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インタビュー その4(ロバート・ボルショスさん、ゲオルギ・シャシコフさん)



「モーツァルトのヴィオラとヴァイオリンのための二重奏曲(K.423)です。二楽章から始めて、一楽章に行きます。今日は(オリジナルの)ヴァイオリンとヴィオラではないです。いつも挑戦です。」とファゴット奏者のシャシコフさんによる曲目紹介のあと、演奏は始まりました。

西田:ありがとうございました。ボルショスさん、シャシコフさん、宜しくお願いいたします。
 実はお二人は、ゲオさんとロビさんと、最初にお会いしたときに紹介いただいたので、本日もそのように呼ばせて頂こうかと思うのですが、宜しいでしょうか?
 
シャシコフ:はい、もちろん。実は名フィルでは最初から、私は勝手にゲオちゃんと呼ばれていて、それが一生残っています。ある時期、「もうゲオさんって呼んでください」って言ってみたけど、ただ笑われたんです。

西田:それで未だにゲオちゃん。

シャシコフ:はい、ゲオちゃんです。もう年齢もかなり下の人からもゲオちゃんって言われています。

西田:そうなんですね。じゃ、もうそれは「さん」になることはない?

シャシコフ:しょうがない。

西田:ロビさんはロビちゃんと呼ばれるんですか?

ボルショス:ロビちゃん。ホテルのロビーですね。ロビーさん。

西田:楽団の中ではゲオちゃん、ロビーさんなんですね。
素晴らしい演奏をありがとうございました。

シャシコフ:よくできた。

ボルショス:嬉しい。

西田:良かった。

シャシコフ:私たちは、いつも挑戦している。完成しているところもあるけども、本当に難しい。別に「(この曲は)難しいです。だから私たちは上手なんです」と言いたいわけではなく、本当に難しい。でも(今日は)、今までで一番うまく演奏できたかなと思うので、うれしかった。

西田:おお、素晴らしい。今回の演奏は、二楽章のあとに一楽章に戻られたじゃないですか。そういう演奏のスタイルは一般的なんでしょうか?

ボルショス:これは私のアイデアです。テンションをあげていこうと思って。

西田:なるほど。そうやって自由にというか、アレンジして良いものなんですね。

シャシコフ:良いと思います。音楽の規則はあんまり好きじゃないですね。

西田:自由で良いということですね。

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西田:では早速、リスナーの方から質問を頂いているので、そこから始めようと思うのですが。
「こんにちは、いつも素晴らしい演奏をありがとうございます。定期演奏会の中止が告げられたときや、活動再開が未定だったときに、まず何をお考えになりましたか?」
というご質問ですが、自粛期間に入ったときのお気持ちを、まずはお伺いしたいなと思います。

シャシコフ:まぁ複雑な気持ちでしたね。とりあえず自動的に考えることは「いつまた演奏できるようになるの?」で、予測しようとして、でもこういうときは予測できなくて。例えば昔のスペイン風邪は3年かかりましたよね。今は技術開発も進んでいるらしいけど、人口も多いし、もっと密集しているし。だから私は勝手に9月には全く前の状態に戻っていると思ったけど、ちょっと甘かったですね。でも今、演奏はほとんど普段のように出来るようになって、本当にうれしいです。家でずっと座って、私はすごい絶望し、暗くなり、家族にも影響が出ましたね。ロビは?

ボルショス:私も心配しましたね。どのくらい長い?演奏が出来ないのか?など緊張がありました。シャシコフさんともいっぱい話しましたね。9月なのか、それより前か後か?1年なのか?外国からもいろんな話を聞いて、アメリカでは1年なのか、とか。全部中止になって日本でもいつできるのか心配しましたね。

シャシコフ:過去にもSARSとかMERSとかいろいろありましたよね。でも何となく広がらないようにしたし、それを望んでいたけど、今回はちょっと甘かったですね。

西田:そうですね。世界中が同じ状況になってしまって。そのようにして、自粛期間が始まってしまったわけですが、その期間中にお二人は毎日されていたこととか、例えば新しく始めたことがあったら。聴いていた音楽とか、読んでいた本とか。そういったことをお聞きしたいのですが、ロビさんはロードバイクに乗られていて、ゲオさんはご家族で毎日一時間歩いていたということですが、それは運動が大事ということでしょうか?

