ポケモン剣盾があまりにパンクすぎたので思う存分語る。
※このnoteでは、ポケットモンスター ソード&シールドのストーリーのネタバレが含まれます
※タイトルからお察しの通り、ネズとストリンダーの話です
ポケットモンスター ソード&シールド。
待望のswitch対応、ポケモンシリーズ最新作だ。
去年の初冬に発売され、今でも多くのプレイヤーに親しまれている、説明不要のタイトル!
舞台はガラル地方。
海外モチーフの舞台で、今作ではイギリスをモチーフとしている。
ロンドンらしい町並みの街や……
おとぎ話のような街
スチームパンクな街も存在する。
そんな、イギリスのあらゆるエッセンスを凝縮させた今作ではポケモンでの戦闘もまた、サッカーのような国民的スポーツとして描写される。主人公は8つのポケモンジムを巡り、チャンピオンを目指す旅、『ジムチャレンジ』へと出発することになるのだ。
ソード&シールドの名にふさわしい、イギリスの伝統的な部分を多くフューチャーしているのだが、遊んでみると中々どうして!
どうして!?
遊んでみるとむせんばかりのパンクモチーフがあちこちに潜んでいたのである!!
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ところで、イギリスっていうと何を思い浮かべますか?
薔薇の咲く庭、迷子のアリス、優雅なアフタヌーンティ……
いやいや、アーサー王の伝説、美しい湖、魔法使い、騎士……
それとも、霧煙る魔倫敦、切り裂きジャック、名探偵……
もしかして?魔女、吸血鬼、フランケンシュタイン、ゴシックな夜……
やっぱり、美しい芝生に煌めくボール、イングランド名門スポーツ……
わたしはそのどれでもない。イギリスといえばロックの国!
戦後まもなく、イギリスは若者文化に目覚めロックを生み出した。
戦前までは若者というものは存在しなかった。大人と子供に二分され、子供はある日を境に大人になり、仕事をして結婚し家庭を持つことを求められた。社会の……村の一員として組み込まれていったのだ。
けれど戦後、戦勝国に訪れた経済成長と安定した義務教育、発達したメディア、ベビーブームによる人口増加は、若い世代に余暇をもたらし、大人でも子供でもない若者という存在を生み出したのだった。
音楽とファッションにこだわり、同じものが好きな者同士で集まり、村ではなく好事家同志で『族』を作る……豊かな若者という土壌はロックを一過性のものにはせず、数多くの体系に別れ今日に至る。
ロッカーズ、モッズ、サイケデリック、グラム・ロック、ゴシック・ロック、ハードロック、ヘヴィメタル(HR/HMは諸説あります)……イギリス発祥のロックジャンルやスタイルはそれはもう豊富なわけだが
とりわけやっぱり、パンクでしょ!70年代後半に、一瞬だけ咲いたパンク・ムーヴメント……それはパンク以前とパンク以後(ポストパンク)と分けられるほどに、ロック文化に衝撃を与えた仇花。
いやいや。そんなこと言われても多くの人はこう思うだろう。
名前はそりゃ知ってるけれど……つまりパンクっていったいなんなの?
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パンクとは、ひとつにファッション!
破れたタイツ、ペンキが飛び散ったようなTシャツ、タータンチェックのスカート。
この「どうした、途中で事故にでもあったんか?」という破れかぶれな服には反抗という意味がある。
これらの奇抜なファッションは、パンクバンド"セックス・ピストルズ”のマネージャー、マルコム・マクラーレンとあのヴィヴィアン・ウエストウッドがロンドンの片隅キングスロード・403番地に作った店『セディショナリーズ』から発信された。
そのようなパンク・アイテムが!!
異常にポケモン・コーディネートに充実。
ライダースジャケット、パンクカットソー、タータンチェックスカート、ラバーソールまであるッ!!!全身パンクコーディネートが可能。
パンク・アイテム自体はもはやファッションの定番といえど、この充実ぶりは何!?
今作のヒロイン、マリィもピンクのワンピースに身に着けているのはライダースジャケットと首輪、しかも剃り込みまで入ったパンク・スタイルである。
この服装はただのオシャレではなく、彼女の出自を表しているということは、ポケモン剣盾を遊んだ人ならわかると思う。そう、パンク服には意味がある。
そして、パンクと言えば音楽の1ジャンルである。
セックス・ピストルズをはじめ、UKパンクの偉大なるパンクスター、そこから脈々とパンクの血統は今も続いている。もちろん、日本でもザ・ブルーハーツなどのパンクバンドが数多く生まれている。
ザ・ブルーハーツの『リンダリンダ』などは、誰もが一回は聞いたことのある名曲……
ストリンダー
まっ……まさか!
