「ひまわりの約束」の歌声が響きわたるその日まで
一点の曇りのない
清廉潔白な空
ほんの数年前
私たちはともに手を繋ぎ
ともに肩を抱き合い
ともに歌を歌った
大きな歌声は
うねりとなって
連鎖となって
感動を生んで涙に変わった
それはほんの数年前の文化祭の日のこと。
秦基博の曲「ひまわりの約束」の歌声が体育館のアリーナに響き渡っていた。
「ひまわりの約束」は
文化祭のエンディングテーマにと生徒たちが選んだ曲だった。
私は歌いながら、右隣の教え子と顔を見合せた。
私は歌いながら、左隣の教え子と肩を組んだ。
教師とか
生徒とか
男とか女とか
そんなちっぽけな枠組みを超えて
同じ感動を共有する空気。
いつしか
周りの全員が肩を組んで歌っていた。みんな笑顔だった。
遠くで灯る未来
もしも僕らが離れても
それでも歩いていくその先で
また出会えると信じて
ちぐはぐだったはずの歩幅
ひとつのように今重なる
そばにいること
何気ないこの瞬間も
忘れはしないよ
旅立ちの日 手を振るとき
笑顔でいられるように
秦基博
「ひまわりの約束」より抜粋
三年生はこの歌の歌詞に自分たちの姿を照らし合わせていた。
入学したての頃
彼らはお互いを知らず、言動は、ちぐはぐだった。人間関係を探っていた。
三年間ともに生活し、ともに多くの行事を経験して協力し成功させてきた。
そのたゆまぬ時間の流れの中で、それぞれの歩幅が徐々に揃い、重なった。文化祭の日に彼らが思い浮かべるのは「卒業」という大きな節目だ。まもなく訪れる旅立ちの日。その日に手を振って、笑顔でお互いの未来を祝福できるために
「今」が必要なのだ
今年も文化祭がやってくる。
昨年は全校合唱はできなかった。
それどころか
学級で取り組む合唱コンクールもできなかった。それでも、教え子たちは、「自分たちに今できること」を模索し、工夫した。実施することを諦めなかった。
昨年の文化祭は実行委員長の生徒の言葉でこう締めくくられた。
「不安の中での工夫と挑戦。多くの人の力に支えられ、無事に終えることのできたことへの感謝します。」
その言葉の裏には確かな充実感があった。
しかし
全校合唱はできなかった。
全校で選んだ曲は、吹奏楽の演奏という形で披露され、心の中でその歌詞を噛みしめた。これも工夫した演出で、それはそれで心を打ったのだが。
まもなく
また文化祭の季節は訪れる。
実行委員たちは
既に「今できる実施の仕方」を検討し始めている。
「思い通りにできない」日々は続く。
歌いたい
歌わせてあげたい
歌ってはいけない
このせめぎあいは
いつまで続くのだろうか。
しかし
「実行するため」知恵を絞り合い、工夫し、今までにない挑戦をする。彼らの若い力を頼もしく感じる。
何度計画を立てても
状況に跳ね返される。
それでも
何度でも何度でも
計画を練り直す。
どうすれば可能になるのかを模索する。
たくましい教え子たちの姿
見守るしかない。
創造する力や諦めない心。
知恵を出しあって、挑戦する。
その大切さを伝え
応援し続けるしかない。