連載小説「まん・まる」 第四章 話して、和して、輪にして、そして。2
ゆうべなぜかあまり眠れなくて、ホームルームのさなかについ、うとうとしながら僕は午前中の「生物」の時間の実習のことをうっすら思い浮かべていた。
それは、ヒメダカ(※1)の水温とその時の呼吸数の相関を調べる実験だった。装置の設定温度を5℃刻みで変えていったときに、ヒメダカの1分当たりの呼吸数がどのように変化するかを記録していくという実験だ。班で僕がカウント係だ。
さいしょは、平温の20℃からスタートした「150回」。温度を下げていくにつれ、15℃の「157回」をピークに呼吸回数はどんどん減っていく。10℃のとき「76回」。5℃のときには「46回」。常温のときの3分の1の回数に激減した。下げるのはここまでだ 5℃と言えば、冷蔵庫の庫内温度に近い。
「早く温度を上げていかないとかわいそう」と、班の女子が声をあげた。
水温設定係が、10℃に戻す。おっ「65回」。15℃「100回」。20℃「170回」いいぞ。もっと上げていく。今度は、常温よりも高い水温だ。やはり予想通り、呼吸数が増えていく。25℃「181回」。30℃「195回」。 35℃のときに、異変が起きた。呼吸が突然止まったのだ!。
「あーっ!」僕は思わず叫んだので、他の班から何事があったかと不審がられた。
「実験中断」そう、かわいそうに、35℃の実験中に、温度上昇に耐えきれなかったためか、ヒメダカくんは死んだ。僕やメンバー全員がショックを受けた。予定では35℃を上限に、再度水温を下げて常温に戻すのだったが。
と思っていたら、なんと言うことでしょう☆彡。ヒメダカくんが蘇生した。また、呼吸がもどったのだ。僕や班のみんなは思わず拍手して「よかった」と喜んで言った。
ここは、実験中止にしてヒメダカくんには、ゆっくり養生してもらうことにした。
生物の小森先生が僕らをなぐさめて、ヒメダカくんをしっかり元気にすると約束してくださった。ついでに、2学期の成績には影響なしにしてください。テストは一夜漬けで頑張りますから。そう心の中で小森先生にうったえた。
◇
文化祭の出し物は、クラス全員の多数決で決めようとして、投票の結果〈展示〉と〈縁日〉の競り合いになった。抜きつ抜かれつ、正の字が二つ三つ積み上がって競い合う。両者が並んだ。そして最後の一票が発表された……「縁日」と。
歓声と、ため息が同時にわいた。
〈縁日〉をどんなふうに、どうしていくか。西川が意見を出した。
「クラスを8班ぐらいに分けて、時間帯で当番班が〈縁日〉の店番、もう一つの班が教室から出て、宣伝をしたらええんちゃう。で、非番の班のメンバーは自由行動や」
「そやな」すんなり決まった。
1班あたり8人ぐらいの配分だ。班決めは最初好きなひとどうしがあつまるという案もあった。
でも、それだと小ぢんまりまとまりすぎてしまう、というもっともな意見が通って、公平になるようにくじ引きにした。クラス人数分の棒に番号を1から8まで同じ数書いたものを混ぜて、一人一人引いてもらおう。
よし!もしも、運良く谷っぺと同じ班になったら、二人で班をリードして思いっきり盛り上がるように持っていこう。それをすれば、谷っぺとの距離もぐっと近くなるだろう。でも、もし別の班になったら……、その時は仕方がない。そこでベストを尽くそう。
牧田さんと同じ班になったら、ちょっと彼女を意識するかもしれない。けど、今は谷っぺこそが本命だ。自信をもって言える。牧田さんとはよきクラスメートとして、一緒に盛り上げていこう。
西川と同じ班になったら、あいつとコンビで盛り上げていこう。今までなら、たづなをしっかり締めておかないと、不安なところがあったが、奥田さんと付き合いだして、性格も少し落ち着いているようだ。彼のいい部分を生かして成功へ持っていこう。
中原はどうだ。あれ以来、谷っぺ経由の、奥田さん情報によれば、吹奏楽部がうまく回っているらしいのでひと安心だ。そっちも忙しいだろうが。ちょっと嫌な言い方だけど、彼には貸しもある。
ほかのクラスの出しものの情報をまとめると、「お化け屋敷」「演劇」「展示」「クイズ大会」など、僕らの思いついたこととまあおんなじレベルだが、楽しそうだ。負けられない、頑張って盛り上げていこう。
縁日でどんな店を出すか、そこが肝心だ。
――つづく――
※1.ヒメダカ(緋目高)はメダカの突然変異型(品種)の一つ。観賞魚として、もしくは肉食魚の餌として販売されている。また、飼育が容易であることから実験や研究にも利用される。
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※いわ さんの画像をお借りしました。
※閒(あわい) さんの画像をお借りしました。