光る波にのせて
私が好きなのは
あなたなのか
あなたの描く絵の世界なのか
ときどき
わからなくなることがある
あの日
一緒に歩いた海辺の光景なのに
あなたが描いた油絵は
私の見なかった光にあふれていて
息をのんだ
岬の形や
雲の流れを一緒に見たのは
覚えている
沖合を行く船の形や色
こんな風に小さく見えたことも
けれども
次から次へと押し寄せる光る波の
このまぶしさを
私は見なかった
白い波しぶきが砕け散り
粒子のきらめきが
青い空を背景に
網膜が傷むほどの光線を放つのを
私は見なかった
私の見なかったものを
見ていたあなたと
私は同じ海辺を歩けずにいたのだろうか
ふたりの世界は隣りあわせのパラレルワールドで
たよりない言葉や
つながっている指先だけが
交わっていただけなのだろうか
ただ
スカートの裾を膝まで両手でつまみ上げ
波に立ち向かう
素足の少女は
あの日の私のシルエットだ
逆光の中
あなたを振り返るその前の
あの瞬間の私だ
あなたの脳内宇宙の中で
空と海と光と私はひとつで
あなたはそのすべてを
一枚の画布の中に描いて
抱きしめる
私はあなたに抱きしめられている
私には見えないほど
まぶしく輝く大きな世界の一部として
光の中でいだかれている
あなたと
あなたの描く絵は溶け合う
まぶしい愛の光の中で溶け合う
その中心に描かれているのが
私であり
私以外にはないことの歓びに
心も体も打ち震える
さあ 贈り返そう
あなたの世界をわかちあってくれてありがとう
一緒にいてくれてありがとう
私には絵が描けないけれど
あなたの世界がわかるよ
あなたが私をどれほど大事に想ってくれているか
知ってるよ
そのことを伝える
この詩を瓶に詰めて
ありったけの「好き」をこめて
光る波に向かって思いきり投げよう
放物線を描く
透明な瓶を
午後の太陽が射ぬいて
私の詩がきらきらと海へ
落ちていく
波はそれをあなたの足もとに
寄せ返してくれる
あなたは瓶を拾いあげ
コルクを抜いて
絵を描くとき以外は
不思議に不器用な指先で
狭い瓶口から
中の手紙を取り出そうと
かわいいくらい必死な顔になっている
私の応えが知りたいときの
少年のようにかわいい
あの顔になっている
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