ボルショス:私は以前から自転車が結構好きで、3月から7月までは家から金山まで自転車で40分位、運動と体操のために乗っていました。

シャシコフ:すごい運動になります。私もやったけど、電動自転車でやった。ロビはどうやってこれを自転車でやるの?と思った。行って帰ったら、もう家で寝ても良いかなと思った。だからこの人はすごく強い。

ボルショス:いい時間だった。電話も見れないし。

西田:何かに集中して向かう、みたいな。

ボルショス:そう。練習した後に、家までもう一回(自転車で移動して)

西田:ちょっとリセットできますよね。

シャシコフ:自分も運動した満足感はありますね。うらやましい。自分にはそういう意志はなかった。自分が住んでいるのは東山公園のちょうど裏で、そこからすぐ東山に登って。もうガイドできますよ。いろんなところから入って、行ったり来たりして。でも子どもたちは飽きてしまって、「今日は散歩に行こう」と言っても「いや、行かない」と言われて。「行こうよ。ずっと家の中にいるのは、よくないよ。精神的にも身体的にも」って言っても「嫌だ、テレビを見る」って。で、こっちもプッシュするエネルギーもディミヌエンド(減退)してしまって、残念ながら。でも探検はお勧めです、東山。本当に小さいけども、いろんな道があって。

東山一万歩コースの地図↓

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西田:じゃ、探検しがいがありますね。また、お二人とも音楽を聴いたり、コメディを観たり、本を読まれたりされていたということですが。ロビさんはクィーンとか、ビートルズとか。

ボルショス:クィーンは大好き。子どもたちも好きですね。結構いっぱい聴きましたね。

西田:またジャズなんかも聴かれたりと。いろいろと聴かれるんですね、ご自宅で。

ボルショス:そうですね。私は音楽はクラシック音楽だけではなく、ジャズもロックも、全部なんでも。

西田:それはクラシックの演奏家の方は一般的なんですか。皆さん、そういう感じですか?

シャシコフ:そういう風に思いたいけど、みんなはそこまで聴いていないですね。例えば私たちは、仕事・職場ではクラシック音楽は心を満たして、他のスタイル(の音楽)も聴きたくなって。私もジャズとか好きです。

西田:音楽は音楽ですもんね。

シャシコフ:そう、そうです。だから分けるのは何だか。音楽を好きか好きじゃないか。わからなくても良い。好きじゃなかったら聴かなくて良いし。音楽はどういう風に分かる?好きだったら分かるってことになるのかな。Definition(定義)はないですね、「音楽が分かる」ってことは分析をすること?でも聴きながら分析はできないですよね。だから、好きか好きじゃないか、で良い。どんな音楽でも。

ボルショス:クラシックだけは(ファンが)少ない。ダメじゃないけどね。
 私はバンドをやっています。アコーディオン、ヴァイオリン、トロンボーンとクラリネット。みんな外国人。イタリア人のアコーディオニスト、ヴァイオリニストもイタリア人で、トロンボーンはアメリカ人と、私で、毎年宗次ホールでコンサートしています。結構面白い。

シャシコフ:すごいインパクトあるんですよ。すごい迫力。

西田:いろんな引き出しがあるからできるって感じですね。ロビさんは、小曽根真さんのWelcome to Our Living Room(配信)もずっと聴かれていたということで。

ボルショス:彼は素晴らしくて、日本に来る前から好きで、大学で音楽を勉強しているときにCDを見ました。その時から大好きですね。で、日本に来て一緒に仕事をしたけども、楽しかったです。

西田:じゃ、結構長いファンなんですね。で、ゲオさんはコメディを観られたりしていたようで。

シャシコフ:本当に暗くなって、コメディを見るしかないかなと思って。わざわざ人を笑わせるのは、そこまで好きではなかったけども、やっぱり必要ですね。音楽は、朝起きてすぐにラジオをつける。イタリアの60,70,80年代の大ヒット曲のラジオ番組。そこは世界の大ヒット曲を集めて流しているんです。でもこういうコロナ禍になって、更に暗くなって、その音楽だけじゃ足りなくなった。で、コメディを見始めたんです。本当に助かりました。ちょっと逃げ場になるかな。音楽のパワー、コメディのパワーがありますね。心の栄養ですね。心のビタミン剤。

西田:あとはファンタジーというか、童話。

シャシコフ:やっぱり、逃げるところは作らないとね、個人的にね。みんながそうじゃないかもしれないけど。

ボルショス:結構、私からもお勧めします。これダメ、とかも。

シャシコフ:でも映画はね。この人が好きな映画が別の人は好きじゃなかったり、映画はすごく(好き嫌いが)個人的なものです。

ボルショス:(ゲオは)スターウォーズは15回観た。子どもの頃に。

シャシコフ:そのあとまた15回観てるね(笑)


