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記事一覧
物語食卓の風景・対面③
真友子は、ゴクリと唾を飲み込み、大きく目を見開いて目の前にいる女性を見た。美帆は真剣な顔をしている。さきほどまで絶えず何かを口に入れていたのに、手は止まって、テーブルの下に隠されている。何を考えているのか。表情を読もうとして、いや話す気があるというのだから、聞いたほうがいい、ここは聞くべきだ、と心の声がする。グラスの底に少しだけ残っていたワインを飲み干し、真友子は若干声を震わせながら聞いた。
物語食卓の風景・久しぶりの帰郷④
グズグズと言い訳をしながら決断をしない香奈子の様子を見ていると、真友子は、もしかすると、わが家の問題は皆が優柔不断なところにあったのかもしれないと思った。
母が父を探そうとしないのも、香奈子が手がかりを探ろうとしないのも、何かを決めることで、生活が変わるのを恐れているせいかもしれない。今の平和な生活を変えるような何かが起こってしまうことを。でも、すでに父はいないのだ。どこかで犯罪に巻き込まれ
物語食卓の風景・久しぶりの帰郷③
「今までに分かっていることを教えて」
「うん。お父さんがいなくなったのは、3カ月ほど前のこと。お母さんが元町まで買い物に行った間に出て行ったみたいなの。帰ってきたら、寝室が散らかっていて、お父さんの洋服とかなくなっているものがあったって」
「全部じゃないの?」
「うん、全部じゃなかった。スーツケースにしまえる分だけ適当に持って行ったみたいな感じだったって」
「そうなんだ」
「でも、老後資
物語食卓の風景・久しぶりの帰郷①
けむに巻かれたような美帆との邂逅を経て、数日後。真友子は、長沢美津子と共に関西行きの新幹線に乗っていた。当然のことながら、浮気調査をけしかけた美津子は興味津々である。
「それで、どうだったのよ、不倫相手は若い女だった?」
「そんな。決めつけないでくださいよ。まだ不倫かどうかわからないんですから」
「まだ決定的な証拠は見つかっていないのね。でも、何かわかった?」
「航二が毎週末のサークル活