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19YEARS

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19年一緒に暮らした最愛の夫を亡くし、心の空洞から逃げられなかった日々。 少しずつ立ち直っていく過程で、19歳年下の男性と出逢いました。(ほぼノンフィクション)
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#夫婦

19YEARS #3 東京を知らない

19YEARS #3 東京を知らない

←2より

2013年2月

駅で友達と別れたあと、ひとりになった。
「ここはどこ」
代々木上原駅だと頭ではわかっている。けれど、知らない遠いところにいるような気がした。体が浮いている。不安な気持ちがどんどんふくれあがる。小刻みに震えがくる。どっち方面の電車に乗ったらいいんだろう。
「家はこっちにあるはず。でも、誰も待ってない。わたしの家族はどこにもいない」

東京に、20年住んでいる。よく知って

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19YEARS #2-2 エンパスたち

19YEARS #2-2 エンパスたち

一人暮らしには、なかなか慣れなかった。半身で泳ぐ魚のように、苦しく痛く、生きているだけで消耗していく。消耗しながら、新しい皮膚をも再生してゆく。

庭木の剪定は、例年、私がやっていた。なので1人になってもなんら問題なくできるはずだった。けれど作業を始めてすぐ、それはまったくの見当違いだったことに気づく。

まず「剪定を始めるよ宣言」を聞いてくれる人がいない。
腕が疲れて「休憩したい」と叫んでも、麦

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19YEARS #2 心の流血

19YEARS #2 心の流血

←1より

2012年夏。

目が覚めて、部屋を見わたす。やっぱりひとりだ。あの人のいない世界。なぜ目が覚めてしまったのだろう。

ライが、しきりに顔を舐めてくる。否応無く、散歩に連れ出される。リードにぐいぐい引っ張られながら、外の空気を吸いながら歩くと、夏休みのにおいがした。
この子は、私の心に一番近いところにいつもいた。そして、一緒に深く傷ついていた。ライにとってはもう私しかいない。私にとって

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19YEARS #1 最期の日の記憶

19YEARS #1 最期の日の記憶

2012年5月16日午後。

体温計は34.2℃を示していた。
「壊れてるんですかね。34度なんて変ですよね」
巡回の看護師さんに話しかけてみる。看護師さんはうなずいてみせたが、返事はなかった。ただ、笑顔でかいがいしく夫の体を世話してくださる。

わたしは朝から、女ともだち数人と一緒に、夫のベッドを囲んでいた。眠っている夫を見ながら、穏やかに、おしゃべりしたり笑ったり。毎日のように誰かしらお見舞い

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