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ボルショスさんのつくったパンとピザ

西田:そして、お二人が共通してされていたのがお料理ということで。

シャシコフ:ボルショスさんは名人ですね。私はアマチュアです。料理の名人です。ロビさんはそのままレストランを開ける。

西田:すごいですね。

ボルショス:できないですよ。そんな大きくはできない(笑)

シャシコフ:彼のティラミスは最高。彼以上のティラミスは食べたことがない。本当に。

ボルショス:ありがとう

西田:すごい。ボルショスさんは以前は練習の差し入れでお菓子を作って持ってらしたという噂もお聞きしましたけども。

シャシコフ:クレープを、定期演奏会の前に、オケ(メンバー)のために持ってきて、それにNutera(チョコレート)を、みんな自分で乗せて。今はコロナでそれが出来ないですね。

ボルショス:今は誕生日とかもケーキとか持ってきたりしたいけど、それも出来ない。

西田:ではnoteの記事にするときに、お二人のおすすめレシピなんかを聞こうかと思うのですが。

シャシコフ:一人ずつ?時間が足りないかもしれないので、最後にきいて。

ボルショス:私はあんまりレシピは持ってないです。全部頭から出てくるファンタジー。アドリブで。

西田:アドリブ。本当に名人ですね。

シャシコフ:私は料理に関しては固いです。本当に毎回レシピを見ながら。本当にできなくて。慌てて作る時は、「本当にうまくなる?」って心配で、心拍数は絶対に100を超えてる。で、頭が痛くなるし。で、最初は子どもたちは点数を付けていたね。「パパ、これは4.5」とかね。で、どんどん下がって「3です」とか「1.5」とか。で「0.2」になったときに、もうやめた。モチベーションが落ちました。

(シャシコフさんの”ブルガリア風ムサカ”のレシピは10の質問の記事に、公開しています。)

ボルショス:パパ、かわいそう。

西田:パパ大変じゃないですか。

シャシコフ:「パパ、もうブルガリア料理は良いよ。もうあきた。やめたほうが良いよ」って直接言われたね。もうやめるしかないよね。で、もう食器洗いだけにした。(笑)

西田:厳しいジャッジがお子さんから下されたんですね。

シャシコフ:怖いですね。子どもたちが一番厳しい。

西田:そうですね。ある種、毎日がおうちの中での修行のような側面もあった自粛期間中から、演奏が出来る状態になったときはいかがでしたか?その時のお気持ちとか。

ボルショス:すごくうれしかった。その前も車で何度か栄とか行って、芸文センターを見たときは、以前は緊張とかなかったけども、3か月の自粛期間の後、は、「あぁここ(芸文センター)に行きたい」って思いました。むかしは毎週芸文に行っていたけども、3か月演奏できなくて、その時は「芸文センターに行きたい」って思いましたね。結構悲しかったですね。でも今は良いですね。うれしいです。

シャシコフ:私も夏休みのあと、学校に近づいてみんなと会うのがすごいドキドキしましたね。(あんな感じで)すごい嬉しかったです。バックステージの匂いとか、私は大好きです。だからとっても嬉しかった。

ボルショス:同僚にも会えたし。

西田:そうやって、皆さんが舞台に戻られて。最初はいかがでしたか?

ボルショス:私はちょっとうるさかったかな。みんな嬉しくて、いっぱい音を出して。弦楽器もみんな一人ずつ譜面台があって、ちょっとディスタンスがあったね。2メートル。それにお客さんもいなくて、(音が吸収されなくて)もっとホールに音が響いてました。ベートーヴェンの交響曲7番を演奏しましたね。

シャシコフ:しらかわ(ホール)だったから、ちょっと小さかった。しらかわは1000人もない?800人位?多分、みんな4か月溜めた音を全部一瞬で出した感じで。「やったー」みたいな感じで。

西田:ゲオさんも最初に戻られたステージは、エキサイトしました?

シャシコフ:多分、私の音もうるさかったと思う。本当に吹きたくてたまらない感じでした。だからコントロールがあんまりできなかった。またみんな、お互いにバランスを見つけるまで結構時間がかかったと思います。

西田:そうですよね。ディスタンスをとりながらというのも、難しいですよね。

シャシコフ:そう、それも難しいですね。おっしゃる通りです。向こうも聴こえないからもっと大きな音を出すかもしれない、とか。で、自動的に大きな音が出ていたと思う。

7月10日第481回ステージ

第481回 定期演奏会の様子 撮影:中川幸作


西田:先月、女性陣にお話をお伺いしたときに、(チェロ奏者の佐藤)有沙さんがそういったお話をされていて。みなさんかな、遠いってお話をされていて。視界に入らないから、仲間がどうやって演奏をしているか、顔を向けないといけなくて分かりにくいとか。あと音のスピードってちょっと遅いので、2メートル離れると、いつも聴いている音とコンマ何秒とかでも違うから、成り立たせるのが難しかったとおっしゃっていました。

シャシコフ:そのとおりですね。この中で、どうやって聞こえたかって、想像したくもない。

西田:今はだんだん距離も近づいてきている?

