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普通についての覚書 本を読んだ


「夫のちんぽが入らない」というエッセイを読んだ。

出版時から気になっていたがパンチのある名前なのでどうだか、と足踏みしており、今になってやっと読んだ。
本自体久々に読んで色々と考えたので、せっかくnote始めたし残しとこ〜。
ネタバレするので、やな人は、見ないでね。

あらすじ。
主人公である筆者は大学入学のため田舎から出てきた女性。のちの夫と引越し先で出会ってすぐに両思いになり付き合う。楽しく過ごすがだがなぜかセックスだけできない。しかし精神的なつながりを深め、20年過ごす。

物語のポイント。もちろん、ちんぽがはいらないところ。
これがマジで入らない。夫のものも大きいらしいが、物理的に何かに拒まれている。
そこまでだと、何か手順が下手なだけでは…なんて思ったりもしたが、ローションなどを使っても半分しか入らず、しかも裂けて血まみれになってしまう。どうがんばってもできないのだ。
そこから主人公は不能感に苛まれる。男が彼女とできないのはかわいそうだと悩む。

最初は主人公の考え方に共感しながら読んだ。主人公は自己肯定感が低かった。
「男の人と付き合うのはなにかしら我慢しないといけないことだと思っていた」と言っている。私も「自分がものを選んで良い」ということに気づくのにかなりの時間を要した。今も少し難しい時がある。主人公は好きな人と付き合って、今後何か救われるのだろう。たとえちんぽが入らずとも。

しかし読み進めるにつれて違和感を感じるようになった。最初は、恋人ができて楽しいところから徐々に翳りだす内容への不安からかと思った。読み進めるにつれて違和感は大きくなっていく。なんだこの気持ち悪いのは。どうか、どうか主人公を、私によく似た主人公を救ってくれ。そんな風に考えながら読んだ。

最後まで読んだが全然違った。
この本は、「ちんぽが入らないという普通じゃないこと」の話ではなかった。

主人公と夫はセックスができないが、2人ともセックスはしているのだ。
他の人とは、できるのだ。

夫は隠れて風俗に行く。(風俗だけじゃないかも。)
主人公はネットで会った人とする。

主人公は仕事で心を病む。しかしそれを夫には全く言わない。
夫は朝早く起きてエロビデオで抜いて二度寝するので、主人公の作る朝ごはんを毎日捨てて仕事に行く。

えっ
破綻してね?

これちんぽ入ってても破綻してね?
夫婦かこれ?

(といっても私は夫婦というものを間近で見たことがない。物心ついた時から父も祖父もいない。夫婦というものに過剰な憧れを持っているのかもしれない。)

私がこの状況だったら別れ考えるけどなー。子どもがいたり夫の収入に依存してたら、すぐには無理かも。でもなー。しんどいなー。
しかし内容的に、利害一致で一緒にいる訳では無い。主人公が心を病み、仕事を辞め、病気になり…人生の様々な点で夫とのつながりを深めていった、らしい。

それが、描かれていない。
しっかりとは描かれていない。

どこが好きで、一緒にいるとどう落ち着いて、こんな大変な時にこう助けてくれた、そんな話はない。
なんなら、夫に「仕事を辞めようと思う」と言うと「好きにすれば」とだけ返ってくる。

『はあ!?もうちょっとさあ、興味くらい持ってよ!共感したらいいねお願いします。』
普通のインスタ愚痴アカウントだったらこう続けるのではないだろうか。

しかし、主人公はそれが良いのだ。
「好きにすれば」が、夫の信用があってこそ出た言葉だとわかっているから、らしい。
全体を通して、どうやら夫婦関係が冷え切っているわけではないらしい。それなりに楽しんでいるっぽい。
この本だけ見てはたから見てると「なんで別れんのや…」と思ってしまうが、付き合った頃から2人はもうそんな次元じゃなかった。どこを切り取っても別れるという選択肢が全くなかった。

冒頭「我々は植物のようにひっそりと暮らした」と描かれているように、2人はたまたま横に生えただけの2本の木のようだった。互いに日当たりの邪魔にならぬように、触れて腐らぬように、うまく避けながら絡まり枝を伸ばす2本の木。何気なくやってのけるが、根腐れせずに、日当たりを阻害せずに大きく育つのは奇跡に近い。

「ちんぽが入らない」という大きな事件に隠れているが、「ちんぽが入らない」以外の、彼女らの「普通」が全然普通じゃなかった。
しかも「普通」だからあんまりちゃんと描かれていない。違和感の元はこれだった。彼女らの家の壁になって1日観察してみたい。

あとがきにて、作者がもらった批評として「救われない」というのをあげていた。
自分をリンクさせて読んだらそりゃあ、救われない。2人の普通が、普通じゃないのだもの。


総じて読んでよかった。ただ、美味しい料理の付け合わせが全然知らん国の保存食だった時みたいな裏切り感でちょっと疲れた。ちんぽが入らない衝撃には身構えてたけど、カウンターだなー。


終わりかたがわからないや、笑
小学生ぶりに読書感想文書いたな。普段必ず絵を付けるから文字だけだと不安だ。忘れた頃にひっそりと見返そう。

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