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「フリースクール・NPO法人ろーたす」――フリースクールを"セカンドプレイス"にする挑戦とは?

皆さんこんにちは!
あべのって学生です。

 今回は、阿倍野区のお隣、住吉区・あびこにあるフリースクール「ろーたす」と、ろーたすが取り組むフリースクールをセカンドプレイスにする挑戦についてご紹介します!

 というわけで、ろーたすの代表「松下さん」にお話を伺ってきました。(松下さん、ありがとうございました!)

いつお会いしても明るく元気なろーたすの代表・松下さん。

ろーたすって?

 ろーたすは、2019年に大阪市住吉区あびこに開校・開業し、今年で6年目を迎えるフリースクール・NPO法人です。現在、二つの教室でフリースクールを運営していて、利用頻度を問わず、合わせて100人ほどの子どもたちが通っています。

「ろーたす」の第一拠点です。
大阪メトロ御堂筋前「あびこ」駅から徒歩すぐ。
ろーたすの第二拠点。
第一拠点から歩いてすぐのところにあります。
子どもたちの過ごし方の特性や、その日のプログラムによって、二つの拠点を使い分けているそうです。


 また、同じ住吉区で児童養護施設や高齢者向けの福祉施設などを運営している、社会福祉法人四恩学園さんのスペースを借りて、「ろーたすアフタースクールという子どもたちのための居場所事業も展開しています。ろーたすアフタースクールは、学習支援や夕食の提供を通じて、地域で子どもたちを見守る、学童と子ども食堂を合わせたような活動です。

 こちらは、普段フリースクールに通っている不登校の子どもたちと、学校に通っている子どもたちが混ざり合うなど、子どもたちの様々な困難に寄り添う活動を展開することで、他では見られないような化学反応も生まれているそうです。

毎週火・木・金曜の14:00~20:30に実施される「ろーたすアフタースクール」。
こちらは、日本財団『子ども第三の居場所』事業として運営されています。
詳しくはこちらの公式LINEにお問い合わせください。


 このように、不登校からはじまり、様々な困難を抱える子どもたちの居場所を作り、ついには大学に進学した卒業生を排出するなど、順調に歩んでいるように見えるろーたす。

 ですが、「フリースクール」という存在に対する世間からの風当たりは強く、「子どもたちが安心してフリースクールに通う」には、まだまだ乗り越えるべきハードルがたくさんあるともいいます。

 そこで、ろーたす創設者・松下さんはなぜフリースクールを作ったのか、また、ろーたすはどのように歩んできたのか、そして、ろーたすが今、取り組んでいる「フリースクールをセカンドプレイスにする」ための挑戦とはなんなのか、詳しくお話を聞いてきました。

なぜフリースクール? ろーたすができるまで


 ろーたすの代表、松下さんが教育に関心を持った原点は、テレビドラマ「GTO」でした。

GTOは、「グレート・ティーチャー・鬼塚」の略で、主人公である破天荒な高校教師・鬼塚が、様々な問題を抱えた学校や生徒に体当たりで向き合い、その問題を解決していくという学園モノの漫画と、それを原作としたTVドラマです。

「今の中高生はきっと知らないだろうな……」と追記しました……。
(26才大学院生・筆者)


 松下さんは、そんなGTOの主人公・鬼塚に憧れて教員を目指し、大学で教員免許を取得しました。しかし、教職過程を履修する中で、学校という枠組みの中でできることの限界、教員の働き方の問題などに触れ、本当にこのまま教員になっていいのか、と立ち止まって考えたそうです。

 松下さんが至った結論は「困っている人の役に立つなら、ぶっちゃけ仕事はなんでもいい」

 そこで改めて「一番困っている人は誰か」について、深く考えました。

 実は、松下さん自身が父子家庭の出身で、また、幼い頃から持病を抱えていたこともあり、特に幼少期には辛い経験をされてきました。ご自身の境遇も踏まえ、「一番困っているのは親のいない子どもではないか」と考えた松下さんは、児童養護施設で働くことを決意しました。

 3年間の勤務の中で、世の中にこんなことがあっていいのか、と思うような辛い境遇をたくさん見てきたそうです。そんな中でも特に印象に残ったのが、"児童養護施設にいながら、学校に行くこともできない子どもたち"でした。

 彼/彼女らは、家に帰れば暴力などの被害を受けるため、施設で暮らさざるをえません。しかし、複雑な家庭環境によって愛着の形成が途上のため、学校に行っても上手に友達を作ることが難しいのです。

