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死人に口なし。

※なにもそんな恐ろしい話ではない。

わたしの母は、曾祖母が亡くなったときに足首を骨折した。
曾祖母の死とは直接なんの関係もなく、気が滅入っての不注意だったのかもしれないけれど、我が家では誰かが亡くなったとき、その魂は痛みで生きている者に感謝を伝えるのだ、という考え方が確固としてあった。

うれしい、きもちいい、たのしい、なんて感情は、喉元をあっという間に過ぎてしまうので、ずきずきと響くたびに意識せざるを得ない、痛みに生前のあれこれを託す。
以前お付き合いしていたひとの猫が亡くなったとき、ちょうどそのひとのお父さんが仕事中機械に腕を挟まれた。あわや大惨事。
そのときにも件の話をして、言われもなくものすごく感謝されたのを覚えている。

今日、いつもよりも早い駅までの帰り道、普段通ったり通らなかったりする細い道で、足首を捻った。
電車に乗って足首をくるくる回してから、母から連絡が来ていることに気がついた。
最近のあれやこれやで、数年会えていなかった従兄弟のおばあちゃんが亡くなったそうだ。

母の弟はお嫁さんの実家に暮らしていて、そこで従兄弟たちも育ったので、どことなくうちの母に似ている弟のお嫁さんのお母さん、従兄弟のおばあちゃんともよく顔を合わせた。
明るくてええね、かわいらしいね、いつもそんな風に褒めてくれて、夏でも居間に座ると必ずあたたかいお茶を出してくれた。

会いたかったなあ。
もしかして、なにか、伝えてくれてるのかなあ。

捻ってすぐはなんともなかった足首が、今になってずきずきと痛む。
先日ワクチンを打ったときには額に貼っていた冷却シートを、左の足首にぺたりと貼っている。

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