シャシコフ:以前ほど近づいてはいないです。コロナの前の状態にはなっていないです。絶対に1メートルはあります。でも人間はやっぱり慣れる。だからちょっと自信はついたと思う。その状態でも合わせられる。合わせられるようになったと思いたいけど…。

西田:ちょっとずつ慣れてきている感じですね。
その舞台に戻られたときには、何か変化はありましたか?身体の変化とか、気持ちとか。

ボルショス:全然なかったです。本当に元気すぎた。前は背中とか腰とか痛かったけど、コロナ禍の運動、自転車とかで痩せたし。

シャシコフ:ハンガリーの血は強いですよ。

西田:強いですね。

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シャシコフ:私は帯状疱疹になりました。最初の定期演奏会のすぐあと。もう本当に大変だった。体が一度別の状態になって、いきなり元に戻ったからショックだったのだと思う。帯状疱疹は、本当に痛くて。最初は腱鞘炎だと思ったんですね。いきなり負担が増えたので。何時間もリハーサルをして、コンサートをしてなので。でも帯状疱疹は発疹が出来ますよね。で皮膚科に行ったら「これは帯状疱疹ですよ。この薬を飲んで」と言われて。

西田:そこから、すぐに治ったんですか?

シャシコフ:治るけど、痛みは3か月後位までありますね。ちょっとでも疲れると、出てくるね。みなさんも気を付けてください。あと50歳を超えると、ワクチンもあるらしくて。私、コロナ中、いろんなお医者さんに行って「これは何ですか?あれは何ですか?」って、ちょっと恥ずかしいけど。それで、何度も同じお医者さんに行くのが恥ずかしくて、どんどん遠いお医者さんに通って。範囲が広がって、もう家の近くでは足りなくなりました。まぁ、でも色々と勉強になりましたね。

西田:すごいですね。すっかり健康オタクみたいになって。でも帯状疱疹ってストレスとかなんですか?

シャシコフ:らしいですね。ストレスと疲れ。

西田:気が付かない間にストレスが溜まって。

シャシコフ:多分ね。ちゃんと気が付いてはいたんです。いっぱいストレスは溜まっていた。

西田:そうですね。鬱っぽくなっていたっておっしゃっていましね・・・。その外は大丈夫でしたか?

シャシコフ:はい、大丈夫です。ありがとうございます。

西田:やっぱりうれしいものですよね。舞台に数か月ぶりに上がれるというのは。お客様の反応は、いかがでしたか?

ボルショス:私は本番はいつも演奏が終わった後の拍手を待っていますね。「ブラボー」が欲しいなぁと思っていたけども、今はダメですね。誰も言わない。

西田:あぁ、そうですね。

ボルショス:先日の定期演奏会でも、観客の一人が大きな紙に「ブラボー」って書いて見せてくれてました。すごく嬉しかったです。感謝ですね。「ブラボー」って言いたくても言えないから。

西田:すごい。それで紙に書いて掲げて下さったんですね。嬉しいですね。

シャシコフ:みんな声が出せないからね。

西田:お客様も新しい形で一緒に。

ボルショス:プレイヤーだけじゃないね。お客様も。

西田:お客様も一緒に作るってことですね。

シャシコフ:話はちょっと戻るのですが、伝えたいことがありまして、自粛の時に新しい食べ方として、朝ごはんをオートミールにしたら、本当に悪玉コレステロールが下がって、善玉が上がったんです。そんな変化は今までなかった。皆さんにもおすすめします。前の夜にヨーグルトとオートミールを混ぜて、それだけだと味もなくて朝ごはんとしては、少しきついのでバナナを混ぜて置いておいて、朝食べます。で、胃と腸の調子も良くなるし、お勧めです。

西田:量はどのくらい食べるのですか?たくさん食べるんですか?

シャシコフ:67グラムです。それか70グラムぐらい。それでヨーグルトは適当。大さじで4杯から5杯くらい。

西田:それを毎朝食べるんですね。

シャシコフ:食べ物は、コレステロールに効く。これはアメリカのFDA(Food and Drug Association)に、これだけ認められているらしいです。薬と同じだけの強い作用があるらしいです。

西田:すごいですね。ゲオさん、お医者さんになれますね。

シャシコフ:いやいや。

西田:すっかり健康の知識がたくさん蓄えられました。

シャシコフ:いや、ボロボロですが、これだけは確認できます。

西田:はい。これは身体の栄養ということで、心の栄養として音楽を考えると、その音楽の力っていうのは、どんな風に考えますか?