「この子たちの生きる楽しみってなんなんやろうか」

 という疑問を持った松下さんは、「フリースクール」という"第三の選択肢"に興味を持ちました。

 松下さんは、三年間の児童養護施設での勤務のあと、「志塾フリースクール」というフリースクールに転職し、そこでの勤務を通じて「生きる力を育む」ことと、その大切さを体感します。

 そして2019年、ご自宅のガレージを改装し、フリースクール「ろーたす」をオープンしました。

ろーたす、6年間の歩み


 開業当初は、夜勤のアルバイトを掛け持ちながらの自転車操業だったそうです。

 まずは居場所がない子どもたちに「おいで」と声をかけ、次に「友達を作ろう」と呼びかけ、そして「勉強もしよう」と、少しずつ、社会で生きていくための力を身につける働きかけを行っていきました。

 筆者は今まで、いくつかフリースクールの見学やボランティアなどに参加したことがあるのですが、ろーたすはその中でも一番、参考書の数が多く、いわゆる教科学習にも力を入れている印象が強かったです。

参考書や問題集など。
強化学習の参考書以外にも、読み物もたくさんあります。
勉強や授業の時間がしっかりと時間割に組み込まれているのも印象的です。


 次第に応援してくれる人たちやスタッフも増え、運営が安定するようになってからは、「非認知能力」を高めるためのカリキュラムにも力を注いでいきました。

 ろーたすでは、アドバイザーを務める前摂南大学学長・荻田先生の監修のもと、非認知能力を、

  • 自分と向き合う力

  • 自分を高める力

  • 他者と繋がる力

 の3つに定義し、これらを育むために、教科学習以外の行事や体験を取り入れています。

 住吉区社会福祉協議会と合同で畑作業を行ったり、近くの苅田小学校の運動場を借りて運動会を行ったり。

「農業一筋30年はウソです(笑)」と松下さん。
「住吉ガーデンプロジェクト」については、こちらもご覧ください。(Instagramのリンクです)
「ろーたす」に通う子どもたちのほか、ろーたすと繋がりのある関西圏のフリースクールや放課後等デイサービスに通う子どもたちも集まり、スタッフ合わせて約100名ほどの大運動会でした。
運動会当日、本部の運営やアナウンスなどは、ろーたすに通う子どもたちのうち、有志のグループが担当していました。


 筆者も、5月に行われた運動会にボランティアとして参加させてもらったのですが、普段は学校に行かない選択をしている子どもたちが、まさしく学校の敷地内で、学校行事の象徴のような運動会を楽しんでいる姿を目の当たりにしました。

「今は様々な理由で学校(社会)との関わりを広く持たない選択をしている子どもたちも、心の底では学校や社会に対する希望・欲求を持っている」

 ということを改めて実感し、考えるきっかけとなりました。

フリースクールをセカンドプレイスに


世間が知らない、フリースクールの実態

 社会復帰や進学実績も積み重なり、教科学習だけではなく、非認知能力を育むたくさんのプログラムの実施、地域や多様な分野で子どもたちと関わる同業他社との関係も生まれるなど、少しずつステップアップをしてきたろーたす。一見順調な歩みに思えるのですが、残念ながら、学校や社会からの風当たりは未だに強いのだそうです。

「フリースクールではきちんとした学習はできないので、遊びみたいなことしてないで、できるだけ早く学校に戻してくださいね」
という学校の先生の声や、

「うちの子、最近、ろーたすで"さえ"行けないんです」
という保護者の方の声もあったそうです。

「これって全部、『フリースクールは学校より下』とか『フリースクールは教育機関ではない』という認識から出てくる言葉ですよね。こういうことを言われると、色々と頑張っている僕たちも辛いんですが、一番は、ろーたすやフリースクールに通う子どもたちが劣等感を感じてしまう、それが大問題なんです」

松下さん


子どもたちが自信を持って通えるフリースクールへ


 子どもたちが"劣等感を感じることなく、安心してフリースクールに通う、という選択肢を持つ"ためには、フリースクールの実態をきちんと伝え、フリースクールの地位を向上させる必要がある、と松下さんは考えました。

そこで「ろーたす」は、大阪府と村上財団のコラボによる、「NPO等活動支援による社会課題解決事業」というクラウドファンディングプロジェクトに挑戦し、見事、3枠のうち一つに採択されました。

 このプロジェクトは、クラウドファンディングで集まった支援額にプラスして、その同額が村上財団から支給される――結果として、クラファンの支援額が2倍になる、というものです。


