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小野泰己投手(メルボルン/オリックス)インタビュー

「“ABLに行かせて無駄じゃなかった”と思ってもらえるピッチングを、帰国後も続ける」

ABL折り返しの第5ラウンド終了時に行なわれた、メディア関係者による「中盤オールスターチーム」投票で、ベスト・リリーフ投手6人のうちの1人に選ばれた、小野投手。159kmの速球を武器に9.2イニングを0封と、圧巻の投球を見せていた。NPBでのシーズン終盤から続く好調なピッチングについて、話を聞いた。



自信の積み重ねが0の積み重ねに


――まずはNPBでの今季のピッチングを振り返ってください。

今年1年間、育成という立場で終わってしまいましたが、後半戦にかけてはいいピッチングがずっと続いていました。自分が投げたい球がイメージ通りに投げられた試合が数試合ありましたね。やはりそういう試合は、自分の中で感覚的にもいい試合というか、いいピッチングができたかなと思います。

――その状態のとき、支配下契約に至らなかったのは残念でしたね。

いいピッチングのできた時期が、ちょっと遅すぎましたね。前半戦にああいうピッチングができていれば、もしかしたら……という手応えはありました。

――そんな中で、このABLへの派遣が決まりました。球団からお話があったとき、どう思いましたか?

まさか自分が派遣メンバーに選ばれるとはと思っていなかったので、ちょっとびっくりしましたね。でもすぐに、自分の野球人生の中ではいい経験になるんじゃないかなと思いました。

――ABLに参加するにあたっての課題や、ご自分の中で目標にしたことは何ですか。

日本で後半戦にいいピッチングができていたので、それをこちらでも継続することがまず一番大事だと思いました。何か新しいことというよりは、日本でやってきたことをしっかり出せるようにと思って投げています。

――ここまで(インタビューは12月19日)目標通りのピッチングを続けられていると思いますが、ご自身の中でどこがポイントになっていますか?

抑えた試合を重ねていけば自信につながるので、自信を持って投げられている結果が、次にまた0点で抑えることにつながっているのだと思います。

――NPBでも今季から中継ぎをしていて、ABLでもそのまま、中継ぎで投げています。調整方法はご自身なりに確立していますか?

中継ぎになると突然投げることも多いので、 普段はなるべくリラックスというか、試合のことは考えないようにしています。そして、いざ「行くぞ」となったときに、しっかり気持ちが入るようにと心構えしています。

――「行くぞ」と言われた瞬間に、パチッとスイッチが入る。メンタルのスイッチの切り替えが重要で、肩はすぐできるタイプということでしょうか。

はい、比較的すぐできるほうだと思います。

――そういう意味では、中継ぎの適性もあった、という。

先発だと、登板がだんだん近づいてくるにつれて、緊張したりいろいろと考えてしまったりするんですね。それが中継ぎだと、本当に一瞬のスイッチで切り替えしなければならないので、逆にいいのかもしれないですね。投球スタイル的にも、多分中継ぎのほうが向いているんじゃないかなと思います。

――初めての海外野球は、緊張しませんでしたか? それとももう、逆に開き直ってできている?

そこはどちらかというと、開き直ってできているかなと思います。野球自体は日本でもオーストラリアでも、やることが変わらないので。だから、そういう意味での緊張はなくて、程よい緊張があるくらいです。日本の環境とはいろいろ違う部分もありますが、何が起きても逆に新鮮というか、いい経験になっていますね。

――ABLの野球や練習の中で、面白いなと思ったことはありますか?

練習が日本と違って、自由というかなんというか。自分のことだけして終わりとか、練習メニューの中でも、ラグビーのボールを投げている選手が多いとか(笑)。僕も最初、こっちに来たときに一緒になって投げてみたんですが、全然うまく投げられなくて、やめました(笑)。

――ABLの野球自体については、こちらのバッターや他のピッチャーを見て何か感じたことはありますか? 逆に日本野球のこういうところは大切にしなきゃいけないなと思ったとか。

ABLはパワーのあるバッターが多いので、やはりホームランがよく出るなという印象です。逆に日本はバントとか、そういう小技系がうまいなということは改めて感じました。

第5ラウンドまで防御率0.00で、ABL公式サイトに記事では”dominant”(「群を抜いている」などの意)と表現された(Photo: Baseball Australia)


何も覚えていないときがベスト


――ABLに派遣されるメンバーは若い選手が多い中、小野投手は30歳で派遣されました。年齢を重ねている分、若いころとは気づくことも違うと思いますが、この年齢で派遣されてよかったかなと感じたことはありましたか?

