ビジネスとアートの共通点とは― アーティスト・大山エンリコイサム氏 × アクセンチュアインタラクティブ統括・内永太洋
※過去記事のアップです(2018年1月26日)
2018年1月にオープンしたアクセンチュア・イノベーション・ハブ 東京(以下、AIT)のアートワークを担当いただいた、ニューヨークを拠点にグローバルに活動するアーティスト・大山エンリコイサム氏と、シリアルアントレプレナーであるアクセンチュアインタラクティブ統括の内永太洋(MD:マネジメントディレクター)をゲストに迎えたトークイベントの様子をレポートします!
■ビジネス・パーソンに注目を集めているアート
ボストン・コンサルティングなどでの勤務経験を持つ山口周氏の著者『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』がAmazonでベストセラーになるなど話題を呼んでいます。
なぜ今、ビジネスの現場でアートが注目されているのでしょう。アートとビジネスそれぞれの業界で活躍するエキスパートが考える双方の共通点から、その答えを探ってみましょう。
■ニューヨークを拠点に活動する大山エンリコイサム氏
ニューヨークを拠点に活動する大山氏は、イタリア人の父と日本人の母のもと東京に生まれ育ちました。エアロゾル・ライティング文化の影響を受け、線の運動を反復させたモチーフ「クイックターン・ストラクチャーQTS)」を配した壁画やペインティングの制作を中心に、ライブ・パフォーマンスやサウンド・インスタレーションも発表。企業コミッションや本の執筆も手掛けるなど多岐にわたる活動を行っています。
▶大山エンリコイサム氏のHPはこちら
実は、AITのアートワークは大山氏が担当。クイックターン・ストラクチャーを配した作品がAITの柱や壁の一部を飾っています。
■WorkplaceとGenslerの熱い想いから実現! オフィス空間を飾る現代アート
アクセンチュアと大山氏の今回のコラボレーションは、アクセンチュアのワークプレース(総務)とオフィスデザインを担当していただいたGensler(ゲンスラー)の発想がきっかけで実現しました。AITの設計・デザインを行う際に、世界中にあるアクセンチュアのスタジオをツアーして検討を重ねる中、USやヨーロッパでは自然にアートワークが展示されており、溶け込んでいる様子に気づきました。Gensler竹下氏とワークプレースメンバーは、「単なるグラフィックではなく、アートワークを導入することは、様々な人とコラボレーションするというAITの思想とも非常に親和している」と考え、アートワークの導入を進めました。
アーティストに大山氏を選出した際の経緯として、「現代アートというジャンルがスタートアップなど、”今”を感じさせる点。また大山氏は、伸び盛りのアーティストで、AITのインテリアや世界観にもマッチする」と、Gensler竹下氏。
内永は、オフィス空間に現代アートを取り入れる理由として、“インスピレーション”を強調します。
「アクセンチュアは、お客さまに対して本質的な“エクスペリエンス(=体験)”を提供する会社です。そのオフィスは働く人にインスピレーションを与える場所であるべき」(内永)
▶内永太洋MDはどんな人? ⇒ こちら
■アートとビジネスの作り方の流れは似ている
AITのグランドオープン記念イベントの一環として、大山氏とインタラクティブ統括の内永MDが、アートとビジネスの共通要素ともいえる「コンセプト作り」をテーマにしたこの対談は、アクセンチュアオープンイノベーションイニシアティブとアクセンチュア芸術部(クラブ活動)がコラボレーションし、2016年9月に開催した「Digital ART IN THE OFFICE」のコンセプトを引き継ぐイベントとして開催されました。
「ぜひ、多くの方に大山氏のアートワークを実際に見ていただき、イノベーションの種になるような新しい発想や着眼点を得てもらえたら」(芸術部イベント主催者)。
アーティストにとって「コンセプト作り」は、作品に命を吹き込む過程とも言えます。
ビジネスにおいても「コンセプトを作ること」は、イノベーション創出のための重要な要素であり、アートとビジネス、両者の共通点と言えるでしょう。
イベント当日は、社内外から70名もの参加者が集まりました。NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/ エイト]の大隈理恵氏を対談の進行役に迎えて、大山氏が実際に手がけた作品をスライドで見せながら、現代絵画やエアロゾル・ライティングを背景に、自身の作品コンセプトやQTSの成り立ちについて話を伺いました。
ライティング文化は、ニューヨークから世界中に広がりました。1970年代当時のニューヨークでは、若者によってタギング(名前)が地下鉄や街中にかかれ、社会問題になっていましたが、一方で彼らのアイデンティティが、閉ざされた場から公共空間へと拡散し、その声が都市空間を往来する地下鉄というメディアを介して流通したとも考えられます。
彼らは自身を「ライター」と呼び、「グラフィティ=落書き」というネガティブな表現でなく、「ライティング」と称し、活動を行っていました。
大山氏が手がけるQTSも、彼らの社会に対する態度や、流通・拡散といった文脈を通してみるとより興味深くみることができます。
(ライティング文化についてより詳しく知りたい方は、大山氏の著書『アゲインスト・リテラシー ─ グラフィティ文化論』(LIXIL出版、2015年)がオススメです)
「今回の作品は、美術館やギャラリーではなくオフィスの一角にあります。そもそもライティングが路上で始まったとき、さまざまな場の特性に反応してあらゆるところに存在することが重要でした。今回の作品も、オフィスという場に呼応しながら独特の広がりが展開されているので、柱から床までじっくり見ていただければと思います。」
■アートとビジネスに共通する「コンセプトを作ること」とは
現在ニューヨークと東京を拠点に活動している大山氏。海外生活を通じて彼が感じる日本との違いや、「コンセプトを作ること」についてアートとビジネスに共通することとは?
「ニューヨークでは、アーティストにも社会的な役割があります。自身の作品について戦略を練ってプレゼンテーションを行い、交渉し、ときにはファンドレイズについても考えます。日本ではその印象が薄く感じます。しかしどの国のアーティストも、それぞれ社会環境に向き合い、思考をめぐらせている。既成概念にとらわれず、視点を変え、ものごとを見つめることが大切です。ビジネスの場においても同じではないでしょうか。」(大山氏)
「アクセンチュアの仕事は、コンサルティングを通じてお客さまのビジネスを変革したり、新しいビジネスを創出すること。そこではロジックだけではなく、“感性”や“クリエイティビティ”、そして情熱が重要。アートワークを作り上げるのと共通する要素がある。」(内永)
ビジネスにおいて、人間のもっとも重要な価値は“新しい何かを創り出すこと”。新規ビジネスを立ち上げる際、重要なのはデジタル技術ではなく「何を伝えたいか」だと内永は言います。起業家やコンサルタントも、ゼロからコンセプトを生み出し、トライ&エラーを繰り返しながら、自分が伝えたいことを表現するアーティストである、と。
同じくコンセプトが要となるビジネスとアート。両者が相互に作用し、世の中にまだない“人の心を動かすイノベーション”が生まれていくのが楽しみです。
ぜひ今度の週末は、アートに触れてみませんか? 一見ビジネスとは全く異なるアートの中に、インスピレーションの源泉が見つかるかもしれません。