イケメン巨根おじさんについて6〜飲み会編〜カラオケの選曲という難問。
時刻は日付を回っていた。3人いた常連客のオッチャンが1人に減っている。
ママの「帰れ」のオーラを感じる。
そんな中、何を思ったのか、この気持ちの悪い夫婦はセックスの話を始めた。
私は引いていた。ドン引きしているのが、全顔面に表れていた。
「下ネタ苦手な人?」
メンヘラちゃんが何故かちょっと上から聞いてきた。
何故ちょっと上からなのかは少し気になったが、私は下ネタが嫌いでは無い。
むしろ愛している。
「ちんちん」というワードだけで小一時間は笑えるのでは無いかと思うくらいには好きだ。
しかし、私が好きなのは下「ネタ」であって、猥談ではない。
猥談と下ネタでは全くの別物である。
この夫婦が話しているのは、紛れもなく猥談だ。
誰が上司夫婦の性事情を知りたいというのだ。
これを聞いて私達は笑ってもいいのか?
これは笑ってもいいやつなのか?ダメなやつなのか?そもそも笑わせようとしているのか?
一体、何の時間なんだ?
「いや、そんな事ないです…。」
私は、控えめにそう言った。私は意図的ではないのだが、結果的にとてもカマトトぶってしまったようだ。
「ふーん。」
私は、先程からこの女に、目には見えない攻撃をされているような気がする。
そんな時、「あらよちゃん、あらよちゃん、何か歌おう!」
ハイテンションな強面の男は、マイクという助け舟を私に差し出した。
これは天然なのか、気遣いなのか。こんなに顔が怖い人間が、そんな繊細な気遣いができるようには誰も見えない。
しかし、この完璧なタイミング。この男を、歴史上の偉人として教科書に載せるべきだ!
私は、差し出された助け舟に乗り込んだような気持ちで、マイクを手に取った。
結果的に言うと、私はその助け舟に上手く乗り込む事はできなかった。
何を思ったのか私はバラード曲を選んでしまったのだった。
歌いながら物凄い後悔を感じていた。
なんなら、開始数秒で『あ、間違えた』と悟った。
確実に間違えた。
まるで私のソロコンサートかであるかのように、黙って皆が私の歌声を聞いている。
アルコールと緊張により、かなり外れた音程であったであろう、私の歌声に皆が注目している。
しかし、もう始まってしまった曲だ。中断する事はできない。
自分が飲みの席でカラオケを歌っている時、できる事ならBGMくらいに捉えて会話を続けて欲しいものである。
見事に助け舟には乗れず、私は溺れてしまった。
ありがとう。チンピラさん。
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