南アフリカECの急成長に見る、海外企業のチャンスは?!
南アフリカのECは大きな成長期
南アフリカ(以降、南ア)最大の銀行、First National Bank (FNB)のカード決済を手掛ける部署、 Marchant Serviceの調べでは南アのEコマース(以下、EC)市場は急激に拡大しており、2021年時点で約11.3 billion USD(現為替レートで日本円で1.6兆円程度)の市場規模だったのが、2025年には倍の22.6 billion USD(約3.2兆円規模)、年平均成長率が19%と予想されています。
同社の試算によるとコロナのハードロックダウン等を通じて顧客の消費行動は大きく変容しており、パンデミック前はリテール向け販売のカード決済のうちECが占める割合はわずか8%でしたが、パンデミック以降2021年末には当該比率が14%に上昇したとのことで1年で倍程度伸びたことになります。現在、南アのヨハネスブルクに住んでいますが、肌感覚でもECの急激な拡大、サービスの定着を感じています。
南アのamazonであるTakealot
南アのEC市場最大級で代表格なのがTakealotです。南アのテクノロジーリサーチ研究所(World Wide Worx)の調べでは、南アのオンラインリテール利用者の1/4から半数程度はTakealotを利用しているとのことで、南アのAmazonと称され、出展企業は4,500を超えます(2021年時点)。
※ちなみにナイジェリア発のEC、Jumiaは南アでも事業は行っていますが、Takealotの方が圧倒的な存在感です。
同社は2011年に南アでサービスを開始の上、2015年には南ア最大の情報通信・メディア関連企業のNaspersグループ(2021年のグループ売上高US$5.934B)の一員となりました。
取り扱う製品は日用品、エレクトロニクス・オーディオ用品、ゲーム用品、書籍、健康・美容製品、おもちゃ、オフィス用品など多岐に渡り(2019年時点で商品種類は370万以上)、ユーザーインターフェースにも凝っていて、例えばスキンケア製品を購入する場合、”Skincare Product Finder”というページ上で、解決したい悩み・肌質・どんな製品を求めるか(アルコールフリー、SPFあり、オーガニックなど)を聞かれたうえで自分に合ったスキンケア商品をマッチングしてくれ、消費者にとっては有難いです(写真1)。
写真1:TakealotのSkincarefinder
Takealotの配送物流への投資
同社がこれだけ南ア内で顧客を集めているのは、商品点数の充実やユーザーインターフェースだけでなく、配送網への投資による自宅配送モデルの信頼構築といえます。アフリカというとラストワンマイルの物流網の信頼性を心配するかもしれない。特に治安の問題が顕在化している南アではその心配もひときわ多いとも懸念しますが、問題無く商品が届きます。製品にもよりますが、都市部に住んでいる限り翌日配送も充実。実際に、ヨハネスブルク市内で注文した商品(ヘアケア用品)が注文翌日のお昼過ぎに自宅まで届きました。Takealotは、全国93か所に配送拠点を置いているため全国に配送可能で、郊外含めて全国に100か所程度のピックアップポイントロッカーも有しています。
安心できる配送の実現は同社の投資の賜物で、創業2年後の2013年には同国配送スタートアップのMr.Dを買収の上、自社で配送員・フリートを保有し今も拡大中(2021年8月時点でドライバーは15,000人)。加えて、都市部に広大な物流倉庫(Distribution Center、以降DC)を保有し、公開されている情報だけでも2018年にヨハネスブルクのDCを75,000㎡へ拡張、2021年には同じくヨハネスブルク(首都プレトリア寄り)に20,000㎡のDCを新規確保。現在は南ア第二都市のケープタウンに25,000㎡規模のDCを建設中です。
動画1:TakealotのヨハネスブルクのDC
南アでは、Takealotのようなマーケットプレイス型のECサイト他Walmart系列のMassmartのサイトなどもありますが、ブランドによる直販サイトも珍しくありません。例えば海外ブランド(FILA 、le coq sportif、PUMAなど)や南ア発ブランド(時計ブランド大手のHALLMARK Watchなど)が南ア全土を配送網とする自ブランド専用のECサイトを展開しており、これらの企業のECを支えているのが物流スタートアップです。
例えば上記ブランドはすべて2015年南ア発のPargoというスタートアップとラストマイル配送で協業しており、同スタートアップは南ア国内に2,500個以上のピックアップポイントとドライバーを抱える。Pargo以外にも、Picupという2015年発の物流スタートアップもブランド専用ECの配送をサービス領域の1つとしているが、単なる配送ではなくドライバーの輸送最適化システム(ルート最適化のみならず、ドライバーの運転中の動きの検知、ブレーキや燃料利用動向のモニタリングなど)にも踏み込んでいる。このほかにもOrderinという2012年発で、これまで食品の短距離配送に特化していたスタートアップがEC事業の配送を拡大すると明確に謳っている等、物流スタートアップが競い合い/成長することも、南アのEC市場の急成長のステージを支えていく重要なポイントだと感じています。
写真2:Pargoのピックアップポイントは全国2,500か所以上
アウェアネスの向上もオンラインで
ところで、EC販売前に市場認知度を上げるためのアウェアネスが必要では?と思う方もいるかもしれませんが、南アではアウェアネスの向上もオンライン化が進んでいます。
2021年の欧州の調査会社(Sortlist)調査によると、南アはグローバル42か国中4番目にSNS利用時間が長い国とのことで、一人当たり、1日で平均3時間32分、1年に均すと54日間もソーシャルメディアを利用していると分析している(対して米国は21位で1日に平均2時間7分、1年で32日間)。
このようなトレンドも踏まえ、ソーシャルメディア・マーケティングに特化した地元企業も出てきている。TheSALT(写真3)という南ア発の会社はSNS上のインフルエンサーを育てたうえで、企業にマーケティング支援を行うサービスを実施している。加えて、2021年前半からライブマーケティングプラットフォーム(Palm TV)も開始され、オンラインでライブコマース、ライブ動画での即売が可能となった。
実際に昨年2021年にAAICが行った調査でも、「南アでのライブマーケティングをはじめオンラインのインフルエンサーを活用したマーケティングへの注目度は高く、今後5~7年で更に影響力が高まるだろう」とグローバル大手化粧品会社のマネージャーが話していた。
写真3:TheSaltは南アのインフルエンサー育成を通じたオンラインマーケティングを手掛ける
海外企業にとってはチャンスか
ここまで述べたように、南アでは認知向上という意味でのオンラインマーケティングのポテンシャル、及び、販売という意味でのEC市場の急激な成長というトレンドがあるといえます。実拠点を置かずしてもスタートアップの力を借りながら認知度を向上の上、販売を拡大していく(すべてオンラインで)という時代が足元で迫っているのではないかと感じるともに、そのトレンドを活用の上南アによりよいプロダクトを提供する企業が増えることを今後も期待しています。
文章:AAICマネージャー、AAICヨハネスブルグオフィス代表 野村 悠里子
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