恋はいつも
心に秘めた恋。心のさざ波はゆらゆらと揺れ、感情の浜辺へと打ち寄せる。
あなたはその揺らぎをこっそり誰かに打ち明けたくなる。
ある日
渋谷の街を歩いていると気になるバーの看板を見つける。
誘われるように暗い路地裏に入ると、そこに「Bar Bossa 」の文字。
レコード盤からは心地よいメロディーが聴こえてくる。あなたは躊躇わず、カウンターに座る。目の前には、バーテンダーの優しい微笑み。バーテンダーはあなたの気持ちにぴったりのお酒を丁寧につくり、目の前にそっと置いた。
誰が話さずにいられようか。
「Bar Bossa 」に訪れて、人々は自分の恋を語る。人の数だけ恋の物語は存在する。ときに熱情的に。ときにさりげなく。せつなげに。楽しげに。人々は自分の恋の余韻に酔いしれる。移りゆく季節の中で、それはまるで「恋の四季図鑑」というところだ。
21人ものまったく異なったストーリーは、読者を飽きさせない。その秘密は後味だ。さらりと爽やかで、決して甘ったるくない。何杯でも飲めるカクテルのようにすっきりとした喉ごしだ。
バーテンダーは、つかず離れず、寄り添うような安心感をお酒とともに提供する。
誰が話さずにいられようか。
そのカウンターで思わず秘密を漏らすのは必然のことなのだ。
そして、21人目の恋を語る人物は、バーテンダー自身。
なんとも心憎い演出がラストに待ち受けている。その素敵なストーリーは、あなたにときめきという贈り物を届けることだろう。
「恋は失われる。失われるからこそ、その恋は永遠に幸せの中に閉じ込められる。」
恋はいつも刹那的だ。
しかし、たしかに存在していた誰かを思う気持ちが、あなたを輝かせる。
この一冊を読み終えたとき、あなたは新しい恋に一歩踏み出すかもしれない。それは春の恋だ。
実は、本書にはもう一つの楽しみ方がある。物語には、お酒と音楽の深い知識がふんだんに散りばめられている。作者はバーテンダーの経験をもつ。その経験にもとづいた言葉たちを拾い集めるだけでも、一読の価値ありだ。視点を変えて、二度以上読むことをお勧めする。
そして
22人目の恋の語り手はあなたなのかもしれない。
この記事は「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる」の解説応募記事です。