ポケモンにまでパンクがいるの!?
ストリングス(ギターの弦)とリンダリンダが元ネタっぽいコイツ、もうね、特性がパンクロックだし、感情が高ぶると胸のヒレをひっかいて音を立てるし、属性が毒と電気だし、性格でハイなすがたとローなすがたにわかれるけれど、ハイはギター(弦が6本)ローはベース(弦が4本)だしでもうパーフェクト。
わたし、switchもってなかったけど、こいつを使いたいがためにswitchとポケモンを一気に買いました!!!
戦闘中や、キャンプで見せる気だるそうな態度、基本蹴りで色々済ます戦闘モーション……設定や属性だけでなく、佇まいまでもうパンク!
完全に俺の嫁ポケモンになりました。ありがとうございました。
ロックなポケモンはストリンダーだけじゃない!
ガラル地方のリージョンフォームでは、マタドガスが紳士になったり、ポニータがユニコーンになったり、ニャースがバイキングになったり、カモネギが騎士になったりしましたけど
ジグザグマはどう見てもKISSになった。
KISS(Wikipediaより)
その進化系、マッスグマ(ガラルのすがた)は怒りや悩みを抱える若者に人気(公式サイトより)。
その進化系のタチフサグマは完全にジーン・シモンズです、ありがとうございました。
このタチフサグマをボーカル、ストリンダーのハイ&ロー、ゴリランダーをドラムとしてバンドまで出てきちゃう!
国民的公式戦で、ロックバンドが演奏するというのはまるでロンドンオリンピックみたいですね!
タチフサグマを相棒にしているのがあく属性のジムリーダー、ネズなんですけども。こう、タチフサグマと若き大槻ケンヂを足して2で割ったような姿してますけども。
彼がすごかった。パンクの権化だった。
妹のマリィとおそろいの首輪をしていますね。
こういったアクセサリー……ボンテージパンツ、南京錠、手錠そして首輪など……フェティッシュな拘束具をイメージしたアクセサリーにもまた由来と意味がある。
パンク・ファッションの発祥はマルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドが作ったお店『セディショナリーズ』から、と前述したけれど『セディショナリーズ』になるまで、店名はコロコロ変わった。
1971年、2人は『Let it Rock 』というテディボーイ向けのショップをはじめる。が、あまり未来が見えなかったので1972年には『Too Fast to Live, Too Young to Die』に変え、ロッカーズやヘルズエンジェルズ向けの商品を売りはじめた。
そして1974年にまたも模様替え&店名変更……『SEX』という名の店で、SMをイメージしたフェティッシュでボンテージな衣装を売り始めるのだった!
(この流れはファッションブランド、Vivienne Westwoodのサイトにきちんと書いてあるよ)
バンドの"セックス・ピストルズ"も、店名の『SEX』からとられたんですね。
ウエストウッドは新しいスタッフを雇い入れ、再度店の改装を行った。今度の理念(アイディア)は、今まで寝室の奥に隠されていたセクシュアルでフェティッシュな衣類を、堂々と家の外へ出して見せるということで「寝室から街中へ」がスローガンだった。
—ジョン・サベージ著『イギリス「族」物語』より
つまりはフェティッシュな意味合いを持つ拘束具を雑に着飾り、社会からの逸脱・ジェンダーの解放・拘束衣を破ったような自由を主張するのだッ!
そのような重要なパンク・アイテムが兄妹のしるし。萌えちゃうね。
そして彼がリーダーとして暮らすのはスパイクタウン。
名前からしてスパイク……鋲や棘がついたアクセサリーは、パンクの定番ですよね。街の説明看板からしてもうコレですし。
そんな街に住み、マリィを応援する気持ちが昂りすぎて主人公を妨害しまくるのがシリーズおなじみの悪い団体『エール団』ですが……
もう見た目からしてパンクだなぁ!!
個人的に一番ヤバイのは背中。男女ともに、大きな安全ピンをつけているんですね。
ジョン・サベージは著書『イギリス「族」物語』内でパンクのことを、次のように述べています。
戦後の数々の若者文化の歴史やスタイルをすべて叩き潰し、切り刻んだ上で、安全ピンでつなぎ合わせたのが、パンクたちだった。
この喩えはパンクをあらわすものとして、いろんなものに引用されています。
ヴィヴィアンとマルコムがはじめて作ったパンク的なアイテムは、売れ残りのTシャツを破いて破いて、つなぎ合わせて作ったつぎはぎの、コラージュなTシャツだった。
特に服飾史に残っているのはエリザベス女王二世の顔写真を加工したTシャツで、女王のくちびるに安全ピンピアスを刺しているのだ!
