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「Aさんがいなければ僕が受賞したのに」<小説家になる>

一回の応募で受賞して小説家デビューをしたという人には、会ったことがありません。そういうウルトラスーパーグレートな人もいるかもしれませんが、私たちのような普通の人にはあり得ないことです。

知り合いの作家さん、みんな苦労しています。

出会ったばかりは隠しているものですが、仲良くなってくると苦労話がポンポン飛び出します。

「Aさんが受賞したとき、僕は最終選考に残ってたんですよ。Aさんがいなければ僕が受賞してたのに」
長く応募を続けていると、賞の常連が分かるようになります。予選通過者のリストで何度も目にするからです。この話をしたBさんも別の賞でデビューできたからこんな笑い話もできますが、応募活動中は本当に、敵なのです。

みなさん、何度も応募して予選を通り、さらに頑張ってやっとの思いで最終選考へ残ったのです。受賞までに10回、20回応募したという人もいます(私がそうです)。

小説が上手くなるために新人賞を活用する

小説家になるためには、たくさん書くこと、そして最後まで書き上げること。これは誰もが言うことです。

しかし誰にも応援されずに、誰かに読んでもらえるかも分からずに、ひたすら黙々と原稿用紙を埋める(ワープロですが)のは大変なことです。
アイディアが湧かずに才能の無さに嫌になって投げ出したくなったり、もっと他の有効なことに時間を使えばいいのにと何度も思いました。
「こんなレベルでは新人賞に出せない、出してもどうせ落選する」

そういう負の感情と戦うために、私は発想を変えました。
「新人賞に応募するためには、上手くならなければ」ではなくて
「上手くなるために新人賞を利用する」と。

たくさん書く、書き上げる
そのためにはモチベーションを下げないことが大事だと思うのです。そのために新人賞を利用することにしました。
一生懸命書いた小説を評価してもらう格好の機会が新人賞なのです。誰にも知られずに孤独な執筆作業をしている時間から、応募をして、評価を待ち、成果を楽しみにする時間にチェンジできるのです。結果を楽しみにしながら、新しい小説を書くのは気分が上がります。
私は書き上げたら躊躇なく応募をするようになりました。

小説新人賞の応募でリズムを作る


私は公募新人賞のリストを作りました。
賞の名前、ジャンル、原稿枚数、賞金、締切り……
※写真は当時のものです(この時は乱歩賞の賞金が1000万円でした)。
ほとんどの賞は応募締切りから予選結果発表まで数ヶ月かかります。受賞作発表までに半年かかる賞もあります。

その発表までの待ち時間に次の小説を書いて、別の賞に応募する
すると常にどこかの新人賞の結果を待っている状態が作れます。
12月に予選結果発表があるなら、そこで落ちても次があるように、12月までに別の賞に応募しておくのです。一年に何作も書いて応募することになります。初めは大変でしたが、自分だけの年間スケジュールを作り、自ら締切りを課すことになりました。

スケジュールや目標、納期があると燃える。
そういう人は多いと思います。私はそのタイプでした。
それが日々のリズムになり、創作の励み、書き上げることの達成感を生むことになります。
あと何日で一次選考、それから何日で最終選考とか、結果を待っているどきどき、わくわくする時間・・・
これが途切れないようにするのです。

落選して落ち込んだことはありませんか?
あの虚無感、徒労感、絶望感は執筆の敵です。あの時間は執筆の手を止めてしまいます。
たとえ落ちても、次の発表がある。その発表を待ちながら、今度はもっと良い作品を書いてみせる。
「次に行こう」
そういう気持ちに自分を奮い立てようとしたのです。

そうして応募を繰り返す内に、気がつくと自分の小説が増えていきます。たくさんのストーリー、登場人物、シーン、謎とトリック……。小説を書くということに慣れて、コツが掴めてきます。
「よし、応募完了! 次は○月までに○○賞に向けて頑張ろう。まずはアイディア出しから……」
この始動がしやすくなり、執筆が体に馴染んできます。

そして予選に名前が残るようになりました。私は着実に自分の小説のレベルが上がっていくのを感じました。

以上です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

【予告】次回は矛盾することを言います。


追記:この後、60本の記事をマガジンにまとめました。
全体の構成はこちらからどうぞ。

現在、noteに連載中の小説です。よかったら読んでみてください。


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