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かわる初任給

本日はこちらです。

日経COEMOさんのお題に乗りたいと思います。連載はまた金曜日に配信します。ということで、以下に僕なりの意見を書いていきたいと思います。

一部の人

初任給を「一部」変えるという記事が目立ってきている。初任給は一部の専門職を獲得するために変更するというのがそれだ。要するにAI人材が不足しているのだから、それを補うためには海外に負けない魅力的な報酬が必要、ということだ。

これ自体に異論はない。

しかし、もしこの趣旨でやるのであれば、2割アップだとか、新人でも1千万円だとか言わずに、もっとがんがんお給料を上げるべきだ。海外と同じ給与水準や賃金体制にすればよい。

上記の記事を読んでいても、よく理解できない部分がある。別に日本でも2千万〜3千万円払えばいいのではないだろうか?

もっぱら中途採用市場においては、エグゼクティブ級の人材は若くして日本企業で役員として迎え入れられたり、それなりの報酬を得ているのだから(これはこれでまだまだ少ないという問題はあるかもしれないが)、同じである。

新人のその人材が、たまたま最初のキャリアをスタートした会社が自社だった。

そう考えるべきなのだ。中途の人材と同じように扱えばいいはずであり、日本の新卒一括採用をチラチラと横目で見る様なことはしなくていいのだ。

「新卒でも高度な専門性のある人はちょい高めの給料で採用します!」
そう言うからおかしくなるのだ。

「高度な専門性を持った人ならキャリアの有無に関係なく高給を払います!」
と宣言すればいい話であり、そういう枠を作って新卒も中途も混ぜこぜで人を採用したらいい話だと思う。

新卒一括採用の意味

逆に、一部でないその他大勢の人は一体どうなっていくのだろうか?僕も10年以上前、まさにこの「その他大勢」の一人としてある会社でキャリアを開始した。同期は200名いたし、寮住まいだったので結構な人数と未だにつながっている。会社が変わっても同期は同期なのであるから、会おうと思えばまた会うことはできる。

院卒のソニーの新入社員は初年度の年収が630万円らしい。これを一般的に安いと見るか高いとみるかは議論しないが、今後は、一部の高度な専門性のある人に比べれば少ない給料体系になるとうことだ。

彼らにとって年収は少ないが新卒一括採用でソニーという会社に入る意味はあるのか?と言えば間違いなくある。それは630万円と言う最低限の生活保障に加えて、同じ世代、同じ実力くらいの人たちとの人脈を得られるという、会社からの非公式な福利厚生が付いてくるからだ。

この福利厚生はその特性上、出世に役立つかどうかは全くの未知数だ(終社の時代は、キャリアの後半戦で多少なりとも効力はあったかもしれない)。

最も大きな効果は、精神的な安心安全が得られる点だ。

自分と同じ年代で、大体同じくらい力を持った人間が今どのへんにいて、自分と比べて差があるのか、ないのかがわかるのだから、ありがたいシステムだ。

その上、その人材を、全く仕事が出来ない前提で会社は受け入れてくれるのだ。せっせと会社は育てようするわけだ。こんなにありがたいシステムはないだろう。

僕は、新卒一括採用システムには本当にお世話になった。

今があるのは、こんな僕に毎月最低でも20万円程度の給料を保証してくれて、同じくらいの実力の人間がどのあたりにいるかの指標を示してくれて、しかも20万円分の仕事もろくにできていない月もあり下手すれば会社に損害を与えるような存在だった僕に、このままだと解雇するぞという脅しのひとつもなく辛抱強く雇用してくれたのだ。

まったく何の義理も縁もない人間にここまでしてくれる日本の会社は、本当に優しさに溢れており凄いことなのだろうなと思う。

年額630万円のくそサブスクを払う企業などない

涙無しには語れない深い愛情を、新卒一括採用システムから受けて育った僕は、10年後に別の超大手企業から10%以上の報酬アップと平均月残業時間20時間以内でいいという、それはそれはありがたい条件をいただき転職した。

決して自分の華々しいキャリアを自慢したいわけではない。

伝えたいのは会社からすれば新卒一括採用システムは本当に割の合わない教育システムだということだ。散々便益を享受した社員、順調に育まれた社員、そういう社員はすぐに転職市場で引き抜かれていってしまうのだ。我ながら酷いことをしたものだ。

毎月630万円のサブスクリプションサービスを考えてみてほしい。

ろくでもないサービスをずっと提供してくるものだから、評価レビューしてあげたら、素直に改善がなされたんだけども、そう思った矢先に「本サービスは提供を終了します」ってでたら、どうだろうか?金返せと思いたくなるはずだ。

なので、僕の結論は新卒一括採用は減らしていくべきだと思っている。

こんなに社員を優遇しすぎる制度では会社がもたない。高い給料で教育が不要なくらい優秀な人材か、安い給料で単純作業させるだけの人材か、この二択でやらないと経営は成り立たない気がする。

そして安い給料で単純作業させるくらいなら、それこそAIで十分なのだ。それ以外にもRPA、DX、テレワーク、などなど効率化の仕組みは山ほどあるのだから、単純作業する領域の雇用は縮小していくことになるだろう。

学生はどう取り扱われるべきか?

こう締め括ってしまうと、今後も輩出される「その他大勢」の大学生が雇用される機会がなくなってしまうことに危機感を持たれるかもしれない。

この点について僕は雇用統計の専門家でもないので具体的な数値の予測はできないが、これまでの僕の考えの上では、確かに失業者は増えると思っている。

しかし、それを「危機」とする価値観でいいのかは疑問だ。

本当に会社で働くこと一択で幸せなのか?ということだ。価値観の多様性が増し、社会もそれを支える仕組みがあれば他の選択肢も増えていくのではないかと思っている。

要するに会社で働くかなくても生きていける社会を作るしかないのだろう。

それが、新卒一括採用システムで育ってきた世代に課せられた責任というものだと思っている。

ということでまた。

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