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インハウスロイヤーの技法

インハウスロイヤーをやっていると社内の様々な部門の人から法律相談が来ます。そこで、インハウスロイヤーが他の部門の社員と話すときに役立つコツを今日はご紹介したいと思います。

といっても、これは私が完全に実践できていることではなく、企業内法務の大先輩から教えていただいたことです。もう少し自分もこれを実践できるようにしようと反省の意味も込めて書いております。

「つまり」ではなく、「例えば」


法務に相談にくる社員というのはそもそも相談に来る時点で、難しい状況に立たされており、その難しい状況を一生懸命整理して話に来てくれています。もうその時点で、いっぱいいっぱいの状態で状況を伝えようとしているのです。
そのような社員に対して、私たち法律家はついこれを法規範に当てはめようと抽象化してしまいます。それは、つまりどの法令にあたるのか、ということをついつい考えてしまうのです。
しかし、話というのは抽象化してしまうとわかりにくくなります。もともと難しい状況を、「つまり、こういうことですね」と法律のレベルの話をしてしまうと、法律を勉強していない社員にとっては何のことかますます理解しにくくなってしまうのです。ですから、インハウスロイヤーはそうではなく話を具体化するという癖をつけた方が良いと思います。「それは例えば、〇〇と言うことだよね」と具体例を出して話したほうがいいのです。具体例を出せば話が伝わりやすくなります。ですから、「つまり」と言いたくなったらそれはぐっと我慢して「例えば」と言った方がいいのです。これが私がインハウスロイヤーの大先輩に教えていただいたことです。「つまり、ではなく、例えば。」これを肝に銘じたいと思います。

最悪シナリオは何か? 

もう一つ教えてもらった重要な事は、最悪シナリオは何かと言うことを相談に来た社員に考えさせることです。そうすることで、その人は自分事として問題を考えてくれるようになります。
考えてみれば契約書と言うものは、契約締結時には一生懸命契約内容の交渉をしたりしますが、一旦契約した後物事が順調に進んでいる限り、めったに読み返す事はありません。何か問題が起きたときに契約書を引っ張り出すのではないでしょうか。契約書は、首尾よく物事がいかなかった時にどうするかという当事者間のプロトコルのようなものなのです。契約締結を急ぐ営業担当者は「そんなこと滅多に起きないからそこまで気にしなくていいよ」とか、「先方が一切雛形から修正不可って言ってるんだから、そんなレアケースのことをコメントしないで」と言ってくることが時々あります。このような場合には、最悪どういうことが起きるか一緒に考えてみてもらい、それでもよければそのまま進めると言う形に持っていくようにしています。

ビジネス判断ができないビジネスマン


元来リーガルの仕事は、リーガルリスクを指摘し、営業やビジネスサイドが適切なビジネス判断を出来るように法的観点からお膳立てをしてあげることではないかと思います。とはいえ、昨今はインハウスリーガルの役割が広がってきており、リーガルにビジネス判断を求められることも増えてきているのも事実です。
法律論だけではなく、会社の社会的責任やレピュテーション、法的に問題ないかだけでなく、何か会社にとって正しいかということまで考えてアドバイスする必要があると考えています。

そういう意味では、リーガルであってもビジネス判断をすることがあるのですが、本来営業やビジネスが行うべきビジネス判断を責任取りたくないがためにリーガルに「これはビジネス判断として取っても良いリーガルリスクですか?」と聞いてくる人がいて、このような場合、私は「ちょっと違うんじゃないの⁉︎」と腹立たしく思うことがあります。こちらがリーガルリスクを指摘し、良くないと思うから相手方と交渉せよと言っているのに、交渉したくないあるいはできないと言う事情があるがために、リーガルに判断を求めてくるのです。これは本来ビジネスがとるべき責任をリーガルに押し付けているようなものだと私は思うのです。
こういった場合は直接へ相手方の法務担当者と話ができれば意外とすぐに解決することであったりする場合もあるのですが、そうすることができない場合にはちょっと困ってしまいます。そのような時どうしたらいいのかと私の師匠に相談したところ、「責任半分こだ!一緒に責任取ろう」と言ってビジネス判断させるのが一案だとのことです。なかなか良い手法ですよね。自分は、まだこのような手を使ったことがないのですが、覚えておいて困った時にら実践したいと思います。

それでは、また。

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