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『社会保険料の本旨』:社会保険料とは、何のために存在するのか?


1.社会保障制度とは何か?

18世紀後半のイギリスで起きた産業革命以後、資本主義が導入された直後においては、事業者(資本家)のみが、一方的に富の蓄財を行い、労働者(貧困層)は、いくら働いても貧しいままという状況が一般的でありました。

そして、労働環境も現代に比べれば、劣悪で、失業や怪我等への十分な保障も存在しなかった訳です。


そこで、労働者の人権を保障するために、政府が、強制的に、企業に対し、労働者の処遇を改善するという目的を持って、労働者を一人雇う毎に掛かる社会保険料と呼ばれる手数料を課した訳です。

つまり、社会保障制度とは、現役労働者のための制度であり、社会保険料とは、本来、現役世代の労働者の処遇改善ために使われるべきお金なのであるという事が出来ます。


2.社会保険料の用途は、現役労働者が決めるべきである

現在の社会保障制度というのは、現役労働者の意見に耳を貸さず、高齢者が得をするような制度にばかりお金が使われていると言えます。

なので、現代の制度下においては、一部、現役世代の労働者が得をするような制度があるものの、実態的には、搾取する者が、資本家から政府へと変貌を遂げただけで、全く、現役労働者の人権が優先して保障される形に成っていないと見做す事が出来ます。


ですから、私は、現在の社会保険料の使用用途の決定プロセスを改革し、本来の社会保険料の本質に基づいた上で、現役世代の労働者こそが、社会保険料の用途について、決定権を持つような制度を作り直すべきであると考えます。

そうすれば、企業から徴収された社会保険料を、そのまま、現役労働者の給与に転換する事が可能と成りますから、現役労働者達の意見次第では、手取りが急激に増えるという事も、有り得る訳です。


3.高齢者福祉は、租税で賄われるべき

現在の日本の現役労働者が、どう考えるかは定かではありませんが、今の日本の風潮を見れば、社会保険料を現役労働者に還元(給付)し、現役労働者の手取りを高めて欲しいという意見が大半であると思っております。

そう考えるならば、高齢者福祉への社会保険料支出は抑えるべきであり、社会保険料を原資にした高齢者福祉は、80歳以降は行わない等、そのような限度を設ける必要があると考えます。


そもそも、世界各国の社会保障制度の原資の変容を見れば、社会保険料から租税への転換が、率先して行われている訳です。

ですから、社会保険料はそのままに据え置く場合であっても、それは、現役世代の労働者の賃金向上やその他待遇改善の原資へと使われるべきであると考えます。

その代わり、高齢者福祉の原資というのは、消費税・資産課税・金融所得課税・赤字国債という租税ベースに転換させるべきで、それに合わせ、福祉の質も落とすべきであると考えます。


4.アメリカで、富の格差が拡大した理由

アメリカ合衆国における労働生産性と賃金の差(1948-2017)

"何故、アメリカで、貧富の格差が拡大してしまったのか?"という事の理由と端的に申し上げると、政府が、社会保険料を引き上げる事を怠ったからであると言う事が出来ます。


アメリカの格差社会というのは、1970年代の石油危機に端を発しており、2024年現在まで、経営者ばかりが儲けを得て、労働者には、儲けが還元されないという状況が続いている訳です。

つまり、日本と同様に、アメリカにおいても、高度成長期に限っては、企業は、自ずと、労働生産性の向上に合わせ、労働者の賃金を引き上げるという事を行っていた訳です。

しかし、アメリカで言えば、1970年代の石油危機による不況によって、アメリカの企業は、"労働生産性の向上に合わせて、賃金を上げていたら、国際協力に負けてしまう!"と考え、労働者の賃金を引き上げる事を辞めてしまった訳です。

そして、下図の通り、日本で言えば、1990年のバブル崩壊後に、同様の事が起こり始めた訳です。

日本の実質賃金と労働生産性

勿論、労働生産性の向上に合わせた実質賃金の向上が行われなくなってしまった事についての企業の思惑については、"政府が、不況に合わせて、企業の負担を低減させないからだ!"という事が考えられるので、今後の政府の運営をする上で、"不況下においては、柔軟に、企業負担を軽減する"という対応は必須になるでしょう。



5.貧富の格差を是正するには、どうすれば良いのか?

しかし、現実的には、社会保険料や消費税等、企業への負担を引き上げねば、資本家と労働者の格差の是正は行えない事は事実であります。

ですから、生産性や企業業績と、従業員の報酬に乖離がある企業に対しては、個別に、社会保険料を引き上げ、労働者に還元するという対応が必要であると考えます。


時々、"トリクルダウン理論"というものを持ち出す有識者が、現代にも存在致しますが、元々、この理論は、1980年代に、ロナルドレーガンが掲げた理論であり、トリクルダウン理論は成り立ち得るのは、高度成長期という限られた時期に限られ、その他99%の場面においては成り立ち得ないという事は、既に、歴史上何度も証明されている訳です。

ですから、企業が、自発的に、労働者の待遇改善に乗り出す事を期待するのではなく、基本的には、社会保険料の増額等の公権力を行使する事でしか、資本家と労働者の格差を埋める事は出来ないと考えて問題ない訳です。


6.赤字企業に消費税や社会保険料を課すのはおかしい

また、社会保険料やその他租税というのは、根本的に、"余裕があるのに、公や労働者に富を還元しない企業を問題視した上で、そういう独善的な企業を罰するために設けられた規定"であるという事が出来ます。

ですから、その前提に立てば、余裕がない企業に対し、社会保険料や消費税の課税を行う事自体が、間違っていると言えます。


ですから、社会保障費の削減を行ってでも、赤字企業に対する消費税や社会保険料の課税は、即座に辞めるべきだと思っております。

そうでなければ、今後、企業経営者を目指す国民が、居なくなってしまう事でしょう。


まとめ.

直近では、岸田文雄元首相が、社会保険料を原資に、子ども・子育て支援金なるものを創設いたしましたが、"社会保険料は、高齢者のために使われるもの"という常識が覆されたため、ある意味、活気的であったと評する事も出来ます。

最近、政府は、賃金上げを呼びかける活動を行っておりますが、基本的には、経済成長しない限り、賃金は上がりませんので、万年GDPの成長率が、0%で均衡している日本においては、大胆な賃上げが成される事はあり得ないと言えるでしょう。

ですから、そういう状況下においては、社会保険料を、直接、現役世代の労働者に還元するという施策を行う等、政府が主導する形でしか、賃上げは実現され得ないので、社会保険料を増額する等の対応に合わせ、そういった、現役世代が得をするような政策を実施する必要性は、益々高まっていると言う事は、間違いありません。


参考文献.

・資本主義の宿命 経済学は格差とどう向き合ってきたか (講談社現代新書)

・社会政策 -- 福祉と労働の経済学 (有斐閣アルマ)


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