福祉施設のパンはなぜ安いのか①:PSWの福祉コラム
こんにちは、PSWライターのりくとんです。皆さん、福祉系施設のパンって買ったことありますか?最近では、意識せず入ったお店が実は福祉系だった、なんてこともよくあるようになりました。(我が家の行きつけのうどん屋さん、仕事帰りに寄り易いパン屋さん、実は施設系列だったのを知って先日びっくりしたところ)
そういうところのパンって、『手間暇かけてる割に一個150円しない』なんてことも多く、この材料高騰時代に採算取れるのかな?と思うこともしばしば。
ということで今回の福祉コラムです。『福祉系のパンは何故安いのか』を切り口に、「なぜわざわざ採算の取れないような低価格で提供してるのか?」そして「なぜそんな低価格で提供できるのか?」といった疑問に答えます。
また明日投稿予定の「その②」では、商品の価格設定のあるべき姿について言及し、福祉商品としての枠を超えることの重要性について述べていきたいと思います。是非合わせて読んでみてくださいね。
福祉施設の価格設定条件
福祉施設で作られたもの…パンに限らず、焼き菓子、小物、ファッション雑貨、いろんな手作りのものがありますよね。これら福祉系商品の多くに言えることの一つに、「掛かっている手間の割に安い」ことが挙げられます。
最近でこそクラフト作家さんの活動のおかげで『オンリーワンの価値』が見直され、手作り商品の相場が上がってきていますが、以前は(福祉業界に関しては)あまり高値が設定できない風潮がありました。
というのも、一昔前は「福祉商品の購入=募金」の感覚がとても強かった。購入者が募金感覚なのですから、あまり高すぎると買ってもらえません。そして、あまりプロ仕様でも買ってもらえないのです。(梱包代分高くなりますし、あまりに既製品っぽすぎても消費者の『社会貢献した!』って気持ちを刺激しないんですね)。
つまり言いたいのは、一昔前の常識では「福祉製品とは障害者が頑張って作った手作り感あふれるものであった」ということ。そのため福祉商品を作る際には「完成品の素晴らしさ」より、そこに至るまでの「感動のストーリー」と「募金感覚で手が出せる低価格」が重要視されたのです。
残念ながら、その風潮は今でもあとを引いています。だからいまだに、福祉施設商品の価格設定は赤字が出ない最低ラインであることが多いのです。
安さのカラクリ:支援費制度
では、なぜ福祉施設の商品がそこまで安く出来るのかについて説明していきましょう。商品を安く提供するためには経費部分の節約が必要です。もちろん福祉施設であってもそれは同様。一般企業と同じように、仕入れ値を工夫したり、簡易包装にしたりと節約もしています。ただ一点一般企業と大きく違うのが、福祉施設では「人件費」がかなり少なく済んでいることです。
多くの福祉施設では、サービス利用をしている障害者をメインの労働者として据え、その現場監督員として福祉施設職員を配置します。わかりやすくイメージするならコンビニですね、正社員数名で20人近くのパート・アルバイトを束ねて営業している状態。
ただ普通のコンビニと違うのは、パート・アルバイト一人につき一日○○円と国から決まった支援費が支給されること。福祉施設は、障害者に「働く場を提供する」というサービスを行っているわけですね。だから、そのサービスに対しての対価が国から支払われている。この対価部分が「正社員」の給料部分に当てられるので、お店の売上からは正社員分の人件費を出さなくて良い、というわけです。
(障害福祉サービスにどのようなものがあってどれくらいの支援費がもらえるのか、興味がある方は下記リンクからどうぞ!)
安さのカラクリ:作業工賃の安さ
さて、ここで残っているのが「パート・アルバイト」部分の人件費です。じつは、ここにも福祉施設特有の人件費事情があります。
障害福祉系のサービスには、「就労移行支援」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」という3つのサービスがあります。この三つのサービスのうち、「最低賃金」を保証しなければならないのは「就労継続支援A型」のみ。主となる労働者にかかる人件費が低いことも、福祉施設商品の安さの要因と言えるでしょう。
余談:就労系の福祉サービスについて
せっかく話題に登ったので、就労系福祉サービスがどのような目的で行われているのか、それぞれについて説明してみましょう。
就労移行支援
就労移行支援では、提携企業や施設の作業場で実際に働きながら、最終的には一般就労へのステップアップを目指します。具体的には、実務を通じて一般就労するための体力づくりをしたり、学科としてビジネスマナー講座を受けたりと、ひとりひとりの障害特性に合わせた訓練を受けていきます。
位置づけとしては職業訓練校・養成校のようなものなので、作業の結果福祉施設側に企業からの報酬が発生しても、それを就労者本人に渡す義務はありません。こちらの利用期間は原則2年間。1年の延長まで認められています。
就労継続支援(A型・B型)
就労継続支援A型・B型は、一般企業で働くことに不安のある障害者を対象とした就労サービスです。就労継続の名のとおり、障害特性を理解した専門スタッフのもとで期間の定めなく就労が行えます。
就労継続サービスA型とB型の違いは、雇用契約の有無。就労継続A型では雇用契約があるため最低賃金が保証されますが、労働能力、継続勤務能力など「雇用契約」に足る就労能力が求められます。
一方の就労継続B型では、雇用契約はなく最低賃金も保証されません。ただ、A型ほどの就労能力や生産能力が求められないため、体調がいまいち安定しない方でもぼちぼち働けるという利点があります。
その①のまとめ
余談部分のせいで、思いの外長くなってしまいましたね。今回は、福祉系施設の商品が安い理由について解説しました。
今回は、『消費者側の需要的に、販売価格が上げられなかった話』、そして『価格を下げられる環境が整っていた制度的現実』についてお話しました。この2点が、福祉系商品が安い理由です。でもこのままでは、福祉系商品は障害者の収入を支えるに足りません。
次回は、一般的な販売価格での価格設定に成功したケースに加え、『福祉系商品』というカテゴライズから脱却する重要性についてお話していきたいと思います。