誰もができない、貴重な体験をさせてもらえているなと感じています。齋藤(響介)のように、自分が20歳ぐらいのときに来ていたら、感じないとか難しい部分もあったかもしれないですね。また、若いときとは違う観点からも物事を見られているかなという気はしています。

――今回の派遣メンバーの中では、スタッフも含めて年長のほうにあたりますが、兄貴分として何か意識していることはありますか?

トレーナーの方が年長で、僕が二番目ですね。でも自分はそんな“兄貴分”というタイプではないですし、みんな大人なので、各々自由に行動すればいいと思っています。

――オーストラリア人や文化の印象はいかがですか?

オーストラリアの人は基本、みんな優しい印象がありますね。

――ここで最も学べたことはなんでしょう?

野球の技術面云々より、改めて違う野球に触れてみて、なんだか野球の楽しさのようなものをまた感じられたかなとは思います。日本の野球文化は集団行動を大切にしていますが、こちらは周りを気にせずに個人という感じ。そういう文化の中で野球ができたのも、いい経験になりました。

――こっちの選手は、オンとオフの切り替えも極端ですよね。

負けたらやっぱり試合後はちょっと静かになるんですけども、次の日になると、完全に気持ちを切り替えていますよね。そこはいいなと思います。

――こちらでのピッチングで、一番よかった、あるいは記憶に残っているのはどんなシーンですか?

やはり初登板(11月16日、キャンベラ戦)が一番良かったんじゃないかと思いますね。球も思ったところに行きましたし、日本でやってきたことがそのまま試合に出たかなという感じでした。

――日本とはマウンドもボールも違うし、気候も乾燥している。環境が変わった中の初戦に、すぐ適応できたということですね。

マウンドは、それほど気になりませんでした。ボールは少し日本のものと違うので、最初どうかなとは思ったんですが、キャッチボールをした時点では全然大丈夫で、そのまま試合にも入れたのが良かったですね。

――1カ月半、結構長かったですか?

いや、意外とあっという間でしたね。行く前は結構長いなと思っていたんですが、もうこのカードでおしまい。土曜のダブルヘッダーが終わったら日曜にチームと一緒にメルボルンに戻って、月曜の朝にはもう帰国です。

――この経験を、来季にどう生かしたいですか?

球団から本当にいい経験をさせていただいたので、まずはしっかり 来年のキャンプからアピールして、支配下契約を取ることを目指します。とにかく「小野をオーストラリアに行かせて無駄じゃなかった」と思ってもらえるようなピッチングを続けたいですね。

――来季も中継ぎの予定ですか?

そうなると思います。先発はプロ(阪神)に入ってから最初の2年間ほどやらせていただきましたし、オリックスに移籍してきてからも初めは先発だったんですが、結局勝てませんでしたから。

――先発で試合を作るのももちろんですが、中継ぎで登板して試合の流れや雰囲気を変えるのも、一つの醍醐味ですよね。

それも、やりがいは感じますね。勝っている場面、負けている場面、どちらでも自分がやることは変わらないんですが、勝っている場面だと尚更、「抑えてチームを勝たせなきゃ」という思いは強いです。

――今もメルボルンで防御率0点に抑えているわけで、小野投手が出てきたら大丈夫という雰囲気が球場に流れますよね。それを感じると余計、やりがいがあるのでは?

そういう雰囲気は実際、あまり感じていないです。というか周りを気にすると、いろいろ散漫になるような気がするんです。だから、こちらの人たちの、周りの目を全く気にしないところが自分にも大切だなと余計思うんですよ。

――相手バッターと自分だけの世界にしたほうがいい、と?

試合だけに没頭するというか。本当に調子のいいときは、試合が終わってもどんなバッターに投げたか、あまり覚えていないんですよね。自分が投げることだけに集中しているんですね。そういうときは、右バッターに投げたか左バッターに投げたかもほとんど覚えていないんです。まあ、ABLでは相手の名前自体、誰だかわからないということもありますが(笑)。

Profile
おの・たいき◎1994年5月30日生まれ、福岡県出身。折尾愛真高から富士大を経て17年、
ドラフト2位で阪神に入団。23年、オリックスに育成選手として入団し、4月に支配下登録。
同年オフに育成選手として再契約。今季、ウエスタン・リーグで27試合に登板し、
1勝1敗4セーブ、防御率2.08。ABLでは全10試合に登板、1勝1敗2セーブ、防御率2.38。
投げたイニング数11.1をはるかに上回る19奪三振のピッチングを見せた。

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