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髙田琢登投手(キャンベラ)インタビュー

「集中、そして投げ終わりの形をキレイに、を意識してピッチングが上向いた」

横浜DeNA球団からのABL派遣が決まって、わずか1カ月余りでの戦力外通告。一度は派遣を諦めかけたが、球団の厚意で予定通りの参加が決まった。まだ22歳。ABLでの経験も糧に、来季はイースタン・リーグのオイシックス新潟アルビレックスBCで、NPB復帰を目指す。


実戦感覚を忘れないことが第一


――まずは今回、このABLに参加を希望した理由から教えてください。

9月ごろだったと思うんですが、チーム(横浜DeNA)で毎年、ウィンターリーグ参加の希望を募るんです。自分も去年、台湾へ行かせていただいて、この時期に暖かい場所で野球をするのはいいなと思ったんですね。寒いところで体を動かすのはあまり好きではないし、試合にたくさん投げたい気持ちもあったので、ABL派遣に応募しました。その後、戦力外になったときは最初、こちらに来るのをやめようかと思ったのですが、チームの方と話をしたところ、当初の希望通りに派遣すると言ってくださったので、助かりました。日本にいても自主練習しかできないし、自分はあまり自主練習が得意ではないので、少しでも多くの時間を野球に使えるよう、オーストラリアに来てみようと思いました。

――夏に派遣を希望したときとは立場が変わっての、ABL行きになりました。そこで、ABLでの目標などは何か変わりましたか?

特に変わりはないですね。一番の目的は実戦。ずっと日本にいても冬は試合もありませんし、自分はフェニックス・リーグにも行けず、実戦からしばらく離れていましたから。少しでも早くNPBに復帰することを目指しているので、そのためにも打者に対する実戦感覚を忘れないようにしたいと思いました。

――こちらに来て練習や試合をして、まず感じたことはなんでしたか? レベル、あるいはこちらの選手の特徴など。

日本人はしなやかに投げるというか、そんなイメージがあるんですけども、外国人投手はパワーを生かして、力強い球を投げますね。いろんな方とキャッチボールをさせてもらっても、それをよく感じました。ボールの大きさは、日本のボールより多少小さいかなと思いました。触り心地も、気候のせいか日本のほうが湿気た感じがします。バッターに関してはスイングの仕方から違うといいますか、日本の野球のように小技を使って点を取るよりも、「打って、打って勝つ」というイメージがありますね。だから、チェンジアップなどで多少崩しても、拾ってくる。自分は結構、そういう感じでチェンジアップを打たれたイメージがあります。

――そうした意味でも、組み立てがどうこうといった細かいところより、「実戦の場」ということそのものにフォーカスするのは一つですね。

そうですね。自分は全く英語を話せないので、そこまで細かいところはキャッチャーの方と話ができないこともありまして……。それに加えて、僕は今シーズンNPBであまり先発をしていなかったので、ABLで先発するにあたっては、試合の組み立てもそうですが、とにかく試合を壊さないこと。それが先発ピッチャーとしては一番大切なことだと思って、自分の中でも「テンポよく」という意識を常に持ちながら、投げているつもりです。

――ここまで(取材は12月17日)髙田投手のピッチングを振り返ると、その目標は叶っているのではないですか。14日のパース戦では負け投手にこそなりましたが、5回を1点に抑えました。

基本、3失点以内で5回を投げているので、それはクリアできているかなとは思います。ただ、パースとの試合は 1点差で負けたので、先発ピッチャーとしては、やはり「味方が点を取るまで点を取られない」という気持ちで投げないと、1点に抑えても負けることがある。そこは勉強になりました。

――このABLに限らず、いつもマウンドで一番意識していることはなんですか。

まず、余計なことは考えないのが一番だと思っています。そして、集中。今年のシーズン途中から、投球練習が終わって野手がボール回しをしている間に、外野の旗やバックスクリーンあたりをぼーっと見て、集中するというルーティンみたいなものを少し入れるようにしたんです。そこからよくなってきたので、それはここでも変えずに行うようにしています。

制球力が課題とされていたが、ABLでは安定したピッチングを見せ成長
(Photo: Baseball Australia)


強い気持ちで試合を作る


――小東(良)投手以外に、仲よくなった選手はいますか?

英語は全然ダメですけど、なんとか頑張って、みんなとコミュニケーションを取るようにしています。中でも韓国から来ているキムとジャンという2人のピッチャーとは、特に仲よくしてもらいました。自分、 韓国のご飯が好きなので、そういう話をしたりとか。

――何か技術的なことを教え合うようなことはありました?

それはほとんどなかったですね。でも(ジム・ベネット)監督がブルペンで投げているとき、結構親身に教えてくださいます。監督はオーストラリア代表の投手コーチもしていますし、同じ左ピッチャーということもあって、いいアドバイスをいただいています。

――例えばどんなアドバイスがありましたか?

