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『スワロウテイル』映画的自殺と感動的な詩情

 小林武史のテーマ曲が響き渡ると、「円都」にまた私は帰って来て、切なさでいっぱいになる。すぐに、演技に対して行き届いていない演出、無駄にブレるカメラ、逆光ばかりの照明、功を奏さない暗い映像で、魔法は解ける。そんなときに訪れる、信じられないほど美しい映像にまたムーブされる。その連続。良い面と悪い面がこんなにはっきりしている映画も珍しい。
 超豪華キャストの中で最高の演技を見せた、当時少女にして新人の伊藤歩。少しの表情の変化で観る者に強く訴えかける。「円盗」のヒーローを演じる江口洋介のカリスマ性も好きだ。殺し屋を演じる渡部篤郎と山口智子は、全キャリアでこの頃が一番輝いていた。いくら岩井俊二が下手な監督だと言っても、メインキャストの演技は多分に魅せられる。そして、なんと言っても小林武史である。劇中歌もかっこいいが、テーマ曲は本当に詩情があり、この映画のポエティックな面を大きく担っている。
 円安が進む時代での再鑑賞。むかしむかし円が世界で最も強かった頃の話。ふふふ。そんな時代など当然ない。しかし、公開した1996年には、まだしっくりくる架空の設定。中学生だった僕は、難波まで劇場に行った。ガキ過ぎて意味不明だったが、私には大切な思い出だ。それから繰り返し観て、この映画の駄目なところもより目につくが、変わらない夢のような感動があり、観終わった今も頭の中でイェンタウンの壮大なテーマが流れている。ノスタルジアと刹那が交わる、代え難い夜だった。

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