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ハイボールシンデレラ26〜ありがとうトウコちゃん〜



俺は炒飯の店に着いて、まず思った。

なんて、汚い店だ。と




今にも倒れてしまうのでは無いかというくらいの作りの建物の古い扉の前から行列が続いている。


「初デートにしたら、思ったよりも雰囲気無い感じで、ごめんね。」

俺は申し訳無さそうに小声で伝えた。

「全然気にしないよ。ていうか、凄い人気なんだね。楽しみ。」と、トウコちゃんは満面の笑みで俺を見た。


なんて良い子なんだ。こんなに綺麗で性格も良いなんて、ありえるのか。

何かとんでもない欠点があるに違いない。なんて、考えを巡らせてしまった俺はなんて醜い心の持ち主なのであろうか。

しかし、彼女は曇りのない眼をしていて、裏がある人間には到底見えない。


「ありがとう。じゃあ、並ぼうか。」

俺達は、最後尾に並んだ。



俺は、スマートフォンの画面をトウコちゃんに見せた。


「この間トウコちゃんと初めて飲んだ時に、ミナミくんが炒飯の話してたじゃん。

それから俺、ずっと炒飯の口でさ。調べてたらここが出てきたんだよね。」

と、物凄くアホっぽい理由を説明しながら、今並んでいる中華料理店の人気炒飯の動画を表示させた。


「そんな理由なんだね」と言って大きく笑ったトウコちゃんは、「めちゃくちゃ美味しそう。楽しみだね。」と笑った。



天使だ。


過去に付き合っていた女性を、古い外観のテーブルが少し油っぽいラーメン屋に誘った際、

「こんな汚い所に連れて来ても良いと思うくらい私の事を舐めているのか。」と、帰っていったという経験があったため、

汚い店に連れて行くのは少し恐怖心があったのだが、トウコちゃんと大人気の炒飯がどうしても食べたいと思ったのだ。



この中華料理店は面積が小さいため、席数も少ない。一人一人の食事を待つため、列の進む流れは早く無い。


しかし、トウコちゃんとの会話が心地良く、時の流れが早く感じた。


最後尾で、店からはかなり離れていたはずの俺達は、着々と店内へと近付いていっていた。



行列の中で、俺はトウコちゃんを会話で楽しませようと意気込んで来ていたのだが、トウコちゃんからも話題をよく提供してくれて、逆に俺の方が楽しませてもらっている感覚であった。



あっという間に列は進み、順番は間近だった。


「なんか、トウコちゃんと喋ってたら行列すぐだったわ。もうすぐ食えるね。」

「ねぇ、私も同じ事言おうとした。タツヤくん凄い話しやすいね。」

トウコちゃんはまた満面の笑みを見せてくれた。


笑顔が可愛い女性というのはかなり強い。

トウコちゃんの笑顔にかなりの打撃を受けた俺は、「ありがとう」と色んな意味を込めてトウコちゃんに伝えたのであった。



ありがとう、トウコちゃん。

ありがとう、こんな可愛い女性を産んでくれたトウコちゃんのお母様、お父様。


俺の脳内は完全に花畑。アラサーになって、汚い恋愛ばかりをしてきた俺にもこんな感情を生む事ができたのだと少しばかり感心したのであった。


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