一番は、最後の投げ終わりの形のことですね。投げ終わりの形ですべてが決まるんだ、と。自分の場合は、「最後にしっかり右足に乗り切って投げ終えていれば、大体いいところに行っているから」と指摘されて、確かにそうだなと思いました。そこで、最後の投げ終わりをきれいな形にしようと意識して投げるようになりました。自分はこちらに来てもう少しフォアボールが多めに出るかなと思っていたんですが、中継ぎで投げた日以外は大体1個か2個でまとまっていて、なんだかうまくいっているので、いい方向に行っていると思っています。

――試合の中で、一番印象に残っているシーンは?

ABLで初めて投げたアデレード戦(11月23日)ですかね。一昨年、去年と連覇したチームと聞いていて、実際対戦してみたら、デカくてゴツイ選手が多かったのが結構印象的でした。その試合で投げ合った山田龍聖さん(巨人)とは、去年台湾で一緒に野球をした縁もありまして、この試合が思い出に残っています。

――勝ち負けは付きませんでしたが、初めてのABLのマウンドで5回無失点でしたもんね。ところでオーストラリア生活は、勝又(温史=横浜DeNA)選手と2ベッドルームのアパートメントで自炊をしていると聞きました。分担はどうしていたんですか?

自分も勝又さんも料理が全然できないので、肉を焼くとかその程度なんですが、お互い自分のものは自分で作る感じでいました。で、使った食器も各自で洗う。洗濯は乾燥機まで付いているので基本、一緒に回していましたけれども。

――1人暮らしの練習になりましたね。

はい、自分は来年から一人暮らしなので。

――そうだ、来年はオイシックス新潟アルビレックスでプレーすることになったんですね。アルビレックスに決めたポイントは?

NPBの二軍に参戦しているチームとしては、自分の地元・静岡にもくふうハヤテというチームがあるんですが、地元にいると実家もありますし、どこか甘えてしまう自分がいるんじゃないかと思いました。ベイスターズのコーチの方にも、自分はずっと寮生活だったので、「一度一人暮らしをして、自分を追い込んでみたら」という言葉をいただいたんです。確かに高校時代もずっと実家で、一人暮らしの経験はなかったので、それもありだなと思いました。野球の面では、監督兼投手コーチに同じ左の武田勝さん(元北海道日本ハム)がいらっしゃることも、大きなポイントでした。

――もちろん目標は、NPB復帰。

もちろんそうですね。そこが第一の目標です。

――まだ大卒1年目の年齢ですもんね。ABLでのこの経験を来年、そして将来にどう生かしていきたいですか?

ABLでは基本、初対面のバッターとの対戦になっていますが、WBCやプレミア12の代表に選ばれているバッターもいる中で、思ったより抑えることができました。それを考えると、(NPBの)シーズン中はバッターを見て自分の中で少しビビってしまうなど、メンタル的な弱さもあったのかなと、このオーストラリア野球を通じて感じました。だから、これからはもうバッターを気にせずではないですけれども、強い気持ちでバッターと勝負すれば、試合は作れるのかなと思っています。来年先発をするか中継ぎになるかまだ分かりませんが、まずはそこから取り組んでいきたいと思います。

――ABLのマウンドでは強い芯を持って、だけど淡々と冷静に、自分のボールを投げているように見えましたよ。

自分はあまりキャッチャーのサインに首を振らないほうで、結構ロビー(・パーキンス捕手)に頼っていたところがありましたが、ロビーはかなり強気な配球だったので、そこを含めてよかったかなと思います。

――ところで、小東投手から海外の独立リーグの話などは聞きませんでしたか? そちらには興味は湧かなかった?

監督のほうから、「もし日本で野球を続ける場所に困ったら、相談してくれれば」みたいな感じで言っていただきました。オーストラリアに来てみて、「もっと英語がしゃべれるようになったら、海外で野球をするのも楽しそうだな」と初めて考えられるようになりました。今はもちろんNPB復帰が目標ですが、自分の中で一つ、選択肢が広がったのは確かです。

Profile
たかだ・たくと◎2002年9月18日生まれ、静岡県出身。静岡商高から21年、ドラフト6位で
横浜DeNA入団。178cm80kg。左投左打。投手。今季は目標としていた同じ左の今永昇太投手
(横浜DeNA→現MLBシカゴ)と共に自主トレを行い、初の一軍入りを目指したが叶わず、10月に戦力外通告を受けた。25年はオイシックス新潟アルビレックスBCでのプレーが決まっている。
ABLでの成績は6試合に登板(5試合に先発)し1勝1敗、防御率4.30。


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