 見事、当初の目標金額を集めたろーたす。松下さんは、この支援を活かして、「子どもたちが自信を持って通える、教育機関としてのフリースクール」の実現を目指していきます。

 
しかし、必要なのは特別なことではありません。

 「ろーたすの日々の取り組みや、それを通じて成長した子どもたちのケーススタディなどをきちんと形にして残す、発信すること」それができれば、おのずと「ろーたす」や「フリースクール」に対する認識は変わってくる――というのが、松下さんはじめ、ろーたすに関わる皆さんが信じていることです。

フリースクールというと、緩やかに遊んでいるようなイメージが強いかもしれません(それも子どもたちの情操教育にとって大切な一部です)が、スタッフさんはこのように、研修を受けてのスキルアップや、細かなミーティングなどにも取り組まれています。

 
 ろーたすやフリースクールのイメージを向上していくため、ろーたすはこれから、プロジェクト型学習のさらなる充実、講演会やHP、SNSを含む広報のレベルアップ、人材確保などに投資をしていき、日々の取り組み、そしてアウトリーチの両面について、質・量ともに拡大を図っていきます。

 例えば、ろーたすの卒業生が、不登校時代や、そこからの歩みについて話す「不登校わず」というイベントがあります。絶対的な正解が存在せず、本人や保護者、身の回りの人たち全員が今後の見通しを立てにくい「不登校」について、複数の元当事者が多様な経験をシェアすることで、現当事者の皆さんが今後のヒントを得ることができると、ろーたす屈指の大人気アウトリーチコンテンツです。

 この不登校わずについて、今まではろーたすの周辺、松下さんが「ホーム」と呼ぶ地域で開催していたものを、今後は「全国行脚」に拡大していくことが計画されています。

2024年8月3日(土)に開催された「不登校わずVol.3」の様子。
詳しくはこちらのInstagramの投稿もご覧ください。


まとめ・筆者の感想・雑記


 以上、大阪市住吉区あびこにあるフリースクール「ろーたす」と、ろーたすが目指す「フリースクールをセカンドプレイスに」する挑戦についてご紹介しました!


 筆者も何度かろーたすに遊びに行かせていただいたり、松下さんやスタッフの皆さんからお話を伺う中で、「ものすごく特別なことをしているわけではないけれど、子どもたちにとって必要なことを一つ一つ丁寧に、焦れずにやり切っていく」実態や姿勢を拝見しました。

 例えば、ろーたすの利用料は月謝ではなく、利用回数によって決まります。これは、ろーたすに通う子どもたちと保護者の間で「月謝を払ったからろーたすに行きなさい」というコミュニケーションが生まれてしまうことを防ぐためだそうです。

 また、フリースクールというと学校と対立するような印象を受けがちですが、松下さんをはじめ、ろーたすの皆さんは「学校にいかなくていい」とは考えていません。
 学校に通えるのであればそれが望ましい。また、学校に行くことが難しい子どもは、フリースクールのような、学校以外の居場所や"教育機関"で全力で守り教育していくが、いずれは社会に出て生きていく力が必要であることに変わりはない。その力を、子どもたち一人ひとりのペースに合わせて育むことが大切――と、綺麗事だけではない真摯な想いを語ってくれました。

 不登校や、その背景に潜む発達障害といったトピックが話題になっている昨今ですが、「AIを使って◯◯」といった魔法のような解決策は、残念ながらほとんど存在しません。そんな中でろーたすは、既存のおかしな価値観にはきちんと異を唱えながら、しかし綺麗事だけで済ませるのではなく、目の前の子どもたちにとって必要なことを見定め、一つ一つに取り組んでいます。

 実は筆者にも、小学校、高校時代の合わせて4年間ほどの不登校経験があり、そのため、不登校や教育の分野には強い関心を持っています。そんな中、ろーたすについて学ばせていただき、改めて、子どもたちを健やかに育むために、目の前のことに一つ一つ取り組むことの大切さを実感することができました。


 最後までお読みくださりありがとうございました!

 今回ご紹介したフリースクール・ろーたすでは現在、スタッフ(やボランティア)、また、ろーたすの活動を応援するサポーターを募集しています。

 もしこの記事を読んでご興味を持ってくれた方がいれば、お気軽にろーたすのInstagramなどに連絡してみてくださいね。きっと、とても気さくでお話しやすい松下さんが出迎えてくださいますよ!



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