『詩歌』星は道を照らしてくれない
それは夕暮れの帰り道、自転車を押して帰る道すがら。昨日の部活の帰り道、あまりの暗さに空を見上げたと、話すのはあなたの横顔。
「星がね、すごく綺麗だったよ」
そう話すあなたのこと。震える胸を気取られぬよう「そうなの」と言った。
短く刈り上げた髪がセーラー服とアンバランスで、あなたはジャージを好んでいたけど、帰り道に揺れるスカートの裾はいつもよりあなたを柔和に見せる。
この愛は。この恋は誰にも知られてはいけない。
「星って道を照らしてはくれないんだねぇ」
石につまづいたんだよとあなたは笑った。「上見てたせいじゃないの」と私はからかう。
星は道を照らさない。そうであるならば、キリストの生誕を知らせたベツレヘムの星も賢者の道を照らしはしなかっただろう。賢者さえも照らされないなら、私の気持ちまで照らすことはきっとない。
暮れていく秋空の、移り変わりはまるで万華鏡のように忙しない。あなたの横顔が、少しずつ夕闇に溶けてしまう。
あなたと歩くこの瞬間、あなたを見ているその瞬間、私は少し肌寒くなった晩秋を感じる。夏に取り残されたトンボが横切るのを、あなたを追う視界の端で視認する。
でもあの道であなたと別れたら。あなたが坂を登るのを後ろ目に見送ったら。また私は「私」の皮を幾重にも被り、私に望まれる「私」の役割に徹するのだ。
星は道を照らしてくれない。私のこれからも照らしてくれない。たとえあなたが私のベツレヘムだとしても、あなたは私を照らさない。
でもそれでよかった。この愛は誰にも届かない。神様どうか、「親愛なる隣人」を愛した私を許してください。私を照らすものさえなければ、私はこの愛を土の中まで持っていける。ただ、ただの親愛のままに。
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駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!