民主主義とは妥協することか?
コロンビア大学名誉教授のジェラルド・カーティス先生によるセミナー「カーティス教授の政治シリーズ」2023年の第2回が10月に開催されました。
今回のテーマは日本の政治でしたが、目から鱗のお話が多々ありました。
例えば、日本の民主主義についてカーティス先生は、「戦後の日本の民主主義は米国からの強制(押し付け)と考える人が多いようだが、そうではないと思う。戦後80年近く経つが、日本の民主主義は安定している。最初は押し付けられたかもしれないが、日本流にアレンジしたから安定しているのではないか。大正デモクラシー、憲政の常道など源流が元々日本にはあった。そして党人派の政治家(田中角栄氏、三木武夫氏等)が戦後に首相となった」とお話されました。
また、「民主主義は妥協すること!」というお話もありました。
実は2023年7月に開催したWorld reportシリーズの第3回「私たちがデンマークの民主主義から学べること」で、デンマークに在住の ニールセン北村朋子が同じことをお話されていました。
妥協という言葉に違和感がありつつ、全く異なる立場の方から同様の言葉が出たことに驚きがありました。
デンマークでは、子どもの時から議論して皆で決めることを体験しています。詳細は下記の記事をお読みください。
一般的に、日本人は議論することが苦手と言われます。協調を重視して対立を嫌う傾向が強いからでしょうか。
対立を嫌う日本はデンマークとは違い、子供のころから空気を読むことが大切と教えられていると思います。
長谷川眞理子氏と山岸俊男氏の著書『きずなと思いやりが日本をダメにする 最新進化学が解き明かす「心と社会」』に興味深いことが書かれていました(これは、カーティス先生からお薦めいただいた本です)。
相互協調性はポジティブとネガティブなものがあり、ポジティブな面として、問題や課題に対して協力して一緒に解決していこうという発想です。一方でネガティブな面は、問題や課題を解決するのではなく、波風を立てないようにすることで、これが空気を読むことと、説明されていました。
また、『フランスのウォーカブルシティ:歩きたくなる都市のデザイン』の著者のヴァンソン藤井由実さんは、妥協についてより具体的にお話をされていました。
下記は、対談イベントの中で「政策を決めるにあたっての合意形成とノイジーマイノリティへの対応」についてヴァンソンさんが具体的に述べられている部分です。
日本の場合、空気を読んで、波風を立てないように異なる意見を言わないで「そうですよね」と論調を合わせていくことに慣れています。そのため、異なる意見が出ると「反対されている」と自分の意見に対してではなく、自分が否定されていると感じることが多いのではないでしょうか。そして、その異なる意見について、説得する、納得してもらうという態度になると思います。下記の図の左側のように、人と人とが対立しているイメージです。
そうではなく、きっと課題に対してお互いが同じ方向をみて、異なる意見に対してもその課題に対して何がより良いかを考えるのが協調で、下の図の右側で、課題(★)へ向きがあっているイメージです。
ところが日本の協調は、課題に向かって協調するというよりも、お互い向き合って波風をたてないことを協調と位置付けていると感じます。
そこで、「自分に対する反対意見と捉えるのではなく、課題に対しての異なる意見と捉えて、違いの中から参考になる部分を加味して最善の妥協案を作っていく」ことが大切だと思います。
また、「カーティス教授の政治シリーズ」2023年の第2回が終了したのちに、そのダイジェスト版としてアカデミーヒルズのポッドキャストで、カーティス先生にお話をいただきました。
この記事の冒頭で紹介した「日本の戦後の民主主義は米国から押し付けられたのではなく、日本には民主主義の源流がそもそもあった」というお話や、「民主主義は妥協することだとしたら、日本人の空気を読むことは妥協か?」などについて、お話をいただきました。
是非ご視聴ください!
アカデミーヒルズ 熊田ふみ子
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