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チャリダーアキの自転車世界旅行  カナダ横断編(前編)

割引あり

旅の終わり

 僕はロンドンのトラファルガー広場のベンチに座って、これまでの旅のことを思い返していた。香港を出発した僕は、陸路でポルトガルまでたどり着いた。バスとヒッチハイクのみでユーラシア大陸に一本の線を完成させる目的で始めたこの旅に、それなりに満足していた。途中で電車を使ったりしたけれど、僕が勝手に決めたルールだし、勝手に変更したとしても何の問題もないだろう。とにかく僕は香港を出発し、ユーラシア大陸の西の果てポルトガルのサグレス岬とロカ岬までたどり着いた17ヶ月間の事を思い返していた。

7月のロンドンは青く晴れ渡って実に過ごしやすい天気が続いており、この日も午前中からベンチに座ってのんびりと思いを巡らせるには最高の一日だった。最終ゴールは旅を始めた時から、トラファルガー広場の中央郵便局と決めていた。読書好きの方ならば既に察しは付いていることと思う。僕は学生時代に読んだあの名作の中で、あの方が挑戦したことに自分も挑戦したかったのだ。

夕方、日が傾く頃になると、少しだけ肌寒くなってくる。中央郵便局の営業時間が終わる前に、とっととゴールしてこの旅を終わらせようという気持ちはあるのだけれど、なぜだか腰が上がらない。何かが足りないような気がしていた。何かが何かは分からないけれど、満足はしているのだけれど…。
ゴールを目の前にして考えの纏まらなくなった僕は中央郵便局に入る事無く、夕暮れのロンドンの街を安宿へと向かって歩き始めた。

旅の始まり

 安宿と言ってもロンドンの物価は貧乏旅行者にとって死活問題になるほどに高い。とても空腹を満たすことができない小さなサンドウィッチで1食を終わらせると決めていたが、それですら高価すぎて、レジで支払いを済ませた後には決まって天を仰ぐのだった。
「旅を終わらせなければならない。」
そう決心して翌朝、再びトラファルガー広場へと向かった。そして昨日と同じベンチに座って、昨日と同じようにこれまでの旅の事を思い返し始める。

寄り道の多い旅だった。タイではスキューバダイビングに魅了されてしまい、小さな島に長く滞在してしまった。野生のコモドドラゴンを見るためにインドネシアの島を東へ東へと渡り、最後は漁船をヒッチハイクしてコモドドラゴンの生息する島へも行った。ニュージーランへ渡りヒッチハイクで一周もした。本当にロンドンまで行くつもりがあるのかどうか自分でも分からなくなるような旅だったのだが、こうしてゴール前まで辿り着くことができたことには、やはり満足している。
だが、何かがちがう…。

 正午近くになり、ようやく重い腰を上げて広場近くのフライトセンターに真っ直ぐ歩いて行った。ショウウインドーにロンドン発の飛行機の行き先と値段がぎっしりと書かれていたが、そのどちらも自分で確認するつもりはさらさらなかった。自動ドアを開けて中に入った僕はスタッフに尋ねた。
「北米か、中米か、南米行きの一番安い片道チケット下さい。」
お金が無いのだ。安ければそれでいい。行き先はフライトセンターのスタッフに委ねた。
 それから数分後にはカナダのトロント行きのチケットを握りしめていた。ここに来るまでに、いやというほどの寄り道をしてきたのだ。今更一つや二つの寄り道が増えたところで、どうということはない。何に向かって歩んでいるのかもさっぱり分からないような人生を今日まで生きてきたじゃないか。恐れることはなにもない。僕は燃え尽きるまで何かをしてみたかったのだ。そんな思いを持ってユーラシア大陸横断に挑戦し、ロンドンに辿り着いた。そこで思っていたよりも楽に到着できてしまったことに対して、戸惑っていた自分に気が付いたのだ。もうやるしかない。燃え尽きるまで何かをしなければ本当に終われない。
僕は広場を後にした。やることは決まっていた。

トロント

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