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インタビュー その3 (富久田治彦さん、満丸彬人さん)

アッセンブリッジ・ナゴヤの音声配信企画、「名フィルメンバーの対話で綴る2020ー演奏会空白のときー」にむけて、11月8日に、アッセンブリッジ・ナゴヤ開催エリアにあるうどんダイニング釜半にて名古屋フィルハーモニー交響楽団の団員さんにお話を伺いました。そのインタビューの概要に音源やリンク、写真を加えnoteで綴ります。

第一回(10月11日)の様子はこちらから


まずは満丸さんのフルートと富久田さんのアルトフルートで、ジャン・フランセの作品から「二羽のオウムの対話」から第一楽章を演奏いただきました。「鳥が対話するような面白い曲なので、、、」と満丸さんからご紹介を受け、一気に曲の世界へと引き込まれました。


西田:ありがとうございました。
さて、以前、この近くの旧港湾会館は名フィルの練習場だった、とのことですが、多くの楽員さん同様、富久田さんもここ釜半さんにはよくお食事にいらしていたとか?

富久田:この仕事をお受けしたときに、会場「釜半」とみて、「え?あの釜半?」と驚きました。今名フィルは金山に練習場があるのですが、昔はこの近くの港湾会館を使用させていただいていた時期もあり、お昼はここで唐揚げ定食や味噌煮込みをいただくのが定番でした。先ほど伺ったのですが、今のご主人のご両親がお店をやっていらして、お母さんがお釣りの300円を300万円と景気良く返してくださったのが懐かしい思い出です。メニューも値段も当時とそんなに変わってないです。

西田:この辺りの思い出や、みなとまちで何か印象に残っていることはありますか?

富久田:私の入団は平成元年で、「名古屋デザイン博」がありまして、ここが賑やかな場所になって観覧車ができたり水族館ができてどんどん活気があるまちになっていった印象があります。観覧車には練習後に乗りに行ったりしました(笑)

西田:満丸さんは、この3月に正規にご入団されたばかりという矢先、コロナで演奏会自粛になってしまったのだそうですね。

満丸:フルートを始めた頃からの夢がオーケストラに入るということでしたので、ようやく夢がかなってこれから楽しみしかない、という時に全部が中止になりショックが大きく、不安な気持ちもありました。


―自粛期間中に毎日していたことや新しく始めたことはありますか?

満丸:オーケストラに入団するにあたって、レパートリー自体が少なかったので、ベートーヴェンのアニヴァーサリーイヤーの今年は演奏機会も多いだろう、と思ってシンフォニーの1~9番まで、片っ端から家で一人で練習してました。

富久田:演奏を食事に例えると、お腹いっぱい演奏したいという気持ちがある中、コロナで中断され音楽で満たされなくて、特に若い音楽家は本当に辛かったと思います。
私個人的には、3月9日にリサイタルを予定していたのが中止となりました。この30年演奏活動の中でコンサートを中止するなどは一度もなかったことなので、なんとか再開のタイミングを狙って模索していました。7月に延期し振替公演することができて本当に良かったです。自粛期間中は、満丸くん含め、僕の抱えている生徒たちにも、若い彼らが絶望しないように「何をしてでも生き残れ」と連絡をとったりしていました。

西田:音楽に捧げた自粛期間だったのですね。

富久田:音楽家ですからね。

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リサイタルの振替公演は、座席を減らした対応となり、
急遽2日間に分けて開催となった。



―オンラインの活用ということではいかがですか?

満丸:東京や離れたところの友達とリモートで何度かアンサンブルをしてみたのですが、機械を通すと、普段やっていた「同じ空間でしていた音での会話」が難しく、自分の中で正直限界を感じることがありました。音楽は生き物なので、それができないことが難しいと思いました。

富久田:ごく最近ですが、youtubeチャンネルを立ち上げました。自粛を求められてからリモート活用を言われましたが、例えば食事がでてきて食レポされても、食べてみないとその本当の良さがわからないように、音楽もその現場にいかないとそのものの良さは本当にはわかりませんよね。でも、地球の裏側の人にも、こういうものがありますよ、私が吹いていますよ、ということは(リモートを活用して)示すことはできるかと思います。リモートのレッスンも経験させてもらいましたが、実際の成果としては、(対面の)1〜2割だったかなという実感はあります。活用はしていったら良いと思うので、youtubeチャンネルを立ち上げて、リサイタルで演奏した曲を小出しにしています。
7月に振替したリサイタルは、3月のフルの定員に対して1公演収容人数が半数のため、お客様が収まらなくて、急遽2日に分けて開催しましたので、その2日分の公演を32回に分けて毎日公開しています。
配信が増えたのでそういった意味では、配信の質も発達したかな、と思います。


満丸さんのリモート動画はこちらから↓

富久田さんのYoutubeチャンネル"富久田長笛"はこちらから↓



―大きい空間での演奏ができなかった間に身体的、内面的な変化はありましたか?

