「LGBT」を1週間学んで感じた"くくること"への違和感(テレビ朝日アナウンサー平石直之)【 #アベプラLGBTウィーク】
「ABEMA Prime」(以下、アベプラ)では、10月12日(月)からの1週間、「アベプラLGBT特集ウィーク」をお送りしました。「知るところから始めよう!」を合言葉に、毎日、当事者をお招きして、さまざまな切り口から集中的にLGBT問題を取り上げました。言葉の選び方一つで、多くの方々を傷つける恐れのあるセンシティブなテーマだけに、番組としても慎重に手探りを重ね、一方で、「わからないこと、聞きたいことはきちんときく」という姿勢で日々の放送に臨みました。
今後、当事者の思いや課題を広く知ってもらい、社会の理解が深まっていくことを願って、今回の一連の特集内容と、日々の生放送のなかで私が感じたことを共有させていただきます。
■第1夜 ”2人のママ”の子育て 苦労も幸せも…
初回のテーマは「同性カップルの子育て」。
ゲイやレズビアンなどのカップルが子どもを持つためには、代理出産や精子バンク、里親制度を利用しなければならず容易ではありません。また、子育て時に浴びる周囲の差別的な視線も当事者を苦しめるといいます。
そうしたなか、7才の息子を育てる信子さん(34)とエリカさん(32)は、こんな前向きなコメントを聞かせてくれました。
「“うちはママとママなんだよ”と小さいときから教えてきました。もちろん、保育園ではお友達から“なんで?なんで?”と聞かれることもありました。それでも“色んなおうちがあるんだよ”と伝えていくことで、卒園するときには、周りのお友達みんなが認めてくれていました。本当に恵まれた環境にあるなと思うし、息子の力でもあると思っています。オープンにしてきて良かったです」
それでも、社会全体に理解が広がるまでには、もう少し時間がかかると感じているとのこと。また同時に、さまざまな制度が追いついていない実態があることも指摘しておきます。
■第2夜 ”男性の性被害” 信じてもらえず、茶化され…
恐怖心や恥ずかしさ、捜査や裁判の精神的負担などから、声を上げられないことが多いという性犯罪。苦しめられているのは女性だけではありません。第2回は「男性の性被害」をテーマに当事者にうかがいました。
小学6年のときに性被害にあったという、りういちさん(仮名・46)は、男性に対して恐怖を感じる一方で、同性愛者かもしれないという考えも頭をよぎり、後にうつ病を発症するなど、長期にわたりトラウマに苦しんでいます。
自身も性被害者で、自助グループ「RANKA」を主宰している玄野武人さんはこう話しています。
「私たちの社会には“男性は性被害に遭わない”“遭っても傷つかない”“傷ついても支援などいらない”という、“三重の否認”があるために、男性の被害者は加害者から傷つけられた上に、社会からも傷つけられるという二重の被害を背負っていくことになります。加害者が男性だった場合、“なぜ自分が選ばれたのか”“自分が悪かったのか”、あるいは“自分はゲイなのか”といった疑問が共通して出てきますし、被害者が同性愛者だった場合、“性暴力の影響でゲイになったのか”という疑問も持ちやすい」
内閣府は今月、性犯罪・性暴力被害者のための相談窓口を開設。また、警察庁も全国共通短縮番号を導入していて、いずれも地域の相談窓口に直接つながります。
■第3夜 「自分はいったい?」 マイノリティのなかのマイノリティ
「子宮や卵巣がない」
と、高校生のときに病院で告げられたCHIKAKOさん(34)。
「詳しい検査結果については親が聞いて、病室から出された私は待合室でずっと泣いていました」
母親は精神的なダメージを考慮したのか、「DSD」だということはCHIKAKOさんには明かさなかったということです。それから数年後にその事実を知ることになりますが、さらに男性が持つとされる精巣が身体のなかにあったことも知らされました。
子宮や精巣、卵巣など、身体の性に関わる部分が先天的に他の人と異なる「性分化疾患=DSD」。母胎にいる間に性染色体が多くの人とは異なる構造で形成されることが原因の一つと考えられていて、厚生労働省によれば、4500人に1人の割合で起きるとされています。
「女の子として生きていけないのかなという孤独感が強かった」
と語るように、もともと持っていた自身の性の認識が混乱し、苦悩するケースもあるようです。
そんなCHIKAKOさんに転機が訪れたのは26歳の時。初めて自身と同じ身体のDSD当事者と出会いました。
「それまでは自分と同じ身体の人に会うことはできなかったので、目の前にした時に、“私はこの瞬間のために生きていたんだな”と思えたくらいに嬉しかった」
性的マイノリティへの理解が高まるなかでも、あまり認知されていない、"マイノリティのなかのマイノリティ"。その存在を少しでも知っていれば、当事者も周りの人たちも戸惑いや苦しみを減らすことができるかもしれません。
