ジム・ベネット監督(キャンベラ)インタビュー
「オーストラリアの選手たちの、野球に対する献身的な姿に心打たれた」
2017/18シーズンを最後に、プレーオフのファイナルラウンド進出から遠ざかっているキャンベラ。24/25シーズンは、指導者として豊富なキャリアを持ち、チーム・オーストラリアの投手コーチも務めるジム・ベネット監督が着任し、新風を吹かせている。アメリカ人のベネット監督がなぜ、このオーストラリア野球に長らく携わっているのか。まずはそのきっかけから聞いた。
皆がナショナルチーム入りを目指せる
――ベネット監督は母国・アメリカでプレーヤーとして、また指導者としてMLB傘下の組織に携わってきました。そのベネット監督がオーストラリア野球に関わるようになったきっかけはなんだったのですか?
私がMLBエンゼルス傘下のマイナーリーグの監督をしていたとき、スティーブ・フィッシュという選手がそのチームに所属していました。彼はその後オーストラリアに渡り、パースの監督になりました。2014/15シーズンの始まる前、彼が私に電話をしてきて、「誰か僕より年上の人間で、パースに来て手伝ってくれる人はいませんか」と言うので、「それは私だろうな」と思いました。妻に相談し、初めは1年の予定でオーストラリアに来たんです。ところが、そこでオーストラリア野球に魅了されてしまいました。ABLには数多くのチャンスがあるし、たくさんの素晴らしいところがある。それでこのリーグにもっと関わりたいと思い、毎年ここに戻ってくるようになりました。
――初めの1年はパースで投手コーチをし、翌年からブリスベンに移りましたね。
友人のデビッド・ニルソン(現オーストラリア代表監督)から「ブリスベンで投手コーチをしてくれないか?」と誘われたんですよ。以来、ずっとオーストラリア野球に関わって、ナショナルチームのコーチも務めるようになりました。ABLとオーストラリア野球は私にとって、とても重要な存在です。
――初めてオーストラリア野球に触れたとき、どんなことを感じましたか?
初めに来たときは、オーストラリア野球について、何の知識も持ち合わせていませんでした。オーストラリア人選手が何人アメリカのマイナーリーグでプレーしているかも知らなかったし、彼らが野球以外の仕事を持っていることも知らなかった。北半球の夏にアメリカへ来てマイナーリーグでプレーし、南半球の夏になったらオーストラリアへ帰って、フルタイムの仕事をしながらABLでプレーしているなんてね。アメリカの選手は、野球なら野球だけしていればいい。それは大きな違いです。
その中で私は、オーストラリア人選手たちが他の仕事をしながらも、いかに野球に対して献身的かを見て、その姿に強くひきつけられました。また、ナショナルチームに賭ける想いも、オーストラリア野球の素晴らしいところだと思いました。オーストラリアでは、ナショナルチームに入れる可能性が多くの選手にあります。アメリカではほとんどの選手に、チームUSAでプレーするチャンスがありません。しかし、このABLでプレーしていれば、グリーン&ゴールド(編集部注:ナショナルチームのシンボルカラー)のユニフォームを着るチャンスがある。そこがいいですね。
とにかく私はオーストラリアの選手たちに、特別なものを感じました。オーストラリア野球はとても小さなコミュニティーながら非常に貴重なもので、私もその一員になりたいと思ったのです。
信頼関係があればチームはまとまる
――ABLにはアメリカ、日本、韓国、台湾、中南米など様々な国籍、文化、言語の選手が集まってきます。そのチームを指揮する難しさは感じますか? ABLの場合、勝利と育成の双方が求められますが。
私はさまざまな文化が一つになることを楽しんでいますよ。どんな文化圏から来ていても、選手は私が彼らのことを気にかけ、彼らに対してベストを尽くしていることが分かれば、私を信頼してくれます。いろいろな国から来た選手と信頼関係が築ければ、勝つということ、そして勝つためにプレーすることが選手として成長につながることも理解してもらえます。彼らに勝利への意欲を植え付ければ、自分のことばかり考えず、チームのためにベストを尽くしてプレーできるようになると思います。個人的なことを考えると、上下動が激しいですからね。でもチームのためにプレーすることに徹すれば、そこから解放されて選手自身もラクになるし、チームのためにもなります。
――日本人投手がABLで総じて良い成績を残せるのはなぜだとお考えですか?
今パッと思ったのは、日本人投手がスプリット・フィンガード・ファストボールを投げるからではないでしょうか。他の国の選手は日本人投手のようなスプリットを投げず、多くがチェンジアップを使います。もちろん日本人投手もチェンジアップを使いますが、スプリットの割合のほうが多いように思います。スプリットは、それをコントロールして自在に投げられれば、非常に有効な球。特にアメリカやオーストラリアの打者は見慣れていないので、対応が難しいでしょう。
もう一つに、日本の野球は世界中で最も「チーム」として優れた野球だと私は思っています。だから私は、日本の野球が好きですね。日本野球のいいところは、全員が一つの「チーム」としてプレーすること。チーム重視の野球で、個人主義に走ることがありません。アメリカではお金が絡むこともあって、どうしても個人尊重になりがちなのは分からないでもないのですが……。そして日本の野球がいい投手を(ABLに)連れてきてくれることも、私が日本野球を好きな、大きな理由ですね(笑)。
――これからも(北半球の)夏はアメリカ、冬はオーストラリアの生活を続けるつもりですか?
私はもうほぼ引退しているんですよ。エンゼルス、ジャイアンツ、パドレスといったアメリカのいくつものマイナーリーグで教えてきて、そちらはもう引退しました。だから今はABLとグリーン&ゴールドのユニフォームが、私のすべて。ただ私は日本の野球にとても興味があるので、何か野球を通して豪日を結び付けることに関われればいいと思っています。