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熊谷綾乃「altitude」

文京区水道(最寄駅は東京メトロ有楽町線の江戸川橋駅)の現代アートギャラリー aaploit(アプライト)では熊谷綾乃の個展「altitude」を開催しています。熊谷は1990年長野県生まれ。東京造形大学でテキスタイルデザインを学び、2016年に同大学院を修了しました。

熊谷は染めた布に編み縫いを施す作品制作をしています。出身地の長野をはじめとした地域の様々な山を登り、その登山体験に基づいて作品制作をします。作品の草花のモチーフは、彼女が過酷な高山環境で見た植物です。

本展覧会の名前 altitude (標高)は、そうした過酷な環境に育つ命。その生命を見つめ、自身と対比しつつ制作した作品を提示しております。

ギャラリーの一番奥に《ただ呼吸するだけの窓》があります。格子状に組まれた木枠に丸の刺繍を施した透ける赤い布を施した作品です。

ただ呼吸するだけの窓 (2022)

この窓は、アーティスト自身であると言います。開くことはないが、透けている窓、無防備であるようですが、リズム感のある刺繍は生命の力強さを想起させます。登山の過酷な状況において、自身と周辺環境との境界が溶けていくような感覚があると言います。そうして溶けて混ざり合った感覚をつなぎとめるのが、ギャラリーの中ほどに提示している《カード》です。

カード(2022)

オーガンジーに刺繍を施し、生地の波打つようなテクスチャーはモアレとなって霧のように見えます。《たた呼吸するだけの窓》から発せられたアーティストの記憶は、カードにモールスとして記号化されて定着されます。
古い刺繍機械はパンチカードによって刺繍柄を布へと打ち込みました。《カード》は、アーティストの記憶を留める記憶装置です。


搬入の際にギャラリーの壁に制作した《現在地点 5.1》の制作様子の動画があります。

アーティストがギャラリーの周辺を散歩をしながらスケッチし、慣れない町で迷子になり、スケッチがパンくずになって、ギャラリーへ戻ってくることができた。そのスケッチの中からひとつを選び、ギャラリーの壁面にマスキングテープで制作しました。

スケッチはマジックを使います。マスキングテープも一種類を使います。これは線を同じ強さ、同じ濃さにしたいためと、熊谷は言います。記号化・パターン化を参照するかのようなスケッチと、そこから提示された木は、とても活き活きと見えます。

記憶を一針一針縫いこんだ altitude シリーズは6点の作品を提示しております。記号化・パターン化された現代を能動的に受け入れ、自身の身体表現を持ってドライブする姿は、自己防衛的にも見えますが、強かであり、現代を生き抜くヒントがあるように思えてならないのです。

鑑賞できるのは展覧会期間中ですので、是非ご高覧ください。


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