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『優しい嘘とトーキング・モジュレーター』(600字, ショートショート, W015のオマケ)

噂話や見え透いた嘘は、トーキング・モジュレーターみたいなものだと思うようにしている。

トーキング・モジュレーター――楽器からアンプを介し、細いホースを通ってその奏者本人の口腔へ送り込むその奇異な音は、もちろん人の声ではないのだけれど、口を動かすことで反響の変わるその音色のせいで、まるでその人の喉から発せられる声のようにも見える。

――その人の声でないものを、その人の言葉と思い込む。
噂話は当人の声を知らないが故の誤解であり、見え透いた嘘は当人を知るが故の思いやりで、それを嘘と指摘はしない。
ただトーキング・モジュレーターから発した音はその人の声ではないが、その人が身体を使って奏でたものであることには違いない。

そしていま目の前にいる私のおばあちゃんにも、細い管が口に挿入されていた。
ただならぬ騒然のなかに私はいたのはずなのだが、救急搬送を知らせるサイレンも、救命士の荒れた息遣いも、看護士の切迫した専門用語も、私の耳には届かなかった。
私は閑のなかにいた。
彼女の両手を握り締め、そして待っていたのだ。
おばあちゃんの口から、そのトーキング・モジュレーターから出でるファンキーな音を。
しかし私だけに届いたその残響はあまりにも優しく、はっきりとした音色で、それが嘘だと分かりつつも嘘だと感じられなかった。

「あなたはわたしのみらいのなかにいる。だから、あんしんして、すきなようにやりなさい」

[End Of Text]


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