ジョン・サベージはヴィヴィアンたちが作る刺激的なTシャツデザインを揶揄し、パンクをこのようにまとめたのだ。
なので、安全ピンはパンクを象徴するアイテムなのです。
たとえば、Spotifyはパンクのアイコンを安全ピンにしています。
……を、背中に隠してる!テンションがブチ上がるわけですね~!!
そんなスパイクタウンのリーダー、ネズですが初登場は本当に突然。
ジムリーダーでありながら、ジムチャレンジ開会式に出席もせず、主人公がスパイクタウンに訪れるそのときまで、一切姿を現しません。
最後のジムリーダー、キバナはちょいちょい出てくるのに(なんならオープニングに出てくるのに)
初登場時、ライブしてる。
戦闘がはじまってもライブしてる。
愉快なメンバー紹介しちゃう。
今の今まで、ジム戦っていうのは、スタジアムでの……まるでサッカーのような試合だったのに、突然のライブぅ!?
衝撃の初登場を果たしたネズは、それまでの時間を埋めるかのようにめちゃくちゃシナリオに絡んでくる。
二回ほど、主人公の旅に同行するようなセクションがあるのだが……それにはある共通点があるのだった。
ネズが旅に同行するとき、主人公は……パンクしてる!
一回目、ガラルの実業家でありジムチャレンジの委員長、ローズの暴走を食い止めるとき
二回目、ガラルの王族であるシーソーコンビが保身のため各地で騒ぎを起こすとき
どちらも、そう、権力者や上流階級に“たてつく”ときに、ネズは協力してくれるのだ。
パンクはファッションだった。音楽だった。
そして若者文化だった。70年代後半のイギリスは「英国病」と呼ばれる状態だった。
他の戦勝国と比べ経済成長が芳しくなく、そこにオイルショックが加わり、さらに極度の民営化がもたらしたストライキによって、病院もゴミ収集車も動かないような、ノーフューチャー、未来などなにもないような、酷い状況になっていた。中世から続く階級制度(クラス)が1970年代にもなって未だに街を蝕んでいた。
希望をうたう歌などなんの現実味もなかった。まさにこの頃の若者ときたらやり場のない怒りや、悩みをかかえる若者だった(マッスグマ)。
そんな最中の1977年、折しもエリザベス二世女王の在位二十五周年記念式典(シルバージュビリー)の日、テムズ川で事件は起こった。
くだんの"セックス・ピストルズ"が無断で船上ライヴを行い『God Save the Queen』をうたったのである。
このGod Save the Queen、イギリスの国歌と同名であるが歌詞は
God save the Queen
神よ女王を救いたまえ
She ain't no human being
あの女は人間じゃない
There is no future And England's dreaming
英国の夢には未来なんかない
とか、女王を侮辱するとんでもないもので、当時の各メディアはことごとく放送禁止にした。
とはいえ2016年には、英国EU離脱を巡るあれこれの最中、保守派の政治家が『イギリス国歌を毎日の放送終了時に放送していた伝統があり、今回それを英国のEU離脱と女王陛下の90歳の誕生日を祝うために復活させよう』と言い出したことについて、BBCはイギリス国歌ではなく、セックス・ピストルズの「God Save the Queen」を流した。
時代錯誤な政治家を皮肉るために、メディア自らがセックス・ピストルズを流したのである。
現在、パンクが文化としてイギリス国民に根付いているのが垣間見えるエピソード……というか、むしろ逆。パンクは当時の若者のストレスを表現したものというだけではなく、イギリス国民に根付いたブリティッシュなニヒリズムからも生まれたものだ、と感じられるエピソードでしょう。
イギリスはパンクの他、モンティ・パイソンやマザーグースなど、皮肉に満ちたコンテンツは数多くありますからね……
だから……主人公が権力に反抗を示す時、ネズは共についてきてくれる。
設定やシナリオ的には、『いままで邪魔してきていたエール団が今度は応援してくれることに~!』という上げポイントがあったり、『スパイクタウンはダイマックスできないジムのためシーソーコンビの被害を心配する必要がなく、そのため主人公の旅に同行してくれる』などと説明されてるけども!
けれど、ダンデでもキバナでもなくネズが旅に同行するのは……パンクだからだと思うんだよね。
そして、スパイクタウンではダイマックス出来ない。
わざわざ、ローズ委員長が街の移転を申し出たのに拒否までしている。
旅をしていると実感するが、今作のジムはまるでサッカースタジアムのように、試合による観客収益で生計をたてているように思える。
ジムどころか、タウンまでが試合目的の観客相手に商売をすることで成り立っているようだ。
ジムでの戦闘BGMは歓声が入っており、大いに気持ちを盛り上げてくれるが、ことさら、ダイマックスをしたときの歓声の大きさたるや……ダイマックスというものがエンターテイメントになっており、観客はダイマックスを含めた迫力の試合を見に来ているのだ、というのを実感できる。
実際、スパイクタウンはダイマックス出来ない土地のため収益が芳しくなく、シャッター街となっており、マリィはそれを憂いてチャンピオンを目指すことになった……
それでも、ネズはダイマックスを良しとしない。本来の道端で行う戦闘にこそ、ポケモン戦闘の面白さがある、というのだった。
それはまさにッ!
