確信していたが、その船長とおぼしき妙にとても上品に仕立てられた
紳士的な格好をした好青年から出た言葉はこうだった。
「では、その食料をいただきましょう。ただし私の船には乗せられません。その代わりに次の島までの【行き方】をお教えしましょう。」
わたしは期待していた返事ではない事に少し落胆した。ただそれと同時に別の期待をする感情が押し寄せた。
「もしかしたら知る人ぞ知る陸路や抜け道、近道があるのかもしれない。それならそれでオッケーだな」
わたしは二つ返事で了承した。
「是非教え下さい!どうぞ食料を差し上げます。」
もうわたしの心は、はち切れんばかりに踊り昂ぶる感情を抑え切れなかった。
そしてついに待ちわびた瞬間が訪れた。
しかし期待と裏腹に、【お教えの言葉】にわたしは開いた口が塞がらなかった。
「次の島への行き方…、それは沖へ出て、泳いでいくのです」
わたしは一瞬で全身から血の気がサッと引くような、”なにか” を全て持っていかれたような感覚に陥った。
これだけで話が終わりなら、差し出しだ食料との見返りがつり合わないと焦り
すかさず質問をして引き止めた。
「わたしは恥ずかしながら【泳ぎ方】を知りません!ですから沖に出ても泳いでいく事は出来ません!どうかこの場所で【泳ぎ方】をお教え下さいませんか?」
わたしは差し出した食料分の見返りは得ようと、すがる様な気持ちで懇願した。
するとすでに踵を返しかけていた、船長とおぼしき妙にとても上品に仕立てられた、紳士的な格好をした好青年はこう言った。
「海というものは泳げるようになってから入るようでは、一生をかけても泳げるようにはなりませんヨ」
うっすらと笑みを浮かべながらそう言い残すと、用意していた食料はすでに全て積み込まれ、妙にとても上品に仕立てられた、紳士的な格好をした好青年と共に船は去ってしまった。
わたしは頭が混乱していた。なにもかも投げだしていっその事消えて無くなってしまいたくなるほど、ガラガラと音を立てながらわたしの中の ”なにか” が崩れ去っていったんだ。
しばらくは身動き一つとりたくなかった。眠れない日が続く事もあった。だけど
眺める事すらしなくなっていた沖を、わたしは時折また見つめる様になっていた。
後になって知ったが、彼らの船はこの辺りを縄張りにした海賊船だったのだ。
あの好青年が残していった言葉が、皮肉にも頭から離れなかった。
わたしはその言葉の意味もよく理解しないまま、なにか確信めいた特別な根拠や自信もあったわけでもなく、ただ居ても立っても居られなくなり、二度とこの岸辺には戻らない事だけを決めて退路を断ち、もう一度海へ飛び込み、そして沖へ出た。
あれだけ足掻きながら、もがき苦しんでいた大海原は、冷静になってみると意外にも穏やかな事に気がついた。しばらくただ波の流れに身を任せてみることにした。
するとどうだろう、岸辺からは少しずつ離れて進んでいたんだ。
私は少しだけ【この広過ぎる大海原】の理を知った様な気になった。
波に逆らわず素直に受け入れてみること。そして少しコツをつかんだら自分の手を
使って漕ぎ出してみること。
最初はぎこちなくて下手くそでもいい。どうせ誰に見られることもないと知れば
恥ずかしさなど大したことではないんだ。
そうして波の流れを素直に受け入れ、導かれるように、ゆっくりと確実に私は進み始めた。これが泳ぐというものなんだ。
まだ効率の悪い我流の【泳ぎ方】だったが、わたしにとって大きな進歩だった。
先ずは泳ぎ出してみる事。そして進み方には、波に逆らわず【素直に受け入れる】
という、正しいコツがある事。それさえ理解できれば【泳ぎ方】そのものには然程
こだわる必要はないという事も知った。
あの時はただただ「騙された」と開いた口が塞がらないほど唖然とした言葉も
この頃にはあながち間違ってはいないんじゃないかと思えるようになっていた。
わたしは初めて、自ら本当の意味での【行動】から得た小さな【成功体験】を自信に変えて、無我夢中で泳いだ。次第に効率の悪かった我流の【泳ぎ方】も波と一緒に泳ぐ感覚を身につけ、洗練されていった。習うより慣れろとはまさにこの事だ。
そうしてわたしはなんとか次の島に辿り着き、当初の目標を達成した。とても充足感に満ちていた。「やれば出来るんだ」と初めて【自分を肯定する事】が出来た。
また「仲間達と肩を並べられる」と心が踊っていた。そして、はやる気持ちを抑えながらわたしは仲間達に会いに向かったが、島中何処を探してもいない。
仲間達はすでにまた海を渡り、次の島へと向かっていたのだった。
わたしは仲間達がこの島で待っていてくれなかった事にとても深く悲しんだ。当然といえば当然だ。私はあの時、【一緒に泳ぐ事】を最初から諦めていたんだから。
「さすがにムシが良すぎるよな」わたしはそう自分を納得させていた。
そしてそんな落ち込んだ時にも腹のムシが鳴る。
本当に一丁前だ。
ここでは前の島よりも簡単に食料が手に入った。何より食材の種類も豊富だった。本当にこの島まで辿り着いて良かった。
挑戦はしてみるもんだなと改めて思いながら、わたしは苦労が報われたという、込み上げてくる感情を食事と一緒に噛み締めていた。
腹も満たされ、さて次は何をしようかと辺りを見渡していると、ふとある物に気がついた。
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