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ふくしま浜街道トレイル冒険録8:相馬野馬追の朝に(原町→鹿島)

 相馬野馬追。相馬地方(旧相馬藩)を象徴する馬のお祭りだ。江戸時代は旧暦五月に行われていて、2023年までは長らく7月最終の土日月の3日間に行われていた。例年の開催時期は梅雨明け直後で暑い日になることが多く、相馬地方に夏の到来を告げる風物詩となっていたが、近年の猛暑で馬も人も熱中症になるなどの影響が出て、2024年から開催時期が5月末に変更された。
 相馬野馬追のメインイベントは3日間のうち2日目に雲雀ヶ原祭場地で開催される神旗争奪戦。1日目はそれに向けた出陣式で、雲雀ヶ原に向けて騎馬武者が町を行列するという祭事が相馬地方各地で行われる。
 5月25日は相馬野馬追の1日目。南相馬市鹿島区(旧鹿島町)で行われる騎馬武者行列を見学することにして、野馬追の時間に合わせて原ノ町駅から鹿島駅までのセクションを歩く。

Day9:原ノ町駅→鹿島駅

2024年5月25日(土)
 原ノ町駅はお祭りムード。JRの駅員さんは陣羽織を着てお仕事をしており、駅前には幟旗がはためいている。跨線橋で駅を越えて、原ノ町駅西側の市街地を歩いていく。子供のころから何度となく訪れた馴染みの原町の街並みだ。

 国道6号線を越えて海側に進むと、「桜井古墳」という大きな古墳がある。桜井古墳は前方後方墳(前方後円墳ではない)で、方形の墳丘を2つ連ねた前方後方墳の形がよく保存されており、墳丘の頂上に登ることもできる。前方後方墳と前方後円墳の違いがなぜ生じたのかについてはっきりとしたことはわかっていないが、1つの説に前方後円墳を作る文化と前方後方墳を作る文化は別の文化圏に属していたというものがあるそうだ。この古墳に眠るのはどんな人物なのだろうか。

墳丘の背を歩く

 しばらく進むと北泉海岸という砂浜があるが、ここはサーフィンの名所として知られている。この日も海岸はサーファーの姿で賑わっていた。北泉海岸の奥には、東北電力原町火力発電所が立地している。

北泉海岸

 旧原町市と旧鹿島町の境を越え、真野川に沿って歩いていく。このあたりの集落は南右田・北右田というが、ここは南相馬市小高区に居を構える作家柳美里さんのベストセラー「JR上野駅公園口」の舞台の一つだ。上野公園に住むホームレスを主人公とした小説だが、主人公の出身地が北右田に設定されている。小説は主人公がホームレスになるまでの人生が回想として語られる形式をとっているので、鹿島の風景がたびたび登場する。
 この小説の中で、主人公は江戸時代に北陸地方から移住してきた浄土真宗(一向宗)信徒の移民の末裔と設定されている。相馬藩では、天命の大飢饉で人口が激減した後、人口減少対策として加賀越中から一向宗徒の移民を呼び寄せた。移住が幕府によって禁制とされていた時代、幕府の目を盗んでの移民だったという。移民の末裔は今でも相馬地方全体に点在していて、今でも一向宗の信仰や北陸由来の習慣を守って暮らしている。
 実は、私の実家もそんな相馬地方の一向宗移民の末裔だ。小説の中で語られる一向宗徒の暮らしは私にとっても身近なもので、印象に残る小説だった。
 小説は東日本大震災のシーンで締め括られる。このあたりの集落もまた、津波で深刻な被害があった。全米図書賞も受賞した「JR上野駅公園口」、重い雰囲気の小説だが、相馬地方の歴史や暮らしを感じることもできるので、ぜひ読んでみてほしい。

 鹿島駅に到着。旧鹿島町の中心市街地もお祭りムード一色だ。
 相馬野馬追の1日目は、旧相馬藩の地域区分に従って宇多郷、北郷、中郷、標葉郷に分かれて出陣式を行い、それぞれが2日目の神旗争奪戦に向けて行軍する、という体裁で相馬地方各地で騎馬武者の行軍が行われる。
 ここ鹿島の騎馬は北郷に属する。北郷の騎馬は相馬野馬追の副大将を務める決まりになっていて、宇多郷から出馬した総大将を北郷の陣屋でお迎えし、宇多郷と北郷が一緒に鹿島の街を行軍する。
 相馬野馬追のお行列を楽しむコツは、行列の陣立(構成)を頭に入れておくことだ。駅などで解説ペーパーを配っているので、それを見ながら行列を眺めるとより楽しめる。たとえば、赤い大きな幌は総大将のしるしだ。馬印や鉄砲など、足軽の持ち物も目立たないが注目すると面白い。

総大将は相馬家のお殿様が務める

 行列の進行を伝える伝令役の騎馬が走り回り、螺役(かいやく)は螺貝で合図を送り行列をコントロールする。ちなみにお行列はお殿様の行列なので、昔の大名行列と同じで絶対に横切ってはいけない。横切ってしまうとものすごい剣幕で怒られる。「打ち首だぞ!」と怒鳴られる観光客を地元の人が生暖かい目で見守るのも野馬追の風物詩のひとつだが。騎馬武者は殺気立っているし、馬に蹴られるのも危ないので気をつけよう。

螺役コンビ
凛々しい螺役

 ちなみに野馬追2日目の神旗争奪戦の後は、帰り馬と呼ばれる行列が再度各地で行われる。見事神旗争奪戦に勝利した騎馬武者の凱旋パレードでもあり、武者はみんな酒を飲んで酔っ払っているので1日目よりも更に荒っぽいが、こちらも見ものだ。相馬野馬追というと2日目の神旗争奪戦ばかりが取り上げられるが、お行列もぜひ多くの人に見に来てもらいたいと思う。

 この日は約16kmの道のりを3時間半で歩き、相馬野馬追の雰囲気を楽しんだ。ふくしま浜街道トレイルのゴールまで、あと一息のところまで来た。

 北側のセクションは未踏破。

 南側のセクションは↓

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