ある年の高校演劇県大会の講評

屋上革命

 幕開けで屋上の雰囲気がきっちり出ているので、場所の設定は成功しています。登場人物が2人、フラットで何も置き道具がないという、照明泣かせな舞台だったと思いますが、ホリゾントに多様な色を映してかなり健闘していたと思います。
 放課後を表すようなガヤの音も工夫されていて、時間がわかるのですが、入るきっかけや消すきっかけ、レベル、また、どのくらい流すのか? ということをもう少し細かく考えた方が効果的だったと思います。場面の要求によって風に乗ったガヤが聞こえてきたり消えていったり、そんな工夫も出来たでしょう。また、好みの問題もありますが、場面転換に先行して音が入ってくる方がスマートです。
 オープニングで、子ども時代から成長するにつれ、夢を断念したり、抑圧されたり、という様子が断片的に描写されます。これは何のことなのかな? という掴みにはなりますが、登場する二人が感じているであろう抑圧などは、実感として観客に伝わる仕組みにはなっていません。なので、それが伝わるように二人の会話が始まってから実感として伝わるような内容がやりとりされれば良いのですが、なかなかそうなっていないのが現状です。これは演じ手や演出の問題ではなく台本の問題です。
 たった二人しか登場人物がいないので、どうしても単調になりがちですが、まずはテンポを上げる(セリフのスピードではなくやりとりの間を極力なくすこと)、そしてセリフを強く言うだけでもかなり印象は変わると思います。
 屋上に忍び込んで一人写真を撮っている、なおを見つけて六花が驚いた風情を見せないのがちょっと疑問です。誰も居ないはずの屋上に生徒を見つけたら、怒らなくても驚くでしょう。それから、サボりに来たらまずサボりましょう。
 六花には、なおに話しかける動機が必要です。台本を読むと、何となく話しかけてしまっていますが、この、知らない人に話しかける手続きというのはとても重要で、ただ何となく話しかけるのは、特に日本人ではあまり考えられないのです。また、話し好きの人はいますが、大体そういう人は自分語りが好きで、聞いてもいないことを話しかけてきます。そういう人物造形であれば納得しやすいのですが・・・。
 屋上革命に至る流れも唐突ですが、それは置くとして、セリフとBGMのバランスがあまり良くありません、セリフそのものも聞こえにくいのですが、それに加えて、BGMのレベルが高くて、ほぼ全く聞き取れなくなります。
 革命ごっこは、当人たちが心から楽しんでいると良いのではないかと思います。この場面が弾んでいれば、その後のなおの演説が多少なりとも生きたのではないかと思います。
 全体的にセリフが聞き取りにくかったのですが、なおが「シックスセンス」と言ってから始まるセリフはとても良く聞き取れました。この状態のセリフは声の調子なのかそれとも何か他の要素があるのは判然としませんが、内容も良く伝わりました。ここはなぜそうなったのか良く考えて、それを全体のセリフに反映させると段違いに言葉が伝わると思います。
 思春期から高校生くらいにかけての抑圧感のような空気が、この作品にはあるのだと思いますが、現実の生活の中にあるそういうことを自分たちの言葉で綴った方が、より実感のこもったモノになると思います。自分に降りかかってくる抑圧の正体を見極めて、具体的な言葉になったモノを観てみたいと感じました。

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