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映画で学ぶフランス文学[大きな鼻の詩人] Cyrano de Bergerac

「心に秘めた愛、誇り高き男の物語。映画『シラノ・ド・ベルジュラック』で出会う、究極のロマンティズム」

『シラノ・ド・ベルジュラック』はただのロマンス映画ではありません。大切な人に何かを伝えたいけれど、言葉にできない…そんな経験がある人なら、シラノの姿にきっと共感できるはず。


美しい詩、勇敢な剣術、そして片思いの切なさ——そんな魅力が詰まったフランス映画『シラノ・ド・ベルジュラック』は、愛することの意味を問う、感動の名作です。

愛と勇気、そして美しいフランス語の響きに包まれた『シラノ・ド・ベルジュラック』。見終わった後、きっとあなたの心には、切なくも美しいシラノの愛が深く刻まれることでしょう。


『シラノ・ド・ベルジュラック』(Cyrano de Bergerac)は、1897年にフランスの劇作家エドモン・ロスタンが書いた戯曲で、美しい愛と勇気、そして切ない片思いがテーマです。

あらすじ

シラノ・ド・ベルジュラックは、卓越した剣の腕前と詩才を持つが、大きな鼻にコンプレックスを抱える騎士です。彼は自分の外見に自信が持てず、密かに思いを寄せる従妹ロクサーヌに自らの愛を告白できません。ロクサーヌは知性豊かな女性で、シラノと幼馴染ですが、彼のことを友人としてしか見ていない様子。

一方、ロクサーヌは若くて美しいが少し内気な兵士クリスチャンに心を惹かれていました。クリスチャンもロクサーヌを愛していますが、自分の言葉では彼女の知性にふさわしい愛の表現ができるか不安に思っています。そこで、シラノは彼に代わってロクサーヌに手紙を書き、彼の恋をサポートすることを決意します。

シラノの詩的な手紙に感激したロクサーヌは、さらにクリスチャンへの愛を深めていきます。シラノは影でロクサーヌを愛しつつも、クリスチャンのために詩と言葉を贈り続け、彼女の心を射止める手助けをし続けました。

しかし、戦争が激化し、シラノ、クリスチャン、ロクサーヌの三人の関係は悲劇へと向かいます。最終的に、クリスチャンは戦死し、シラノは長い間、自分がロクサーヌへの愛の言葉を書いていたことを隠したまま別れます。

年月が経ち、最後の時が訪れた時、ロクサーヌはようやくシラノこそが手紙の「本当の書き手」だと悟るのです。彼がずっと影から自分を愛し続けていたことを知ったロクサーヌは、深い悲しみと後悔を抱きますが、シラノは最後まで誇り高くその思いを胸に秘めたまま息を引き取ります。

名シーン集

『シラノ・ド・ベルジュラック』の中で最も有名なシーンは、「バルコニーのシーン」です。この場面では、シラノが影から愛するロクサーヌに愛の言葉を語りかけるシーンが描かれ、物語の中でも非常に印象的で美しい場面とされています。

クリスチャンと恋仲になったロクサーヌの心を射止めようとするも、自分の語彙力に自信がないクリスチャンは、シラノの助けを借ります。シラノは暗がりに隠れながら、ロクサーヌの心を揺さぶる美しい愛の言葉を代わりに語ります。

シラノが紡ぐ詩的な言葉に、ロクサーヌはますますクリスチャンへの愛を深めていきますが、実際に愛を語っているのはシラノその人です。このシーンでは、シラノの切ない片思いと、言葉に託された彼の真実の愛が強く表現されています。


バルコニーのシーンでシラノがロクサーヌに向けて語るセリフが有名です。

「君が僕に微笑みかける時、僕は天使に会ったように感じる。そして君が僕を見つめるとき、僕の心は、世界のすべての輝きで満たされる。」

シラノはここで、ロクサーヌへの愛と敬意、そして自らの言葉への誇りを表現しています。この言葉はシラノが影に隠れながらも全身全霊で愛を告白する場面であり、彼の純粋な愛と内なる苦悩が交錯する、物語の中でも特に心打たれるシーンとして多くの人々に愛されています。

この有名なシーンの英語字幕付きの動画はこちら↓

原作との違い

『シラノ・ド・ベルジュラック』は1990年と2021年と合計二回映画化されています。
それぞれの映画で少し原作と違う部分があるのでそこを紹介していきます。

はい、『シラノ・ド・ベルジュラック』は映画化のたびに、原作の戯曲と異なるアプローチや解釈が加えられ、いくつかの違いが生まれています。

  • 1990年のフランス映画『シラノ・ド・ベルジュラック』(監督:ジャン=ポール・ラプノー、主演:ジェラール・ドパルデュー)

