「前髪カット1,000円」
私は美容院が苦手だった。過去形なのは、今では少し好きになったと言えるから。
私にとって美容院は、行かなくちゃいけないけどちょっと緊張する、そんなところだった。キラキラの最たるところのような気がして。
だから私は、前髪が伸びるといつも自分で適当に切っていた。家庭用のカットバサミでざくざくと。
ただ面倒くさがりな私は、自分で切るのもまあまあ面倒で。あるとき、前髪の長さが我慢できなくって、切りたいなあと思ってたところに「前髪カット1,000円」の看板が目にとまった。もう切ってもらおう!そう思って、お店に入った(行っているネイルのお店のすぐ下にあってお店の存在は知っていたのと、美容院に入る嫌さ以上に前髪がうっとうしかったんだと思う)。
お店のドアをそっと開け、「あの、前髪カットしてほしいんですけど・・」と遠慮がちに告げた。
すると髪を切っていた美容師の男性は、私を見て、「どうしても切りたいなら切ります。けど、切らないっていう選択肢もありじゃないですか?」と。
ええ???
前髪カットしてほしいって言ってるのに?とあっけにとられる私。
「よかったら今度予約してゆっくり来られませんか?」と言われ、「ああ、はい。」とお店のカードを受け取る私。なんだかんだおじさまのスペースにのせられてしまった。
それから数日後、私はふたたびその美容院へ(当時何年か通っていた美容院があったけど、前髪を切るくらいなら他でもいいかなと思った)。
そしたらおじさま、「この間はすみませんでした。変に思われたでしょうね?ただ、もしいつも伸びたら切るっていうことをされてるなら、少し何か違うお話もできるのではと思って。」と。
で、次に、「この中からどういうイメージがお好みですか?」と言って、タブレットでいろんなヘアスタイルを見せてきた。いくつか選んで伝えると、「でしょうねえ。」と・・
それから数ヶ月経ったいま、私の前髪は、もうすぐあごにかかるくらいの長さまで伸びた。そして、数年ぶりにパーマをあてた。
ずっと、伸ばしたいと思っても我慢できなくて切ってしまっていた前髪をここまで伸ばせるなんて、もはや奇跡。
それはおじさまとの、「大人になる計画」があったからだ。
もともと童顔な私を、少しでも大人風にする計画。それをいまも進行中。
似合う髪型とか、どうしたらいいのかわからないから美容師さんに見てほしいけど、ネットで予約するにはメニューを選ばないといけない。
飲食店みたいに、席だけ予約があればいいのになって思ってた。
ここの美容院は、それをやってくれたんだなって思う。
おじさま1人でやってる美容院だから、なかなか予約が取れなかったり、前のお客さまと話し込んでて時間がずれることもよくある。
けど、それでも私はしばらくここに通うのだろうなと思うのは、私のことを考えて提案してくれる、そんな真摯な姿勢が伝わってくるから。
今日はどうしますか?もいいけど、どうしていくか考えましょう!が、美容院音痴の私には嬉しかった。
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