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雪女
“Blizzard OH! Blizzard 包め世界よ"
午後のゲレンデにユーミンが響いた。
それまでゲレンデに流れていたのはおじさん二人のおしゃべり。
ずーっとイベントの説明やカルタ大会なんかをやっていて、二人でくっちゃべってたマイクからの音声が一休みしてからのユーミンだ。
地元のスキー場なのに、ユーミンマジックでJR東日本乗ってやって来たシティボーイ集う苗場スキー場に見えちゃう不思議よ。
ナウでヤングな若者がたくさんいるわよ的なノスタルジアと共に、日本にも昔あったキラキラとした時代のかほりが漂う。
その日は朝から子供のスキー教室だった。
朝の8時の冬の道。
スキー場に近付くとまるで別世界の雪深さ。
雪の轍。
横は崖。
轍の中をガクガクブルブルしながら運転してたどり着いたスキー教室。
別にウェアも着てないし相方様もおらず一人で子供見守ってただけなのに、ただ付いて来ただけなのに、道中ちょっぴり怖かったけど、それでも流れてくる音楽でゲレンデに居る高揚感をマシマシにしてくれるユーミンマジ最高やでと思いながらまた雪の轍をガクガクブルブルしながら帰路についた。
“Blizzard OH! Blizzard 包め世界よ"
もちろん帰り道も頭の中に響き渡るはユーミン様だ。
シュプール描くように何度も何度も頭の中で繰り返す。
この冒頭の一節聞いただけで雪の舞う白い世界にいざなわれてしまう。
上昇する心拍は急な斜面にドキドキしてるからか追いかけている背中への距離感がそうさせるのかすっかり曲中の登場人物になり変わる。
天才や。
雪の女王はエルサじゃなかったんや。
とっくの昔にポップスの女王は
人々をゲレンデにいざない恋人達を雪の中に閉じ込めて二人の世界にしてしまう雪の女王でもあったんや。
コナン君に出てくる服部平次並みに謎の関西弁で脳内でユーミンをひたすら礼賛しながら帰った。
家に着くと、とりあえず今日の出来事を家族に伝えるべく連絡する。
子供がスキー板の着脱に四苦八苦しながらも、コーチと共にリフトに乗ってゲレンデを無事滑るという体験を通し、スキーの楽しさを実感してまぁ申し込んで良かったねと、保護者として至極当然の感想とそして、
ユーミン最高やで。
ユーミン最高やで。
ユーミン最高やで。
想い。
何らかの想いが発生したのなら、それは伝えなければならない。
心動く体験によってそしてそれを伝えようという原動力によって人類は言葉を獲得したんじゃないのかい。猿から人への進化を遂げたんじゃないのかい。そんな人類の末裔が私なんだよ。ミスターローレンス。
ユーミンこそがエルサの前に日本に君臨した雪の女王であること。
“包め世界を" "閉ざせ二人を"
雪の精霊に乞い願う、恋する乙女視点の歌じゃなくて、恋する恋人達にそっと吹雪で二人を閉じ込め雪を操る女王様。それがユーミンなんだよと、エルサが居なくてもゲレンデにはユーミンという雪の女王がいたんだぜ、タイアップでこんな色褪せない名曲仕上げて本当にユーミンは天才だよポップスの女王や雪の女王やで!!
言葉を覚えた人類の末裔として
私は今人生の伴侶に
今日感じたユーミンの素晴らしさを
伝える責務があるんやと
謎の責任感のもと
普段にはない熱量で伝えた。
「どんなふうに曲作りの依頼されたんか知らんけど、凄いよね、ジブリの曲とかも、鼻に付く要素一切なく時代も老若男女関係ない、耳にずーっと残る曲が作れるのって」
うんうん
そうでしょ
そうでしょ
分かってくれてありがとう。
さすがチームロックの一員。
心優しきくるりの民。
ありがとう。
ありがとう。
嬉しいよ。
伝えるって大切だよね。
共感するっていいよね。
家族だもんね。
これからもよろしくね。
なんて我がチームの結束に
にんまりとしていたら
「ユーミンって雪の女王っていうか」
「雪女だよね」
だってさ。
あん?
おしまい。