70年代に入り、興行的になり商業主義に染まったロックに中指を立てた、パンクのようだ。
『ロックは死んだ』と、セックス・ピストルズのボーカル、ジョニー・ロットンは言った。
ロックは生まれた時、若者文化の中に居ました。
やがて巨大な市場を生み出しひとつの音楽ジャンルとして成立し、若者の代弁者以上の意味を持つことになりました。イギリスのみならずアメリカ、そして日本などの海外にメディアを通じて伝わることになり、世界各国で数多のロックジャンルを生み出すこととなりました。
しかし、市場が巨大化していくことは、良いことだけではありません。例えば、『ザ・ストリートスタイル』高村是州・著ではこのように記述されています。
…74年頃、キッズは大きなホールで行われるビッグなロック・スターに違和感と疎外感を持ち、概念先行のハード・ロックやプログレに飽きていたのだ。
また、『パンク・レヴォリューション』内コラム”パンクは何を変えたのか”大鷹俊一・著にはこのように……
イギリスではパブやライブ・クラブなどでの演奏がバンドたちにとっては重要な場となっていたが、そこで奏でられるような音と、大物アーティストやメジャー・デビューを飾るバンドたちのサウンドとはかけ離れたものになっていたし、ロックに夢中になる若者たちの日常生活や感覚とは、さらに接点のないものとなっていた。
60年代後半から70年代を彩る、数々の大物ロックバンドたち……超絶技巧のギターパフォーマンスや、大ホールを満席にした上での一大ロック・ショー、テレビの中のきらびやかな世界が、イギリス労働階級の貧しき若者たちには空虚なものに映っていたというんですね。
彼らの身近にはパブで奏でられるパブ・ロックがありました。失業に喘ぎ、労働階級の子として生まれたら一生労働階級という未来もないロンドンの隅で、テレビの中のド派手なロック・ショーよりも簡単な3コード進行のロックの方が身近に感じました。
そして、彼らもまた簡単でシンプルなメロディを奏で、そこにありったけの情動を叫ぶようになったのです……これが、UKパンクの興りです。
200ポンドもあればインディ・レーベルで自主レコードが作れるといった好条件の中、パンク・バンドは続々とデヴューしパンク・ロックを作り上げていった。彼らは巨大化・産業化してしまったロックを再びストリート・キッズの手に取り戻したのだ。
ーザ・ストリートスタイルより
パンクがロック文化史にとって衝撃的だったのは、このパンクの登場から、ロックは2つに分かれたことだ。保守的で天才肌なメインストリーム……ショーとしてのロック(ハード・ロック、プログレ、ヘヴィメタルはこっちより。実はヘヴィメタルはあれで保守的なのだ!)、もうひとつは革新的で挑戦者としての併流……カウンターカルチャーとしてのロック(パンク、オルタナティブ、インディー!)
メインストリームは不良にすらなれない少年少女に、テレビやラジオといったメディアから手を差し伸べ……カウンターカルチャーはロックに常に若い風を送るのである……
そう、だから、ネズもまた!
ダイマックスによる興行的な試合を嫌い、ストリートライブ会場みたいなジムで、本来のポケモン戦闘をしているのではないか~!?
なんだコイツ!!どこをどう切ってもパンクやぞ~~!!??
switch買ってよかった!!!
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タチフサグマがKISSに似てる!?と話題になったとき、当のジーン・ジモンズはニューズウィークの取材に以下のように答えたという。
「ポケモンは、子供たちが最初にそれらを発見して以来、何十年も私たちの家庭の一部でした」「そしてポケモンがKISSに敬意を表するのを見るのは光栄です。」
なんというか、わたしも同じ気持ちというか……ご家庭で愛されているポケモンに、ふんだんに、敬意を持ってパンク・ロックモチーフがあしらわれているのはとっても嬉しい……
初代ポケモンを遊びつくした小学生のわたしと、ヴィジュアル系を聞いて育った中学生のわたしが今、やっと和解した……そのような幸せに包まれているのです。
そんなわたしだが、過去にロックなゲーム作ったよ
今は触手のゲーム作ってるよ(心ばかりの宣伝)
追記を書いていたらえらい文量になったので分けました!