あなたは


希死念慮の末に行き着く、自分と自分との剥離。目に入るもの、耳に入るもの、手で触れて感じるものの全てが最初から幻だったのではないかと、思う。肉体と精神とのお別れ。
死ぬ前もきっとそんな感じなのだろうな、と思っていると本当に自分が自分からふうっと剥離していく。目の前に自分の姿をした何かが。立っている。

「あなたは誰?」

そんな問いはナンセンスであることは分かっている。自分から生み出された何かは、自分と同じ容姿をした何かは間違いなく私である。

「私はあなた。」

予想通りの答えだった。私はあなた。あなたは私。
ほんの少し安心した。


死ぬ時は誰しもが一人だという話を聞く。当たり前かもしれない。死ぬ時に誰かに看取られるか、本当に看取ってもらう人もおらず一人で死んでいくかの違いはあるかもしれないが、その時肉体から意識を手放すのは自分一人だけ。
心臓の音が聞こえる今は、その事実がすごく怖く思える。どんな感情になるのか、意識を手放した先に何があるのか分からなくて怖いから。


最期には自分しか、自分と手を取って同じ方へ歩いていってくれる存在が居ないのだから、どうせなら生きているうちに自分で自分のことを好きになっておきたいとようやく思えた。嫌いな奴とずっと一緒に生きていくの嫌だし。嫌いな奴となんて一緒に死にたくないし。
自分と自分、腐れ縁だもん、仕方ないね。どうせならお互いを好きになってから終わりたいね。自分とずっと一緒にいてくれるのは自分しかいないから。



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