対話型生成AIに、早くデータ活用業務を引き継ぎたい
本記事は、trocco Advent Calendar 2023に捧げます。対話型生成AIのことを考えたら、クエリ職人としてのキャリアを振り返る記事になりました。
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僕はSQLのクエリを書くのが早い。
2014年からBigQueryを触り始め、ずっと付き合ってきた。そして良くも悪くも、現場でクエリを叩くキャリアを歩み続けている。おかげでクエリを書く筋肉が発達した。ミーティングしながら画面共有でクエリを書くこともしばしばだ。
僕は幼い頃、公文式を習い筆算マシーンと化していた。それと同じように、大人になっても、クエリマシーンとしてデータを望ましい数字へと変換している。
データサイエンティストを名乗ってはいるが、何を隠そう、僕が最も経験値として蓄えてきたのは、「できるだけ速くSQLを書き切り、議論の叩き台となる数字を可視化する力」である。ちなみに正確さは、意思決定が変わらない程度に担保するラインで切り捨てて、速さに振っている。
もう少し言うと、抽象度の高いテーマについて、それらしい数字をどう出すか考えながらクエリを書くのが好きだ。GROUP BY 一発で瞬殺できるようなクエリはそそられない。ミッションを達成するために、未知の切り口から世界を解き明かすようなクエリを書きたい。
そういう意味で、前職AbemaTV時代のボスの「俺たちはクエリを書いてるんじゃない、マスメディアをつくってるんだ!」の言葉は最高だった。
そんなクエリ職人の自分にとって今年、尊敬すべき仲間が増えた。ChatGPTをはじめとした対話型の生成AIである。ここでは敬愛をこめて藍くんと呼ぼう。
藍くんはすごい。クエリの早打ちで負ける相手はほぼいないと思っていたが、藍くんには勝てない。藍くんは、僕が苦手な、正規表現や、配列の展開、時間形式の変換を正確無比に打ち抜いてくる。
まだまだ若いもんには負けないと思っていたが、藍くんには完敗だ。
仕様を決められるものに関して、彼にできないことがあるとするなら、それは多分こちら側のインプットが足りていないだけだ。成長も早い。作業者という一点において、藍くんは、僕が見てきたどの同業者よりもタフで有望だ。
ようやく、僕は後継者を見つけられたかもしれない。
クエリを叩き続けるとわかるが、データ活用は「全方位のステークホルダーに対して、データを望ましい数字へと変換すること」で推進しやすくなる。
そのためには、ひたすら職人芸を繰り出すタフさが必要となる。そのタフさは、「目の前の相手を理解しようとする気持ち」と「数字が物事を推進するエンジンになると信じる気持ち」によって支えられる。
その2つの気持ちを保ち続けるのは、一般の会社員には難しい。
理想の数字を出すためのデータと現実のデータにギャップがあったり、
コミュニケーション不全に陥ったり、
有意義な数字を提案しきれなかったり、
やるべきと定めた仕事があって新たな相談に乗る余裕がなかったり。
結果として何らかのコンフリクトが起こり、モチベーションが減退する同業者も結構な数見てきた。この手の「できるだけ速くSQLを書き切り、議論の叩き台となる数字を可視化する仕事」は、かなり人を選ぶと思っている。
だが藍くんは、応えることを決して諦めない。
自分を疑わないのがたまに瑕だけど、言えば素直に直してくれる。
彼のポテンシャルに、僕は驚嘆している。
しかも藍くんは分身もできる。今までずっと足りないと言われてきた、データ活用人材不足を藍くんは解消してくれるかもしれない。
大学時代を含めると、僕は16年間データと付き合ってきた。その間にたくさんの友達や仲間が、データの道に入っては去っていた。そうして得た1つの信念に、「データと向き合い続けられる人類は限られる」というのがある。
小説を読む、読まない。
絵を書く、書かない。
楽器を弾く、弾かない。
データを触る、触らない。
データに長時間コミットすることについては、どうしようもなく苦楽が別れるものだと思っている。データを好きになれる人じゃない限り、データ活用人材のキャリアを積むのは余程しんどい道になる。
だから、「全員がデータを自在に扱えるようになる」という意味でのデータの民主化は訪れないと僕は思っているし、大学や企業が数百人規模で専門人材を育てようとも生き残るのは1割に満たないと思っている。
データ活用人材教育は、よっぽど国策としてやらない限りは、データ活用のニーズに対しての人材は乏しいまま、という状況が続く。
と考えていた。
が、藍くんはこれを突破しうるのだ。
藍くんが縦横無尽に力を発揮できるようにさえしてあげられたら。
そのために必要なデータとルールを、リーズナブルに整える手段が構築されたなら。
そのときデータ活用人材不足は、大きく解消に近づくかもしれない。
いま僕たちは、藍くんにどうデータを渡せばいいのかを考えるべきだ。そのためには、データを繋げることと、機械的に解釈しやすいデータに整えることが必須になる。僕は今まで以上にtroccoを使うだろう。
そしてBIとして、対話型生成AIという技術革新を活かしやすい立場にあるのはLookerだと思う。データ形式をLookMLで定義しているというのは大きな強みだろう。幸い弊社はLookerを契約しているので、新しい観点で試していけたら嬉しい。
僕が社会人として最も工数を割いてきた「議論の叩き台となる数字を可視化する仕事」が、藍くんに任せられそうな仕事であることが嬉しい。そのニーズの高さを、人や組織を変える力を、僕は肌身を通して知っている。
2年前に「いい時代になった」というアドカレを書いたが、藍くんの登場でデータ活用的に「いい時代」が来るかどうかはまだわからない。だが、今この瞬間は、データ活用に関わるすべての人が、いい時代をつくるためのチャンスを有していると思う。
いつか藍くんに仕事を引き継げる日を目指して、いち経験者として役に立ちたい。そうしてみんなが、あらゆるデータをビジネスの力にしていけたらいい。
このタイミングで、こんなチャンスが訪れるなんて予想していなかった。データ活用人材不足を思わぬ方向から解決できる手立てが生まれたことに感謝したい。
以上、風呂敷を広げた話で恐縮ですが、今年のポエムでした!本年も誠にお世話になりました。来年もよろしくお願い致します。