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黒川史陽選手(パース/東北楽天)インタビュー

「自分にとっては毎年が覚悟の年。このオフは野球漬けで来季に臨みます」


中距離のスプレーヒッターとして、期待の高い黒川選手。二軍では、2年連続してリーグ上位の出塁率を記録。6年目の来季こそ一軍でブレークを果たすべく、ABLの武者修行に単身挑んだ。


打球も心も“強く”


――黒川選手のABL派遣は、自ら志願したと聞いています。まずはその理由から教えてください。

(日本の)オフシーズンに野球ができる、しかも試合ができるというところですね。暖かい場所で、オフシーズンも試合がしたいと思い、お願いしました。

――プロ入り5年を経て、何か黒川選手自身が感じるもの、もっとこんな経験を積まないといけないなとか、何か思うところがあったのでしょうか。

今自分の中で一番のテーマにしているのが、体はもちろん、プレーにおいてもとにかく「強く」ということ。それにはこうした“武者修行”と呼ばれる経験が、いいのではないかと思いました。

――昨年、楽天からパースに参加した早川(隆久)投手、DeNAからキャンベラに来た(智辯和歌山)高校の同級生・東妻(純平)選手から、何か話は聞きましたか?

はい、環境がすごくいいということと、野球のレベル的にも全く低くないし、外国人投手との真剣勝負ができるという話を聞きました。気候だけでなく、人もみんな温かくて優しい。日本人もウェルカムな感じで迎えてもらえる、と。それでオーストラリア行きを決めた部分もあります。

――パースへは全く単独で参加しているのですか? そこはかなり、メンタルが鍛えられそうですね。

そうですね。でもこっちの人たちは本当に優しいので全然、余裕で大丈夫です(笑)。

――先ほどおっしゃった「強く」なることをテーマに、どういうことを意識して打席に立っていますか?

いろいろ考えながらではありますが、一番は「強い打球が打てる」ことを心掛けています。といっても、ただバットを強く振ったら強い打球が飛ぶわけではないので。“脱力”も大事で、力を抜くところは抜くなど、試行錯誤をしながら打席に立っています。

――パースの打撃コーチからはそのへんについて、何かワンポイント・アドバイスをもらいましたか?

いえ、技術的な指導というよりは、「できるだけ打席で自分のスイングができるようにしなさい」と。「打席の中で崩れなければ、お前は打てるよ」という感じのことを言ってもらっています。

――このインタビュー時点で残り2ラウンドですが、ここまでの試合で最も印象に残っているシーンはなんでしょうか。

(11月30日の)アデレード戦で、巨人の山田(龍聖)投手から満塁ホームランを打ったことが一番ですかね。

――しかも無死満塁と、一番得点が入りづらいといわれている場面でしたね。どんなことを考えて、打席に入ったのですか。

おっしゃる通り、無死満塁の1人目だったので、とにかく自分が何かきっかけを作って、多くの得点につなげようということを考えて、打席に入りました。

――打った球はなんでした?

インコースのストレートですね。左ピッチャーのインコースにややシュート気味に入ってくる球は、僕の中では結構課題なので、その球が打ててよかったです。

――黒川選手の初属するパースは、このABL6チームの中で距離的に最も遠い場所にあります。しかも、他の球場より暑さも厳しい。そのへんで大変な部分はありましたか?

遠征のときの飛行機は、結構時間がかかってしんどかったですね(編集部注・シドニーやブリスベンへは、直行便でも4時間以上かかるが、乗り継ぎをして行くことが多いため。加えて各地との時差が2~3時間ある)。

――そこはどうやって、乗り切りましたか?

もうその場、その場で適応していくしかなかったです。日本の環境は、とても恵まれているなと思いました。

攻守にガッツあふれるプレーを見せた黒川選手(左はシドニー・松石選手)
Photo: Baseball Australia


ハングリー精神が身に付いた


――パースでは、ホームステイですか?

そうです。今年の夏、練習生として楽天に来た、ウィル(ウィリアム・ロバート・シェリフ投手)の家でホームステイしています。最初の5日間だけ、ウィルがプレミア12のオーストラリア代表に選ばれて家にいなかったので、球団のスタッフの方の自宅にいたんですが、そのあとはずっとウィルのところです。

――オーストラリア生活のなかで、英会話はどうですか?

英語はだいぶ聞き取れるようにはなってきて、あとはノリでなんとかうまくやっています(笑)。結構、通じるもんですね(笑)。

――チームの中ではなんと呼ばれているんですか?

名前のほうで、「フミ」と呼ばれています。

――誰か、仲良くなった選手はいますか?

チーム内はみんな、とても仲がいいです。中でもウィルと、キャッチャーのホーリー(アレックス・ホール選手)とはよく一緒にいますね。

――おおっ、アレックス・ホール選手も、オーストラリア代表選手ですよね。

そうです。めちゃくちゃいい選手で、「日本で野球やりたい」ってずっと言っているんですよ。まずキャッチャーで、しかも両打ちであれだけ打てる選手は多分いません。肩も強くて、悪いところが全く見当たらないです。アメリカのマイナーリーグに所属していたんですが、今はフリーエージェント。どうしてどこも契約していないんだろう、という感じです。なんか宣伝してあげてください(笑)。

――分かりました(笑)。ピッチャー同士だと、よく球種を教え合うことがあると聞きますが、バッター同士でも、何か技術交換などしていますか?

通訳アプリを使いながらですけれども、技術というか日本野球の情報について、例えば「日本ではコーチにどういうことを教えられるの?」とか聞かれたことはありますね。あとは、日本って割と打つなら打つ、投げるなら投げるだけでなく、総合的によくないと一軍では難しいなんていう話もしました。

――今回、オーストラリアで黒川選手が得たものはなんですか。

ハングリー精神は結構、身に付いたと思います。これまで僕は、何かと環境のせいにしてしまうことが多かったのですが、それがなくなりました。メンタル自体がどこまで強くなったかは分かりませんが、自分の置かれた環境に対応できるように、常に心掛けてやってきました。

――帰国後、来年のキャンプまでどんなふうに過ごして、この経験を来季につなげたいですか?

実は1月には、アメリカのドライブライン(編集部注・メジャーリーガーもよく利用しているトレーニング施設)に行く予定なんです。オーストラリアで実戦をたくさん積むことができたので、あとはそこでうまく自分の弱点を克服して、キャンプに入れるようにと考えています。

――このオフは本当に野球漬けなんですね。

はい。僕はもう来年、(プロ入り)6年目になるので、そろそろ結果を出さないといけませんから。

――覚悟の年というか……。

いえいえ、自分にとっては毎年、覚悟の年ですよ。来季こそ1年間一軍にいて、なおかつチームに貢献できるようにしたいです。

Profile
くろかわ・ふみや◎2001年4月17日生まれ、奈良県出身。智辯和歌山高から2020年、ドラフト2位で東北楽天に入団。182cm86kg。右投左打。内野手。24年は一軍で22試合に出場、打率.232、
本塁打1、打点8。ABLでは20試合に出場し、打率.280、本塁打1、打点10の成績を残した。
(Photo: Baseball Australia)


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