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「風呂」という言葉はどこから来たの? 日本の風呂の歴史 ~お風呂大好きの日本人でもその歴史を知る人は案外少ないのでは?
知ってる? 知らない? 風呂の歴史について、立命館大学衣笠総合研究機構教授の大場修先生に教えてもらいました。
「風呂」という言葉はどこから来たのか
今でこそ「風呂」といえば湯につかること、いわゆる湯浴みをイメージしますが、日本人の入浴の歴史には、湯浴みの系譜と蒸し風呂の系譜があり、沐浴や温泉は湯浴み、風呂は蒸し風呂が本来の姿でした。民俗学者の柳田國男は小論『風呂の起源』の中で、風呂の語源について「フロは多分、室(むろ)と同じ語で、窖(あなぐら)または岩屋のことであったろう」と説いています。今でも体験できる瀬戸内沿岸の石風呂や、京都市北部の八瀬の釜風呂などが、風呂=室の実例といえるでしょう。
福祉として、娯楽として
入浴は仏教と深いつながりがあり、寺院では入浴を施すこと、すなわち「施浴」が慈善事業の一つとして行われていました。特に鎌倉時代には盛んに行われ、大規模な浴堂を造営し大勢の庶民に入浴を施しました。一方、宗教的要素を取り去り、遊興施設としての風呂もやがて造られるようになります。西本願寺の黄鶴台(おうかくだい)では大変風雅な浴室を見ることができます。
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藤浪剛一 著『東西沐浴史話』,人文書院,昭和6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1176055 (参照 2023-01-24)
柘榴口(ざくろぐち)の向こうは暗闇の浴室
江戸時代の銭湯の風呂は、浅い浴槽の上部を壁で囲い、湯浴みと蒸気浴を同時に行うものでした。蒸気を逃がさないために考案されたのが、入り口の鴨居を低い位置まで下げた「柘榴口(ざくろぐち)」で、入浴するには屈み込んでくぐらなければなりません。浴室内部には光が差さず、しかも湯気が立ち込めていて、ほとんど何も見えない状態だったといいます。
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屏風絵に描かれた京都の銭湯
銭湯の出現は鎌倉時代といわれ、それより後、安土桃山時代の「上杉本洛中洛外図屛風」の中にもにぎわう銭湯の様子が描かれています。洗い場の奥に設けられた風呂の入り口は小さく、引き違い戸を開け閉めして出入りしました。中の蒸気を逃がさないためです。このようなつくりの風呂は、戸棚に似ていることから「戸棚風呂」と呼ばれました。
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自宅で入浴! 風呂桶の発達
家に風呂桶を置き、湯を沸かして入浴するようになったのは江戸時代だとされています。主流は、浴槽内部に銅製の焚き釜を縦に通した「鉄砲風呂」と、鉄の釜の上に桶を取り付けた「五右衛門風呂」でした。ただし風呂を焚くには大量の水と薪が必要。時間もかかります。それらを節約し少ない湯で風呂に入るには、蒸し風呂方式にするのがよく、農山村では半身浴と蒸気浴を同時に行えるような形の風呂がいろいろと考案されました。
日本人はなぜ風呂好きなのか
日本人が風呂を好む背景には、夏は高温多湿で冬は寒いという気候風土的条件や、温泉大国であるという地理的条件があります。また宗教的バックボーンも関係しているかもしれません。身を清めるための沐浴は、原始神道の昔より行われていました。それから清潔好きというのも大きい。明治時代に来日した英国人言語学者バジル・ホール・チェンバレンは著書の中で、日本人は世界で最も清潔であると記しています。
話:大場 修さん(おおば・おさむ)
立命館大学衣笠総合研究機構教授。京都府立大学名誉教授。工学博士。日本・アジアの民家・伝統建築・近代建築、町並み・都市などを題材にフィールドワークを主体とした建築史・住居史・都市史研究を行っている。主な著書に『「京町家カルテ」が解く 京都人が知らない京町家の世界』『京都 学び舎の建築史 明治から昭和までの小学校』『近世近代町家建築史論』『風呂のはなし』など。