逆境をバネに躍進する蒲郡市|映画文化と現在を探る
自分にとって蒲郡市といえば、”マンボウ3”という古本屋や”ゲームファンタジアン”というゲームセンターがあり、親に連れられて遊んだ子供の頃の思い出がある。どちらも今は無くなってしまった。
そんな蒲郡市だが、2021年公開された映画『ゾッキ』以降、映画祭や企画展等のイベントを行っており、存在感が増しているように感じる。
そこで、一昨年から今年にかけて自分が実際に訪れた感想等から、蒲郡市の活動についてまとめてみたいと思う。
◇蒲郡市の映画文化のルーツ
まずは、以下の3点に注目して「蒲郡市の映画文化のルーツ」について語っていきたい。
①「なつかしの映画ポスター展」@蒲郡市博物館
以前にも紹介したように、昨年2月に蒲郡市博物館では「なつかしの映画ポスター展」が開かれた。
入場した際に、この映画ポスター展では蒲郡にかつて存在した映画館についての資料が配られた。このうち、自分が調べている”東映友の会”が存在したのは、恵比寿座(恵比寿東映友の会)、中央東映(蒲郡中央東映友の会)の二つである。(『東映スター名鑑 1961』の劇場友の会名簿(1961年4月時点)による)
また、同じ資料には蒲郡出身の著名な映画人である大映専務取締役・松山英夫の記事について記載されていた。
ここには載っていないが、他にも蒲郡出身の映画人に鈴木英夫がいる。戦後の東宝映画で活躍された映画監督で、自分にとっては元巨人・沢村栄治投手の伝記映画『不滅の熱球』が馴染み深い。
②「ロケ地から観る蒲郡・竹島」@海辺の文学記念館
今年4月、海辺の文学記念館では企画展「ロケ地から観る蒲郡・竹島」が行われた。
戦前から現代にかけて蒲郡で撮影が行われた作品が紹介され、一部の作品はポスターや台本などの資料も展示されていた。
旧作日本映画が好きな自分にとって、石原裕次郎主演作『雲に向かって起つ』や小津安二郎監督作『秋日和』、他にも『猟銃』など自分が思っていたよりも数が多く驚かされた。
◇近年増えつつある蒲郡市ロケ
①『∞ゾッキ』@がまごおり観光交流フェア&ガマロケ映画祭
今年3月、「がまごおり観光交流フェア&ガマロケ映画祭」が開催され、『∞ゾッキ』を観賞した。その内容は『ゾッキ』と同じ原作・大橋裕之の短編映画『平田さん』や『裏ゾッキ』だった。
『平田さん』の製作過程を追ったドキュメンタリーである『裏ゾッキ』では、ある一幕から監督の気遣いが印象に残った。
原作漫画の舞台が本屋であるため、実際にある蒲郡市の本屋と交渉する。しかし営業時間内での撮影ができず、終業後の深夜に撮影するか検討する場面があった。結果、竹中直人監督はスタッフを気遣って本屋での撮影を撮りやめ、喫茶店に舞台を変えて撮影に臨んだ。
また、蒲郡ロケ誘致の活動を行っている「ガマゴリ・ら」代表・水野順也氏が会場にいらっしゃり、少しお話を伺った。
蒲郡ロケの目的として、県外の方に町の名前を「蒲郡(がまごおり)」と読めるように覚えてもらいたい、近隣でもロケ誘致を行う市町村はあるが、ただ誘致するのではなく映画を通して町の魅力を知ってもらいたい、という思いがあるようだった。
②『零落』+竹中直人監督トークショー@名古屋シネマスコーレ
7月、竹中直人監督の最新作『零落』の上映とトークショーが名古屋シネマスコーレで開催されると聞き、予約を取って参加してきた。
本作は蒲郡と直接関係あるわけではないが、前述の『平田さん』では『ゾッキ』の原作者の大橋さんは万引き犯の役で出演していたが、漫画業界が舞台となっている本作でも漫画家として登場していた。
ガマロケ映画祭ではゲストに来られた原作者とお会いでき、監督にも会いたいと思っていたので、今回の機会に参加できて良かった。
③番外編・B級映画スポットとしての蒲郡@竹島水族館他
余談ではあるが、近年は竹島水族館も注目されている。今年放送された東海テレビ・新春ドキュメンタリードラマ『ネバーギブアップ!竹島水族館ものがたり』でも竹島水族館が舞台となった。
また、B級映画の巨匠・河崎実監督の『超伝合体ゴッドヒコザ』、『突撃!隣のUFO』のロケが幸田町・蒲郡市で行われた。 本作は幸田町が主な舞台であるが、敵怪獣ザメチが竹島水族館に現れる。
実はこうしたB級映画にもルーツがないわけではない。
それが『天界戦士ファンタジー伝説<レムリアの陰謀>』。蒲郡市が主体となって製作されたオリジナルビデオで、主演はなんと坂上忍という事で数年前に一部で話題になった作品である。現在も竹島ファンタジー館のお土産コーナーでデッドストック品のVHSテープを購入できる。
◇まとめ
ロケ誘致や映画祭の開催などを行っている近隣の都市に豊橋市がある。
二つを比較すると、豊橋市は市民主体の映画祭「とよはしスロータウン映画祭」が毎年行われており、以前は豊橋市役所観光課による「ええじゃないか豊橋映画祭」という映画祭もあった。
自分はどちらも参加した事があるが、後者が休止に至った経緯は、流行り病やアンバサダーを務めたS監督のハラスメント問題の影響もあったと考えている。
一方で、蒲郡市は2020年の『ゾッキ』の撮影以降に蒲郡ロケが増加している。自分も知らなかったが、水野順也氏によると蒲郡は10年以上ロケ誘致活動を行なっており、それが報われた形であるとのこと。
また「ガマロケ映画祭」は蒲郡が舞台となった作品を取り上げるというコンセプトは豊橋市と似ているが、蒲郡市役所と「ガマゴリ・ら」との共同での映画祭である点が異なる。
こうした経緯を追ってみて、蒲郡のケースは2020年以降の流行り病という逆境を越えて新たな「映画の街」としての存在感を示している。記事の見出しとした”逆境をバネにする”は『竹島水族館物語』とも重なる部分でもある。
映画に限らず、これからも蒲郡市が新たな魅力を持った街として発展していく事を期待したい。