満丸:オケが始まる前に自粛でしたので、聴いてるCDがお友達でした(笑)名フィルがどういうオケか、ということもまだ知らないですし、ホールでも演奏できないですし、イメージしながらいつ本番になるかと希望を持ちながら練習に取り組む日々でした。名古屋に来たばかりで知り合いもいなかったので、精神的にもしんどかったのかなと思いますが、富久田さんも良く連絡をくださって助けになりました。

富久田:僕は30年やってきて、もういいかな?!と思っていたくらい吹いてきたのですが、1、2月もすごく忙しいスケジュールで動いた中、一気にステージで吹かなくなりました。
音楽をやっていると「苦しい」とか「食えないですよ」「仕事大変ですよ」とか言われるのですが、そんな苦しい時がきたなと思いました。でもこんな時こそ、ピンチをチャンスに変えて、閃くこともあるし、オーケストラから離れて自分とフルートについて考える、凄く良い時間になりました。

西田:富久田さんは事前アンケートで、「常にそのスペースに合わせて音や音楽を作ることは自然に身についている」と仰っていらして、そのお言葉が非常に印象的でした。

富久田:オーケストラの場合は、二千人に向けて演奏するという距離感は自然と身についていることです。例えば、目の前の人に話すときと、学校の教室などで多数の人に向かってお話するときでは、声の大きさ、息の取り方など感覚が変わります。フルートはそこまで大きな音がでないので、大きな場所で遠くにものをいうように吹くというのは若いフルーティストで一番難しいことなのではないでしょうか。

満丸:実際、富久田さんの音を横で聴いていても、なんでそんなにホールに響くんだ、といつも衝撃をうけているので、吸収していかないとな、と。

富久田:アルルの女のメヌエット(作曲:ビゼー)でも、満員の二千人に向かってオーケストラで吹くのと、ピアノ伴奏で近くの人に吹くのでは音の出し方が違いますね。

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―リスナーの方からのご質問ですが、今後の演奏会に来られる観客に向けて、どのような思いをいだいて舞台に上がろうとお考えでしょうか?再開後戻る初日にどうでしたか?と届いています。

富久田:復帰の時、普通の感覚でリハーサル終わったのですが、入場時のお客さんの拍手がものすごくて、それにエネルギーをもらって自分にスイッチが入った瞬間がすごくわかりました。これが昔の日常だったな、と。予想外にオンできました。これまで寝てた感覚が蘇った感じでした。吹きたい我々がステージに上がって、聴きたいお客様がいらして、その気が満ちて演奏会になるということが再確認できたことが嬉しく、今後の糧となりました。

満丸:自粛明けが入団後の初めてのコンサートで、すごく緊張もしましたが、ホールに入った時にお客さんが暖かくて、幸せを感じて演奏させていただきました。こんなに名フィルの演奏を待ち望んでくださってる方がいるということが素直に嬉しかったです。

富久田:演奏会に来て下さる方はチケットを買う時から大変になって、当日券も出ないですし、入場時も検温や、消毒、マスク着用などご不自由をおかけしてでも、たくさんのお客様に来ていただけるのが本当にありがたいです。「すみませんね」といつも来てくださるお客様に言うと「いやいやこんなことぐらい」といってくださるのが本当にありがたいんです。
お客さんとの一体感がないと、オーケストラの奇跡の音の瞬間は生まれないと思います。

西田:ステージと客席が一緒につくる、それが生の力なんですね。拍手でスイッチが入るというのもすごいですよね。

富久田:今弾きたい、聴きたいという気持ちがこれまで以上に高まって、ボルテージが一気に上がっていると思います。苦労してステージにあがり、コンサートにきていただくシチュエーションがあるので無理しなくてもそうなってしまいます。

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―敷居が高いといわれる音楽に対してのメッセージ、音楽の力とは?

