「あげるから!」 足早に駅へ向かうスーツ姿の彼がそう言い放ったので、落としていった名刺を持ったまま、私はぼうっと突っ立っていた。 「あげる、って…。」 今会ったばかりの、会ったというよりすれ違っただけの赤の他人の名刺をどうしたものかと眺める。 個人情報満載の紙切れは、おそらく警察か落とし主の会社に連絡をしなくちゃいけない気がする。 「面倒くさいな…。」 私も急いでいる身なので、後にしようとひとまずパンツのポケットにねじ込み、バイト先に向かった。 「お疲れ様です。」