理想のキッチン探し②大田区平和島
予想外に晴れた今日の午後、夫が急に「大森へ物件を観に行こうか」と言い出す。でも、前回のUR物件と違って民間の不動産業者には、アポイント取って勧誘されながら、と面倒だからと、外から見るだけ。とりあえず街を観ようというので、行くことにした。
仕事柄、本当は都心へのアクセスがいい町に住みたい。食のトレンド記事を書くことが多い私は、トレンドが目に見えやすい東京23区のおしゃれタウンに行きやすい方がいい。人に会うにも都心に近い方がいいし、遠くへ行くときも品川・東京・羽田などに近いとラクだ。というわけで、大田区。しかも京急線沿線なら割安なので広い物件でも予算内に納まるかも、というので見つけたマンションがあると言う。
どこか懐かしい町
平和島は京急線沿線だが、大森あたりに近いため、駅周辺には海苔屋が多い。駅近くには、京急ストア、LIFE、サミットがある。京急ストアは増床計画中で、肉と魚が充実している。肉はほとんど国産。実は港北ニュータウンの肉類は世界中から集められていてちょっとびっくりしていた。魚の鮮度が高いのはさすが。土地柄か、京急ストアの力か。昔、夫が銀座に勤めていてよく銀座あたりで約束したとき、帰りに新橋駅ガード下の京急ストアで魚を買い、夕食に使っていた。近所の東急ストアの品ぞろえがあまりよくなく、京急ストアの魚が新鮮で割安だったからだ。
おいしそうな小料理屋と魚料理屋が並んでいて、同じ店なので親子で違う料理を出しているのかも。チェーンももちろんある。使い勝手がよさそうな商店街だ。
近くに、小児科・内科・皮膚科の看板を掲げた病院もある。区立図書館もある。港北ニュータウンとは別の意味で何でもそろいそうな町だ。路地が多くて、人の気配が濃厚で、整然とした計画都市が嫌ならこういう庶民的な人のぬくもりの多い町ならどうだ、と試されている。
物件は、閑静な住宅街の一角にあって、82㎡で広くて使いやすそうだが、マンションから漂う昭和感がなんとも。1979年に建ったマンション。そこは心温まる風景で、つつましい暮らしを営む人たちがいるんだろうと思う。でも、これから借りる、と考えた時、そこは何となく人生の終着点っぽさを漂わせている気がして、サラリーマンでリタイヤ生活を想定するならともかく、フリーランスなのでまだまだこれから、と思っている50代には厳しい。やっぱりここは無理だね、と2人で結論を出す。
でも、どういう町なのかを知りたいので、近辺をウロウロする。下町っぽさを感じさせるのは、たぶんほとんどの家が道路からスグ玄関があって、庭がなく、3階建ても多いからかもしれない。
さっきの物件は静かそうな町にあったが、うねうね続いて二またにも三またにも分かれた道をしばらく行くと、幹線道路に突き当たり、そこを超えると急に視界が開けて巨大団地が登場する。広い空のもとの住宅団地はなんだかデジャブ感がある。
たぶん、この風景はテニスコートに通ってサークル活動に勤しんでいた20代の頃、車窓から眺めていた甲子園のレインボータウンを彷彿とさせるからだろう。川があってすぐ向こうに海岸があって、埋め立て地だから広い敷地に計画的にマンション群を作って効率的にたくさんの世帯を埋め込める。でも、整然と並んだ団地も、最初にこっちを見たら寂しそうとか圧倒されるとか思っただろうに、住宅街の隅っこでどん詰まり感を漂わせた物件と比べたら、まだ未来が見えそうな気がする。取材で写真家さんを訪ねたら、この中の一部屋に住んでいて、意外に住みやすい空間を楽しんでいるような気がする。東京都の住宅供給公社のものだ、と事前に調べていた夫が言う。
その先に広がっていたのは、なんと砂浜。「人工的に造成したものなんだって」と夫が言う。広々とした公園にはあちこちにテントを張っている人たちがいる。体を焼いている人たちがいる。子どもたちが走り回り、児童公園には長い滑り台があってお父さんと一緒に滑っている子もいる。きっと小さい子には最高に魅力的な公園だろう。暑い日だったので、海に入って遊んでいる子もいる。地元のプール、じゃなくて、地元の海で遊んだ思い出は最高に素敵だろう。
帰り道、おしゃれなパン屋を見つけた。パンに目がなく、リサーチと称してあちこちで買いまくっている私は、それにも惹かれ思わず入る。カフェコーナーがあったが、時節柄もうカフェは閉店とのこと。諦めてパンを買って帰ることにした。大田区のお土産100選に選ばれたという三日月形アンパンをおやつに、食パンも買う。素材にこだわっていて、マーガリンを廃したというお店のものだから、きっとと思ったら、案の定あんパンはおいしかった。ほのかに酒だねの香りもする。
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