■第4夜 子どもが産めず、声の低い身体に… “性別再変更”の苦悩
心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」。その認知度が高まるにつれて、性別を変更する人が増える傾向にある一方で、性別を変えた後に「新しい性別では世間に馴染めなかった」「ハラスメントや差別を受けた」などの理由から、性別を再び元に戻したいと考える人たちもいます。
性同一性障害の診断を受けたヒカリさん(30代)は、2年以上をかけて戸籍上の性別を男性に変更したにもかかわらず、“喜び”以上に“違和感”が湧き上がったとのこと。
「社会に出て2、3カ月くらいで、違和感を覚え始めました。当たり前のことですが、職場の会話などでは男性として扱われます。男の人になろうとしていたけど、性指向は男性のみだったりしたので、覚悟はしていたつもりでしたが、そういった基本的な部分で苦しくなってしまいました」
ただ、ヒカリさんのように、性別をもう一度元に戻す“再変更”の手続きを取るためには、“性別変更を取り消す”という裁判を起こし、2人以上の医師が下した性同一性障害との診断は誤診だったことにする必要があり、医師にとっては損害賠償請求を受けるリスクにもつながります。
ヒカリさんは自身を振り返って、こうコメントしています。
「戸籍は戻すことができても、身体は不可逆。治療に入る前に色々な人と関わってみたり、別の理由で性別を変えようとしているのではないかなど、答えを出さなくてもいいので、しっかり考える必要があると思います。急がないで欲しいです」
■第5夜 “バイセクシュアル”をめぐる誤解と偏見
男性、女性、どちらも愛することができる“両性愛”の性的指向をもつ“バイセクシュアル”。ゲイやレズビアンなどの“同性愛”に比べて、社会の認知や理解が低く、“性に奔放な人“などという誤解や偏見に多くの当事者が苦しんでいるといいます。
また、単独のコミュニティがほとんどなく、周りから「気の迷い」「一時期の遊び」などと思われ、信じてもらえないなど、バイセクシュアルならではの悩みも多いようです。
当事者である越智えり子さん(31)はこう思いを語ってくださいました。
「バイセクシュアルであるということは、自分を構成するいろんな要素の1つでしかありません。好きになった人が好きなだけです。LGBTであろうがなかろうが、目の前の人は1人の人であるということをぜひ知ってほしいし、その人ときちんと対話を重ねることを大切にしてほしいです」
■[放送を終えて] 出演してくださった当事者のみなさまに感謝!
今回の特集のなかでもお伝えしましたが、「LGBT」という”くくり“のなかにはあてはならない性的マイノリティの人たちもいて、「LGBTQ」や「LGBTQIAPK」「LGBTs」などの言葉も生まれてきました。しかし、こうして”くくられること“自体を快く思わない当事者の人たちもいます。
こうして作られた“くくり“のなかに入ることで、さまざまな性的マイノリティを知ってもらうきっかけにはなりますが、1人1人事情が異なるうえ、中途半端な理解は逆に誤解や偏見を生んでしまい、正しい理解につながらない恐れもあるからです。
出演してくださった越智さんもお話しされていたように、こうした”くくり“や用語そのものよりも、「目の前の当事者ときちんと対話を重ねる姿勢」こそが大切だと気づかされます。そして、目の前の人に思いをよせ、思いやる気持ちが大切なことは、本来その人が性的マイノリティであるかどうかにかかわらないことです。
性的マイノリティの78.8%の人たちが「誰にもカミングアウトしていない」と答えているデータがあります。先日、「同性愛が広がれば足立区は滅びる」との趣旨の発言が問題となった79歳のベテラン男性区議が「私の周りにはLGBTはまったくいない。会ったことがない」と発言していましたが、こうした人の前ではカミングアウトできない現実があり、カミングアウトしていない人たちが実は周りにたくさんいるかもしれないのに気づいていないという、いまの社会のありようにも目を向けていかなくてはなりません。
今回、多くの当事者の方々が覚悟をもって出演してくださったことで、双方向のやりとりのなかから感情を伴った立体的なメッセージが浮かび上がり、「勇気づけられた」との声がツイッターなどで数多く寄せられました。出演してくださったみなさま、本当にありがとうございました!
まずは知り、理解することで、自分自身の受けとめ方や態度も変わっていくという手応えを感じた、学びにあふれる1週間でした。
アベプラでは継続して取材し、またあらためて続編をお送りいたします!
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