第2回米朝首脳会談の評価は時期尚早①
圧倒的なまでの「トランプ交渉術」を見せつけられた。超一流のチェスを見せられているような交渉だった。だが、これでトランプ外交の勝利や敗北、また金正恩の勝利や敗北を云々するには早すぎる、というのが私の評価だ。そこで、3回に分けてこの評価のポイントを説明する。まず会談に臨んだ金正恩、北朝鮮の思考を読み解いていこう。
北朝鮮の考えるゴールと道筋を考えたい。
〇理想的なゴール
・核保有国として国際社会に承認され(インドやパキスタンのように)、独裁体制を維持しながら経済発展を実現する(中国やベトナムのように)。
・現有核兵器は維持しつつ(多少の削減はしても2,3発の核兵器は、国際社会に認められる形で保持する)、核拡散、核増産、核開発、核研究は廃止し、国際管理下に置かれることも容認する。
・ただし、いつでも核開発を再開できるよう、核技術者・核の研究者は育成(名目は原子力の平和利用など)する。
しかし、これを国際社会やアメリカが容認するとは考えにくい。そのため、妥協できる現実的なゴールを設定していただろう。
〇現実的なゴール
・既存の核兵器は廃棄、核施設なども国際社会の管理下に置かれる表面的なCVIDの容認。その上で独裁体制を維持しながら経済発展を実現する。
・しかし秘密裏に核開発は継続し、常に「核を隠し持っているのではないか」と疑われる状態を維持する(あえて情報を不透明にすることで、相手の猜疑心を利用して安全保障を確保する戦略:正式な核実験まで北朝鮮が採っていた戦略。どんなに疑われても証拠さえ出なければ経済制裁はできない:中国、韓国がそれをさせない)。
どちらのゴールになるにせよ、北朝鮮はアメリカの求めるゴールに到着するわけには行かない。アメリカの設定するゴールは以下のようなものと理解していただろう。
〇北朝鮮が考える、アメリカのゴール
・北朝鮮の完全な非核化(核兵器は廃棄、核関連施設の完全な破壊、国土全体の査察と検証の常態化、核技術者の追放ないしアメリカの管理下に置く)。
・その上で、アメリカの強い影響下に置かれた状態での独裁体制の維持、経済発展。
これでは、いつ「リビア」のように政権が崩壊するか分からない。北朝鮮から核兵器が撤去されてしまえば、例えアメリカが韓国から撤退したとしても、軍事バランスは域内最弱になってしまう。北朝鮮の独立、独力での安全保障は崩壊する。それは、イコールとして金正恩体制の脆弱性につながってしまうのだ。
そのため、ここをゴールとし、そこから逆算して「朝鮮半島の非核化」を目指すロードマップを北朝鮮は採りたくない。だからこそ北朝鮮は「最終的な非核化」については合意しても、その「非核化」がどのような状況を差すのか、定義を定めようとしないし、そこに至るための第一歩となる「北朝鮮の核の全容(つまり、核施設のリスト)」を提示しない。そもそもリストの提示は、極めて北朝鮮の安全保障に不利になる。どこに何があるかを提示する=アメリカに把握されてしまえば、有事の際に先制攻撃されてしまうからだ。
そこで北朝鮮が非核化への道筋として要求していたのが、相互の段階的な措置だ。北朝鮮が小さく譲歩をして、アメリカも小さく譲歩をし、相互に小さい信頼を得る。またお互いに小さい譲歩、小さい信頼。徐々に譲歩を大きくしていき… という積み上げ方式だ。
しかし、これをアメリカは否定していた。なぜなら、どれだけ積み上げたら非核化に至るのか不透明だからだ。その途中までの譲歩で得た利益で、北朝鮮が核を開発するかも分からない。途中までの譲歩で満足し、それ以降非核化を進めるか保証されていない。そのため、アメリカは「完全なる非核化」に至るロードマップの合意を目指していた。段階的な措置をするにしても、ロードマップに沿って、ということだったのだろう。
第1回米朝首脳会談で「最終的な非核化」が合意されたにも関わらず、第2回米朝首脳会談に至るまでの米朝交渉が難航したのは、段階的な積み上げ式を求める北朝鮮と、ロードマップを求めるアメリカとの溝が大きかったからである。
本日はここまでとし、②では以上を踏まえた北朝鮮の外交戦術を読み解いていきたい。