  • 2021年のミュージカル映画『シラノ』(監督:ジョー・ライト、主演:ピーター・ディンクレイジ)


1. キャラクターの描写

2021年の『シラノ』では、シラノの「大きな鼻」が取り除かれ、代わりにピーター・ディンクレイジの小柄な体型が特徴として使われています。これは、体型や容姿に対するコンプレックスを別の形で表現し、シラノが自分に対する自信を持てない理由として説得力を持たせる意図があります。

原作のシラノは鼻に対して非常に敏感で、他人に鼻をからかわれると激昂しますが、2021年版ではこうした要素が体型に置き換えられたことで、彼のキャラクターの側面が少し異なって描かれています。


2. バルコニーシーンの演出

1990年の映画では、バルコニーシーンがほぼ原作に忠実に再現され、シラノの影からの愛の告白が詩的に描かれます。このシーンではシラノのせつない表情や声の抑揚が印象的で、観客に強い感動を与えます。

一方、2021年版のミュージカル映画では、このシーンに音楽と歌が加わり、ロクサーヌやシラノ、クリスチャンの心の動きをより感情的に表現しています。

3. エンディングの描写

原作のエンディングでは、シラノが自分の想いを最後までロクサーヌに告げず、最期に自らの誇りを守りながら息を引き取ります。1990年の映画でも、このシーンが忠実に再現されています。

2021年版では、音楽とともに最後のシーンが演出され、シラノのロクサーヌへの想いが一層劇的に描かれています。ミュージカルならではの表現で、感情が高まり、切なさが際立つエンディングとなっています。


4. ロクサーヌとクリスチャンの関係

原作や1990年版では、ロクサーヌは詩的な愛に憧れる一方、クリスチャンの外見にも惹かれています。シラノが影からサポートしていることに気づかない純粋さが描かれます。

2021年版では、ロクサーヌのキャラクターに現代的な独立心が強調されており、彼女がクリスチャンの外見だけでなく内面も求めている様子がやや強調されています。


5. 音楽や詩のアプローチ

原作のシラノは、フランス文学の詩的な表現を多用し、韻を踏んだセリフが特徴です。1990年版の映画はこの点を忠実に再現し、詩的な台詞をそのまま採用しています。

2021年版では、セリフや感情がミュージカルとして歌で表現されるため、詩の繊細な言葉遊びというよりは、感情を音楽として表現する方向へアプローチが変化しています。

どちらの映画も違った方法でシラノの心境を表しているといえると思います。
個人的には1990年の映画のほうが好きでした。詩で愛をつ会えるシーンはどうしてもフランス語だと理解するのは難しいのですが、原作を忠実に再現していて心惹かれます。
また、主役のシラノを演じた俳優がまさに本人かのように演じていて、とても感動しました。

1990年のフランス映画『シラノ・ド・ベルジュラック』で主演のシラノを演じたのは、フランスの名優 ジェラール・ドパルデュー(Gérard Depardieu) です

。この映画で彼は卓越した演技力を披露し、シラノの内面にある繊細さやユーモア、そして激しい情熱を見事に表現しました。ドパルデューのシラノは、豪胆でありながらコンプレックスを抱える複雑なキャラクターとして、多くの観客に深い印象を与えました。

ジェラール・ドパルデューのプロフィール

  • 生年月日:1948年12月27日

  • 出身地:フランス・シャトールー

  • 代表作:『最後の手紙』『グリーン・カード』『ヴァンサンへの手紙』など、フランス映画を中心に多数の作品に出演

  • 受賞歴

    • 1991年、アカデミー賞主演男優賞にノミネート

    • 同年、ゴールデングローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞

    • セザール賞(フランスのアカデミー賞)を複数回受賞

1990年版『シラノ・ド・ベルジュラック』での評価

ドパルデューのシラノ役は、情熱的な台詞まわしと圧倒的な存在感で絶賛され、セザール賞主演男優賞を受賞しました。また、この映画はアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされ、国際的にも高い評価を得ています。


この映画を通して、フランスの文学的な精神が今なお息づく“愛”と“理想”を、ぜひ感じ取ってください。シラノの純粋で高貴な愛に触れたとき、きっと心に残るものがあるでしょう。


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