満丸:僕からすると音楽の力は、それが全てでして、僕にとっては自分を支えるものなのですが。
僕自身、昔からクラシックがすごく好きだったわけではなくて、純粋に皆と音を重ねて遊ぶのが好きだったので、そういうのに楽しみを見出せるのも音楽だし、そのようなものを聞いてワクワクしたり、色々な楽しみ方があると思います。聴くだけが楽しみ方ではないし、上手く楽器ができなくても、音が出る喜びなども経験してみたらわかると思います。
確かにクラシック音楽というと敷居が高いかもしれませんが、音を出して楽しむ所をきっかけにしていただいてもいいかなと思います。

西田:満丸さんの最初のきっかけは何だったのですか?

満丸:小学校の金管バンド(マーチング)で楽しそうだなと思って始めました。
自分がいいなと思ったものを純粋にやってみられたらと思います。

富久田:敷居が高いという言い方は、僕はあまり好きではないですね。
クラシックっていうのは、古いという意味もありますが、最上級、一番いいものという意味もあって、僕らは一番いい物を作り上げることを心がける。演奏会の時には、最上級の燕尾服などを着ています。お客様もそれぞれに最上級の時間を過ごしていただく。それはお金をかけるとかそういうことではなくて、自分にとってのいい時間を作り上げるということですね。
それが演奏会に行ったり、美術館に行くなどという、いいものに触れる時間を作る、時間の贅沢をでき、文化的にいい心を持ちたいと思うことが人として大切なのではと思います。自分でも、いい絵をみたり、いいコンサートを聴いたらいい時間を過ごせたなと思うように、こちらも提供する側として、そう思っていただけるようにやり続けるということですね。
もし今時間があれば、そういうものに使っていただいたらいいかなと思います。

ありがとうございました。

釜半さんの温かい雰囲気の中、温かい音色が満ち溢れ前半の収録が終了しました。
このあと、富久田さん曰く「嬉しくて涙がでる!」との味噌煮込みうどんの差し入れをいただきました!お写真は釜半のおかみさんと。

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ーー インタビューを終えて ーー

音楽に捧げた自粛期間のこと、そして自らの楽器の特性と空間との関係性で音を紡いでゆくことについて。

第一回の女性陣へのインタビューでは、音楽にまつわること以外にも、料理やお菓子作り、散歩、筋トレ、着付けレッスンなど、感性と心身の健康を豊かに保つための自粛期間の過ごし方についてさまざまなエピソードが登場し、健やかさと創造性について非常にたくさんの示唆を頂いたことは、皆さんのご記憶にも新しいと思います。翻ってこの第二回前半では、同じ楽器を担う若手とベテランのお二人が、それぞれどのように音楽と向き合うか、この先も音楽の灯を消さないためには今何をすべきか、と、ある意味において平時よりもさらに音楽と音楽界のために捧げる期間を過ごされたことをお話いただき、また違った感銘を受けました。

また、二羽のオウムの会話のような音の掛け合いを楽しんで、と演奏をご披露いただいた冒頭にはじまり、随所に現れた楽器の音を声や会話に例えたお話も、わかりやすく印象的でした。フルートは元来「声」の小さな楽器だが、長くオーケストラで演奏することで、空間の大きさに合わせて自在にその大きさを変える術が自然と身についている(ので、ある意味大きな空間で演奏できないからといって心身にダメージや変化があるということはない)という富久田さんのお話には、なるほどという新鮮な驚きと、楽器の性質を理解しながらそれを超えてゆく、あるいはその力を演奏家が増幅させてゆく楽しさと醍醐味を感じました。そして、満丸さんの仲間とのオンラインアンサンブルのエピソードにあった、「これまでは同じ空間でしていた音での会話ができないので難しかった」というお話からは、第一回からさまざまな形で登場する「生の力」が伝わりました。

あるひとつの場で音楽の一瞬一瞬を形作ってゆくのは、やはり演奏家同士、そして聴衆と演奏家との間に流れる「気」である。それが満ち満ちて、その時そこにしかない空間が形作られてゆき、その中でこそオーケストラの奇跡の音の瞬間が生まれる。このことが、演奏会に復帰した時のお二人の体験からありありと感じられ、非常に感動的でした。

オンラインにはさまざまな可能性があるし、その積極的活用は是非やるべき。しかし同時に、やはり生にしかない醍醐味というものがあること、そしてそれを信じ続けることこそが大切だということ。お二人のこの半年の実践に教えられた時間でした。       

                     (西田雅希|キュレーター)



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