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過ぎ去った嵐と夜の瑞々しさ

あれは嵐だった。
いつだって、あとから振り返ってみればよくわかる。

晴れ渡る空を、薄雲から差し込む光を、まろやかな日差しと、刺すように冷たい風がわたしを通過してはじめて分かる。あれは、やはり、毎年恒例のごとくやってくる嵐だった。
抗わないようにと、わたし自身はどんどん丸くなっていくけれど、いつだって悲しみの記憶は容赦なく覆いかぶさってくる。どうしようもない。逃れられないとわかっているからこそ、本当にどうしようもない。

それでも、その嵐が過ぎるころにはちゃんと、流れ星みたいに“見た人にしか届かない贈り物”をくれるから、生きるってことはなんて皮肉なほどに奇跡なんだろうと思う。
人生自体にはさほど意味などなくて、いつだって人生のほうからわたしたちを試してくるんだ。

目を見開くような、美しい月明かりの下「こんな救われるようなことがあるんだな」と震える身体を支えるようにして帰った夜。あの出来事を、あのときの決意を、身体が保有する水の透明さを、美しい気持ちのまま綴れるようになるにはどうしたらいいのだろう。

心許ないわずかな街灯を歩くわびしい気持ちと、自分の願望ではどうにもならない体を持て余しながら、横断歩道の向こう側にお互いの共通言語をもつ仲間をみつけたわたしたちは、すれ違いざまにはじまりの合図のようなハイタッチを交わして再びそれぞれの場所へと向かう。
普段は取り出すことのない秘密の宝箱をそれぞれひらきあって、あぁ、その宝石はとてもきれいだね、とか、この色はとても深くていいね、なんて言って慈しみあったような夜の瑞々しさ。

あのせつない希望に満ち溢れたきらめく夜を、これからわたしどう生きればあなたに伝えられるようになるのだろう。
あれから、ずっとそんなことばかりを考えていて、なんとかその羽先をつかもうと微かに残る新鮮な気持ちのままでタイピングしていたら、突然彼に会いたくて仕方なくなってしまった。
とめどなく溢れてしまう想いを、きっと彼は取りこぼしてしまうだろう。わかってる、でも、もうこんなわたしを渡せるのはすっかり彼しかいない。

たとえ、受け取り方が拙くてもいいから、ちゃんと渡してゆきたいと思うのは野暮だろうか。そんな風に思って、これはまるで恋の嵐だと笑った。

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