27℃の夜、国道23号線のドライブ
もうすぐ午前2時だというのに、この日は湿度も高く、生ぬるい風がまとわりついていた。
豊橋での仕事を終えて自宅へ帰る。
強めの冷房をかけると、すぐに窓が曇ってしまう。雨上がりは苦手だ。
気分を切り替えて窓を全開にする。夜の国道は交通量もまばら。
信号にさえ引っかからなければ、快適に車は走っていく。
どうにも気分がすっきりしなかったので、いつもとは違う道を選ぶ。
赤信号に止められた交差点の看板。左に曲がると国道23号線だと書いてある。
この道は名古屋まで続いているかもしれない。
翌日も仕事だというのに、少しだけ冒険することにした。
スマホとカーステレオをBluetoothでつないで音楽を流す。
一段と交通量が少なくなり、自然とアクセルを踏んでしまうのは悪い癖。
平成ヒットソングを選び、深夜の国道を走る。
国道23号線は海沿いを走る。明かりの無い海は、まるで海を感じさせない。
青の信号が並ぶ道を、いつもより少し速めのスピードで駆け抜ける。
窓は全開、カーステレオのボリュームも大きめ。
いつの間に、こんなに自由に過ごすことができるようになったのか、なんて思いながら。
どこを走っているか、なんて詳しく知らない。ただ青色の看板を目印に、名古屋に向かって走っているだけ。
ハンドルを握っていると不思議な感覚になる。
この道、走ったことがある、と思い出す。
真っ暗で何も見えないのに、右に左に曲がるカーブのそれが、過去の記憶に語りかける。
カーナビで確認してみると。
そういえば一度だけ通ったことがある道だった。
助手席に素敵な女の子を乗せてドライブをした道だった。
記憶は呼び起こさなくていいものさえ連れてきてしまう。
あのときはもっと暑くて、夏真っ盛りで、近くで花火大会があった。
いつの間にか風景が都会らしさを取り戻す。
JRの駅前だった。見覚えのあるスーパー。この駅で下車したのは10年以上前。コカコーラを売るアルバイトでお世話になったスーパー。
行きの電車で携帯電話を落とした思い出しかない。終着駅でピックアップされており、バイト帰りの疲れた身体で取りに行ったんだった。
駅前を右折し山間部のバイパスへ。
湿度は一気に高くなり、夏の夜を感じさせてくれる。
流れる歌を無意識に口ずさみながら。前にも後ろにも車が見えないバイパスを走り続ける。
窓を全開にしていると、肌で気温を感じられる。暑い、寒い。気温だけじゃなく、湿度だって感じられる。
窓から入ってくる風で匂いを感じることだってできる。緑の匂い、磯の匂い、オイリーで人工的な匂い。
窓を開けていないと気付かない。
夜じゃないと気付かない。
懐メロと共に、雨上がりの国道を走り抜ける。
家まであと10km、やっと街中の雰囲気が漂い始めた。
いつの間にか風は固くなり、信号も多くなり、爽快感なんてどこかへ行ってしまった。
家に着いたのは3時30分。もうすぐ東の空が明るくなるころだ。
一眠りしてから、都会の中を駆け抜けて会社に向かう。
たまの深夜のドライブ。一人でこっそりと楽しむにはピッタリな時間。
どこかで過去に執着しながら、生ぬるい風を浴びたくなるものなのだ。