ボルショス:人々の感情や感覚を引き出すものですかね。嬉しい、幸せ、悲しい、とか。興奮したり。

西田:いろんな感情ですね。それを引き出す力が音楽にはある、と。

シャシコフ:私がいつも思うのは、人間はなぜ音楽を発明したか?考え出したか?一つの理由かもしれないですが、音楽で言葉で言えないものを伝えることが出来る。なぜかというと、言葉を通すと、頭として(頭で考えて)誤解を生じやすい。でも心と心で伝えると、一番伝わるんじゃないでしょうか。それが音楽の力だと思います。言いたいことを直接伝える。それだけでもないと思いますけど。

西田:それはクラシック音楽だけではないかもしれないですね。最初のお話につながってくるかなと思います。

シャシコフ:でも、もちろん(音楽によって)人は幸せになる。私は本当に音楽に感謝しています。一番つらいときにも音楽で助かった。科学的ですよね。幸せホルモンが出て、身体の調子も良くなると思います。身体は精神だけじゃなくて、一緒になっているから、お互いのバランスは大事だと思います。

西田:オートミールで身体の健康、音楽で心の栄養。

シャシコフ:そう、そのバランスを保ちながらね。

ボルショス:よい演奏の後は、嬉しくなるし。今日もね。

西田:聴く方もですよね。すごく気分も高揚しますし。

シャシコフ:そうであると嬉しいです。

西田:私はクラシック音楽は、知識としては詳しくないけども、聴くのは好きなんですね。それは先ほどの、ロックだったりジャズだったり、いろんな違う音楽も音楽は音楽だよ、と音楽の楽しみ方をおっしゃっていただいて、すごくいいなぁって感じがして、嬉しい発見でした。音楽は音楽と思ってよいよ、って言っていただけて。

シャシコフ:だからクラシック音楽を知らなくても良いです。好きでいてくれるなら、それで十分です。知識なんて関係ないです。すみません、誰かに怒られるかも。

西田:時間も迫ってきましたので、お別れを告げなくてはいけませんが、今日はありがとうございました。

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ーー インタビューを終えて ーー

音楽は音楽。自由に、好きなように楽しめばいい。

当たり前のようで、じつはそうでもないこの考え方をお二人と共有できたとき、爽やかな風を受けたような清々しさに、嬉しくなりました。「そういう意見を持っている人は、プロのクラシック音楽家の中でも少数派かも。でも自分たちはそう思っている」というゲオさんとロビさんのお話のなかで、オンオフの切り替え方、自由な精神での音楽との付き合い方などさまざまな実例を伺いながら、ここには音楽、音そのものへの愛があるな、と感じました。美術の分野でも、ボッティチェリもダヴィンチも若冲もピカソもマネも素晴らしいと思うけれど現代美術は意味不明、興味がない、という意見をしばしばぶつけられます。その気持ちもわからなくはないですが、多くの方が「わかる」「素晴らしい」と感じられる彼らだって、その名作を生むために当時の文脈のなかで新しい表現に挑戦し、(とくに近代の後者2名は)最先端で同時代の人々にショックを与え、批判もたくさん浴び、あるいは「よくわからないことをしている」と思われたものでした。時の経過という審査を経て、ひろく世に認められている名作は当然数多くあります。しかし、「傑作とされている」か否かにとらわれず、もっと自由に平等な目で美を、美術を楽しんでもよいのではないか。常々このように考えている私にとって、お二人の音楽に対する態度には非常に共感できるものがありました。

好きか嫌いか。分かるか分からないかではない。好きならば分からなくてもいいし、嫌いと感じれば聴かなければいい。しかし、それを判断するために、常に心を開いて。非常にシンプルなこの考え方であれば、誰にとってもわかりやすく、指針として持ちやすいものではないでしょうか。

毎日の自転車移動で心身の健康を維持できたというロビさんに、健康ネタにすっかり詳しくなってオートミールにハマったというゲオさん。運動や健康的な食事が身体の栄養だとすれば、音楽は心の栄養。それは人々の感覚や感情を引き出すものであり、心と心で繋がり、言葉では言い表せない、伝わりにくいものを伝えるものであるというお二人のお話は、栄養たっぷりの温かいスープのような感慨を運んできてくれました。
                     (西田雅希 I キュレーター)


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