居酒屋嫁、パラパラチャーハンでぶっちぎる。
わが家を居酒屋と勘違いしているアホンダラ旦那及びその仲間たちによる、突然の襲撃も既にもう慣れたもの。いつ何時来襲されてもそれなりにつまみを作り、最後は麺、またはごはん物でしっかりと〆に。
アレが食べたいと要求されればアレを炒め、コレが食いてえとオーダーが入ればコレを揚げ、連絡無しの来客時すら怒りを覚えるものの、馬鹿っ騒ぎしつつうめえうめえと喜んでくれりゃあこちらも嬉しいものでございます。
ここ数年、そんなこんなで居酒屋嫁は日を追うごとに盛り上がり、知らぬ間に顔の分からぬ顧客も増殖。ただし盛況しつつも繁盛とはならず、どちらかと言えば家計を圧迫しておりますが、野郎共も最後はしっかりと洗い物をし、きちんとお掃除してからご帰宅と、鉄拳制裁がっつり手懐けた故、今さら居酒屋嫁閉店というわけにもいかず。
んまぁ最後はこちらもしっかりと出来上がっているので文句は無し。次はその秘蔵の焼酎ってやつを必ず持って来いと脅しながら、楽しくにこやかに突発的宴は続くのであります。
そんな野郎共の中には、食べるに飽き足らず作りたいと手を挙げる者が数人おり、レシピを口頭で伝えるだけでなく、実践を手ほどきしていただきたく候、ってな感じの面倒くせえ野郎まで出現。
頼まれりゃあ、断ることが出来ぬ性格。宴の最中、あれやこれやと懇切丁寧な嫁料理教室が始まるのでありますが、どいつもこいつも最後に揃って言うのが次はチャーハンをという難関レシピ。しかもパラパラ。
レシピサイトを運営し、且つレシピ本なんて出版されちゃっているおっ母でもパラパラは難しく、教えるとなるとさらに難関。野郎共に話を聞けば、パラパラは男のロマンと等しく、必ずや手中にしたい究極の最終奥義だとか何とか。しかも裏技的なレシピではなく、男だったら真っ向勝負とか言うんだよ。
おめえさんたちのロマンは知りませぬが、こちらにも料理に関しては少なからず自尊心というものがあり、出来損ないのチャーハンを出すわけにもいかず、ましてベチャつく、鍋肌に焦げつくといった失敗を見せれば、主婦A子なるキャラクターのアイデンティティにも係わる問題。そうそうお手軽簡単に教えることなど出来ないのでございます。
そう、そして何よりも大事なのがこの数年で積み上げてきた、おっ母を頂点とする、絶対君主的カーストの崩壊。ビールをこぼした野郎を張り倒し、チビ助の前でお下劣な言葉を放つ野郎を蹴り飛ばしてきた完全無欠のお仁王様、歩くわが家の六法全書、今さら失墜するわけにもいかず、これだけは守らなければいかんのでござる。
野郎が作るチャーハンが男のロマンなら、おっ母の作るチャーハンはおなごの意地。ロマンを追うなら男らしくゲンコツで勝負、人に教わるのではなくてめえで何とかするんだな、とキレッキレの決めゼリフで野郎共を一蹴。
でも大丈夫、投げっぱなしジャーマンな対応でハートブレイクしちゃってる野郎共に捧ぐ。狭い世界で生きずにもっと回りをよく見ろ。自分で作れなくても、世の中には野郎が欲する本物のチャーハンがある。
探してみろ、見えていないだけだ。ガツンと男のたましいを揺さぶる渾身の一撃、そんな熱く燃えたぎる、うなるぐれえ旨いチャーハンが本当にあるんだよ。